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4


 死んだ人に会える日。
 けれど、まとは・オーリエンダー(まとは・おーりえんだー)は会わないと言う。
 なので、というわけでもないけれど、本宇治 華音(もとうじ・かおん)は自分が会おうと思った。
 代わりのつもりもない。純粋に、華音がまとはの姉に興味があるのだ。まとはの姉は華音に酷似しているというし。
 華音は時計を見た。午前九時を少し回ったところだった。
 会えるなら、早く会ってみたい。一度あたりを見回すと、
「……え?」
 ばちり、一人の女性と目が合った。彼女は、一瞬鏡か何かを見たのではないかと思うくらいに自分にそっくりで。相手もそれに気付いているらしい。お互い、目を逸らさないまま立ち尽くす。
「……あの、もしかして、こうはさん……ですか?」
 気付けば、話しかけていた。彼女が、こうはが、こくりと頷く。
こうは・オーリエンダー……まとはの姉、です」
「やっぱり。私、本宇治華音と申します。まとはのパートナーで……」
 自己紹介をしつつ、こうはのことを見た。それにしても本当に自分とよく似ている。髪の色や目の色、肌の色こそ違うものの、その他は髪型に至るまで瓜二つだ。もっとも、結んでいるのは自分と逆側だったけれど。
 ついまじまじとこうはのことを見ていると、こうはが小さく口を開いた。
「妹は、元気ですか?」
 不安そうな、心配そうな顔。まとはのことを想っている。会ったばかりの他人である華音にもそのことはよくわかった。
「元気ですよ。今は私や他のパートナーたちと共に、平穏な日々を送っています」
「そう、ですか」
 華音の話を聞いたこうはが、ほっと息を吐く。けれど表情は少し暗い。憶測ではあるが、まとはが来ていないことを残念に思っているのだろう。せっかく、会える日なのに。
「まとはは、敢えて来なかったんです」
「え?」
 こうはの憂いを飛ばすように、華音は話し始める。
「やっと、こうはさんが亡くなったことを受け入れられて、気持ちに整理もついたから、って。
 ほら、今日会ったらまた別れを経験しなくちゃいけませんから。それは、辛いと」
「……そう、ですね。その通りかもしれません。私も、まとはに会ったら、すごく嬉しかっただろうけど……きっと、辛くなってしまう」
 悲しそうに、でも納得がいったようにこうはが笑った。
「華音さん。もっと、まとはのことを聞かせてください。あの子が生きている今を」
「もちろんです」
 それからたくさんの話をした。
 誰と仲が良いとか、昨日は何をしていたとか、他愛のないことまで全て。
 段々とこうはの表情は和らいで、最後の方には笑顔も見せるようになった。安心してくれたらしい。
「まとはは、幸せにやっているんですね」
 はい、と力強く頷き。
「私、こうはさんに代わってまとはを守ります」
 自分が今日一番伝えたかった言葉を、紡ぐ。
 一瞬こうはが押し黙ったが、柔らかな笑みを浮かべると、
「これからは妹が誰かを守れるように……そうなれる手伝いをしてあげてください」
 ぺこり、丁寧に一礼した。華音も礼で返す。それにまたこうはが礼をして、ぷ、とお互い同時に笑いだす。
「あの。華音さんについてお聞きしてもいいですか?」
「私ですか?」
「はい。まとはが安心して一緒に過ごしている方ですから。私も、知りたいんです」
 少し照れくさく思ったけれど、認めてもらえたと思うと嬉しくて。
「ええとですね、私は――」
 小さなことから話し始めた。
 話が一段落したら、同じようにこうはのことも訊こうと決めながら。