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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● 逆襲の魯粛

蜀の五虎将軍のうち、関羽・雲長(かんう・うんちょう)張 飛(ちょう・ひ)馬 超(ば・ちょう)の三名が集まっていた。

「兄者、ここで決着をつけにきたぜ」
と血気盛んなのは張飛である。
関羽はうむ、と頷くもこう返した。

「よかろう、だが我ら兄弟の対決はできるかぎり先延ばしにしたい」
「らしくないな、兄者。まさかとは思うが、臆病風に吹かれたか」
「そうではない、楽しみは後にとっておこうというのだ」
「なるほど合点がいったぜ。
 そういうことなら俺はこの馬超を相手にしよう」

馬超は関将軍、張将軍のいずれかと戦えるなら本望といって不満はない様子である。

話がまとまると、関羽がこう切り出した。
「それはさてきおき、お前たちはここを離れろ。
 すこしばかり面倒なやつの相手をしてやらねばならん」

張飛と馬超は関羽の一戦を見届けてやろうと、少し離れた場所に並んで座った。


関羽が空を仰ぎ見ると、大きな影があった。
鳥に似たかたちをしていたが、あまりに大きすぎる。

ざわつく場内で、何人かはその正体に気付いていた。

「あれは教導団所属のイコン、ザンダーレーヴェだ。
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が搭乗者のはずだが、なぜあの機体が持ち出されたのかは不明だ」
教導団のイコンに詳しいダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は首をかしげた。


魯粛は三国志において、呉の政治家、外交官であった。
『三国志演義』における主な役割は、赤壁の戦いにおいて蜀の諸葛亮と呉の周瑜のあいだで伝言係を担当した……という程度である。

しかし史実では若い頃から武芸に励み、糧食に困った周瑜を援助し、孫権にいささか挑発的な助言をするような人物であった。
とくに強大な魏に対抗するために蜀との同盟を取り持ったのは魯粛の功績が大であったという。

赤壁の戦いで勝利した呉・蜀だが、蜀は「獲得した領土(荊州)の一部を呉に返還する」という約束を反故にしようとした。
このときにも魯粛は交渉を担当し、領土の一部を返還させることに成功している。
この領土交渉で蜀側の担当者は関羽であった。


「赤壁では孔明殿と周瑜殿の間の『伝言くん』呼ばわりをされ。カンの悪い外交官・文官として書かれてる事がおおいですが、リアルな私はそう腰ぬけでも。筋のよくない政治家であった事をしめしたいです。

特に!
荊州問題で散々てこずらせてくだたった関羽殿!

今は金団長のパートナーとして尊敬しなければならないお方ですが、あえて2000年前の屈辱、このイコンにて晴らさせていただきます!!」


時空を超えた恐るべき恨みである。

イコンに同乗しているトマスとしてはなかなかに洒落にならない状況だが、今日は魯粛に一花咲かせようと覚悟は決めてある。

「これは先生のためのたたかいですからね?
 けれど、命は粗末にしないように、よろしくおがいしますよ。
 ……関羽様は、団長のパートナーでもある方ですからね」


しかし現実は残酷である。

「なんか呉の武将がイコンに乗ってるらしいぜ」
「周瑜か!?」
「いやなんかもっと地味な」
「それじゃ関羽様の勝ちだな!」

というのが意見の大勢であった。
イコンを使っているというのに、関羽推しの声が多いなか。

「そうはいうけど魏・呉・蜀で最後まで残ったのは呉だし、案外強いんじゃない?」

中途半端に魯粛推しの珠代である。


「ううむ、魯粛といえば阿蒙(呂蒙)の同輩か!
 よかろう、本当の恨みというものを教え込んでやろう」

関羽はキッと目を見開くと、呪詛のこもった眼差してザンダーレーヴェを睨めつけた。

イコン機内にて、トマスは恐怖に震えていた。
「先生、大丈夫ですか先生!?」

魯粛は全身から冷や汗を流し、悪寒にガクガクと震えも止まらず、支離滅裂なうわ言をつぶやいている。

「おお、呂蒙よ! これがあなたの味わった苦しみか!」
そう叫ぶと全身の穴という穴から血を噴き出して、ぱたりと動きを止めた。

コントロールを失ったザンダーレーヴェはそのまま墜落、観衆には何があったのかわからないうちに戦いは終わった。

その後コックピットから救出された魯粛の壮絶な姿を見て、ようやく人々は真実にいきあたった。

「関羽様は呉の将軍呂蒙に討ち取られたが、死後呂蒙に祟りをなしたという。
 その結果呂蒙は全身から血を流し、正気を失って死んだそうだ。

 この祟りさえ、関羽様の力の一部であったか」

ぞっとしないといった表情でダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が言った。