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【2021クリスマス】大切な時間を

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第35章 友の部屋で

「メリークリスマス。サンタをプレゼントにしてみたよ」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が、全ての誘いやパーティーを終えた頃に、ヴァイシャリー家に顔を出した。
 この時間と場所を指定したのは、ラズィーヤの方だ。
「まあ可愛らしい……」
 ラズィーヤが笑みを見せる。
 天音はバスケットにゆるスターを3匹つれてきていた。
 うち1匹は、サンタの着ぐるみを着ている。
「戴いていいのかしら?」
「いや、本当の土産はこちら」
 和紙が貼られた上品な箱を、天音やラズィーヤに渡した。
「ありがとうございます。お茶をご馳走いたしますわ」
 使用人に箱を預けると、ラズィーヤは自ら天音を部屋へと案内し、共にゆったりとソファーに腰かけて話をすることにした。
 部屋に通されてしばらくの間は、ラズィーヤの求めもあり、天音が一方的に話をしていた。
 教導団の訓練施設からの脱出の話。
 宝石が有名な浮島で人探しをしたこと。
 万博で仔猫になったこと。
 大廃都に行ったこと。
 ドラゴンレースの獣人村で不思議な魔法を見たこと。
 そして、ニルヴァーナ探索中で見聞きした、奇妙な話を。
 そんな経験談を、天音はラズィーヤに話した。
 ラズィーヤはとても興味深そうに、楽しげに相槌を打ちながら、天音の話を聞いていた。
 一頻り喋った後は、天音が土産に持ってきた菓子――淡雪のように口の中で溶ける、雪だるま型の和三盆糖を2人で楽しみ。
 シャンパンを飲んで、ゆるスターを撫でて可愛がり。
 他愛もない話をして微笑み合って。
 それから。
「ラズィーヤさん、一つ聞きたい事があるのだけれど。ゼスタに監視と護衛を付けていた理由は何だったの?」
 ふと、天音は尋ねてみた。
 ラズィーヤは以前、神楽崎優子のパートナーであるゼスタ・レイランに、護衛を派遣していたことがある。それは彼の監視目的でもあったことを、天音は知っている。
「人柄を知りたかったからですわ。あと、実年齢等も最初に教えていただけませんでしので、調べさせていただきました」
 護衛という名目でつけていても、監視でもあることは本人にも勿論解るだろう。
 ラズィーヤは彼自身を見張らせ、彼の意識をそちらに向けておき。その間に、タシガンや地球で、ゼスタについての情報も集めていたのだという。
「で、その結果は?」
「お子さまでしたわ☆」
 ラズィーヤは楽しそうな笑みを見せた。
 ゼスタ・レイランは年齢を尋ねられると『忘れた』などと答え、高齢であると見せかけているが、実年齢は20代半ばのようであること。
 女好き――若い女性の血を好み、特に親しくしているガールフレンドは20人を超えるほどいるが、恋人と呼べる人物はいない。
 契約の話があがった時。神楽崎優子よりアレナ・ミセファヌスに興味を示していたようであり、その理由はアレナを狙っているため、と思われる。
「強くて、従順で、働き者で、寿命のない娘を伴侶にして、自分は早々隠居したいみたいですわ」
 単に彼が遊び人であるからでもあるが……。
 物心がついた頃には特殊訓練を受けさせられており、若くして特殊部隊……暗殺を請け負う部隊に所属し、訓練、任務の繰り返しの人生を送ってきた為、心が荒んでしまっているのだろうと、ラズィーヤは天音に話した。
「地球に留学してからは、割と自由に暮らしていたようですけれどね。その頃は……吸血鬼としての性により、地球人を嫌悪していたでしょうし」
 元々、優子に契約を勧める前に、最低限の正確な情報は集めてあったので、シャンバラに害を及ぼす人物ではないことは間違いないのだが。
「思ったより役に立ちそうな方で、安心していますの。アレナさんは差し上げるつもりはありませんけれどね」
 にっこり、ラズィーヤは微笑んだ。
「そう。それじゃ、今頃彼は、沢山のガールフレンド達とパーティでもしているのかな」
「このような日に、一人でいるということは、なさそうですわね。根は寂しがり屋さんのようですから」
 天音が贈ったお菓子を食べて、その口の中でとろけていく感触に心地よさそうな笑みを浮かべながら。
「天音さんも、気が向きましたら、また護衛と監視をしてあげてくださいませね。嬉しいでしょうから」
 ラズィーヤはそう言った。
「それじゃ、明日の朝にでもメールを入れておくよ」
 天音はそう答えて、シャンパンボトルをとって。
 ラズィーヤのグラスに、静かに注いだ。
「シャンパンはもう飲み飽きたかな?」
「いえ、パーティーではほとんど飲んでいませんの。酔ってしまったら、興味深い貴方のお話しを聞き逃してしまうかもしれませんから」
 ラズィーヤは魅惑的に微笑んで。
 その辛口のシャンパンと、クリスマスの残りの夜を、天音と一緒に楽しんでいく。