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ユールの祭日

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ユールの祭日
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リアクション


●●● The Day Kukyo Stood Still

次の対決はアルバ・フレスカ(張譲)対諸葛亮孔明。

孔明は先の対決で周瑜と相打ちなのでは? と思われたかもしれない。
だがあれは孔明の用意した人形だったのだ!!!

アルバ・フレスカは何か術を唱えると、謎の地響きが起こった。
何機ものイコンが、地面を踏み鳴らして襲撃してきたのだ。

「多数のイコンを同時に操る術ですか。
 しかしそうはいきません。
 せっかくですが止めさせていただきますよ」

孔明が羽扇を一振りすると、なんたることか、伏兵として隠れていた二機のイコンが姿を現した。
その肩にはそれぞれ、ただならぬ気配の人影が乗っている。

アルバ・フレスカは驚いて声を上げた。
「趙忠! 曹節!」
いずれも十常侍の大物である。しかし二人はアルバ・フレスカに答えようとしない。


代わって孔明が朗々と響く声で叱咤する。
「おだまりなさい!
 この『ユールの祭日』計画、今のお前の手出しは無用!」

「何を企む、策士!」
アルバ・フレスカは、まだ動くイコンで孔明に殴りかかる。
だがぎりぎりのところで、その拳は止まった。

孔明の隣に、一人の女の姿があったからだ!
その女性はベールを垂らしていて顔は見えない。
しかしその体格は、百合園女学園の真の支配者である『あの人』に見えた。

「まさか、あなたは!」
「頭が高い!
 十嬢侍の創設者、『あの御方』の御前であるぞ!!
 すべては『あの御方』の計画なのだ!」
「ははーっ!!」

アルバ・フレスカは平身低頭した。
これ以上戦うことはない、アルバ・フレスカはそのまま退場した。



会場全体は不可解な雰囲気に包まれていた。

「なんですか、この『計画』とか『あの御方』とか?」
瑠璃華・シャトナー(るりか・しゃとなー)はわけがわからないといった表情だ。

「十嬢侍の黒幕は百合園女学園のラズィーヤさんだけど……。
 ま、それはそれとして、今のはいわゆるひとつの『孔明の罠』ってやつかしら。
 とはいえ、変な誤解が広まるのも困るかな」

珠代は弁当の輪ゴムを指に引っ掛けて、それで狙いをつけるとパン! と撃った。
狙うははるか遠方に立つ『あの御方』。
当たるはずのない距離だが、輪ゴムは女のベールにあたる。

「この距離をどうやって!?」
「ただの手品よ。その気になれば子供でも簡単にできるわ」

輪ゴムの衝撃で、ベールが顔から外れて飛ぶ。
そこにあった顔は、意外な人物であった。


「あれは男……アキレウスさん! どうして?」
椎名 真はぽかんとする。

孔明のパートナー、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が、仕方ないという風に切り出した。

「ラズィーヤさんの身代わりとして、孔明は適当な英霊を探していたんだけど、結局適任だったのは彼だったんだ
 アキレウスは子供の頃、女装して暮らしていた英霊だからね」

おそるべき孔明の罠である。
そんなことに巻き込まれて、過去のマイナーなエピソードを晒されたアキレウスさんの明日はどっちだ?



●●● ゴッド&ジェネラル

徳川家康といえども、次の対戦相手には悩まずにはおれなかった。

相手は天之御中主神の化身、九十九 天地である。
「では、参ろうか……安心するがいい、加減はしよう」


天地のパートナー、九十九 昴(つくも・すばる)は龍の『白夜』に乗り、高い場所から二人の戦いを見守っていた。

(天地……あなたは私に、多くを語らない……
 あなたは本当に神だというのですか?
 これを期に、あなたが何の英霊なのか……見極めて見せます)


相手がなんであれ、一度は天下を取った家康である。
効くかどうかはわからぬものの、まずは火縄銃を向けて引き金を引く。

「無駄です。
 手前は『高天原の中央に座す者』、神に非ざるものの力など通じはしません」

九十九は巨大な薙刀を構え、ふわりと薙いだ。
ゆっくりに見えるかもしれないが、宇宙が膨脹するのにも等しい超光速である。
これだけで勝敗は決するはずだった。

だが!

「まったく、大事なメガネにヒビが入ってしもうたではないか」
家康はヒビ割れたメガネを懐にしまう。
なぜか髪は腰のあたりまで伸びている。

「さきの一振りで、貴公はすでに息絶えたはず」
「ああ、さきので一度死んだのぅ」
「まさか、人の身でありながら神の座についたというのですか!」
「そのまさかよ。今のわしは『東照大権現』という」

日本では死者が神格化されることがあるのだ。

「ならば遠慮は無用ということですね。
 天之御中主神として、全力でお相手いたしましょう!」
 同じ神として、貴公と戦える事を誇りに思うで御座います」

神道の神には序列があり、神階という。
この最高位を「正一位」というが、東照大権現もこの最高位に達している。
人の身から成った神とはいえ、決して格下ということはない。

天之御中主神は再度薙刀を構え、東照大権現めがけて突く。
東照大権現は太刀を抜き、ぱっと撃ちこむ。

ほんのわずかの差で、東照大権現の剣が勝った。
もともと武芸軍事に長けた彼のほうが、武勇において先んじていたのである。


戦いが終わると、東照大権現の体から放たれていた神々しい輝きは消え、もとの家康に戻った。


「薬師如来を本地とする神ですか。
 ヤクシャの裔だったのですねえ」

会場の隅っこで、藤原優梨子がぼそぼそといった。


●●● 九尾の狐と八坂トメ

八坂トメと玉藻前の対決。

「さあ刀真、夜伽の準備を済ませておくとよいぞ」
玉藻はそんなことをいいながらすり寄っている。
刀真は適当にあしらっているが、やる気のない状態では対戦相手に失礼だろうということで、わかったわかった準備するから、などと受け答えしていた。

トメはその情景を見ながら、かつてのことを思い出していた……

(あたしも昔はダーリン(タケミナカタ)と一緒だったんだけど、ある日ものすごい大喧嘩して、実家に帰らせて頂きます! じゃないけど家を飛び出しちゃったんだよね。
 今思い出しても怒りが収まらないんだけど………喧嘩した理由?
 あれ、何だっけ?
 うーん、きっと浮気とかだよ。
 なんだかわかんないけど、いまイラッてしてきた、なんか……腹が立つ!)

玉藻と刀真のイチャイチャにブチ切れたトメ。

「ダーリンのバカ〜!!」

絶叫。
そして猛進!
さらに往復ビンタ!!

事情がわからないままビビビビッ! と自慢の頬を何度もひっぱたかれたのだから、玉藻としてもたまったものではない。

「おのれ、よくも刀真の前で恥をかかせたな!」

玉藻はトメをぎろりと睨む。
するとどうしたことか、トメの動きが鈍っていくではないか。

(……あ、あれ……なんか意識が遠くなってきた……)

「この『殺生石』が黄泉路への手向けだ……我が九尾を以て終焉を招く!」

殺生石。
玉藻は討ち取られたあと石となり、周囲に毒気をまき散らしたという。
その毒がトメを蝕んでいたのだ。

玉藻の尾は炎や氷を帯びて、トメに襲いかかった。
九尾すべてが振るわれ、トメはそのまま動かなくなった。


●●● ランスロット対シグルズ 赤い夕陽の対決

陽は落ちようとしていた。
いよいよ、最強の騎士を決める時が来た。

湖の騎士ランスロットと、シグルズ・ヴォルスングの激突だ。

シグルズはベディヴィア卿を倒した猛者だが、ランスロットは故事からその弱点を看破した。

「英雄ジークフリートは龍の血を浴びて不死身となったそうだが、首の後に木の葉がついたので、そこだけは弱点のままだと言う。
 すこしばかり面倒だが、弱点さえわかっていればベディヴィア卿が勝っていたに相違ない」

そう言うと、聖剣アロンダイトを手にして立った。

シグルズは相手を格下であるかのように見ているが、だからといって油断しているわけでもない。

「オーディンの名にかけて!
 この優男めをイルミンスールから吊るしてくれる!」

龍をも突き殺すシグルズの剣が、ランスロットの胸を狙う。
その剣を、辛うじてアロンダイトが受ける。
ランスロットは背後に回りこもうと、大きく右に回りながら、牽制の一撃をくれる。
牽制のための甘い剣だったためか、シグルズはそれを避けた。

(避けた? そうか)

ユールの呪力でかつての力を取り戻したといっても、一度に使える力には限りがある。
シグルズのもつ無敵の護りは、今回の戦いでは使われていないのだ。

(おそらくは怪力にでも切り替えたのだろうな。ならば)

ランスロットは気づかぬ振りで、さらに背後を取るような動きを見せる。
実際は、機動によってシグルズが隙を見せるのを待っていたのだ。

シグルズもまた、ランスロットの動きから策を練っていた。

(あの手にした剣は、どうやら護りの力があるらしいな。
 ならば危険を承知で戦うほかないか)

剣を攻撃に使った瞬間ばかりは、それで敵の攻撃を受けるわけにもいかないだろう。
つまりシグルズとしては、ランスロットに先に攻撃させる必要があった。

シグルズはわざと構えをとき、大声で挑発する。

「そのみじめな剣で突いてこい!
 我が無敵の肉体にはかすり傷ひとつ付けられないぞ!」

騎士として、この挑発に乗らないわけにもいかない。
ランスロットはおう、と叫んで渾身の一撃を見舞う。
それにカウンターを仕掛けるシグルズ。

両者の剣は、同時に相手に刺さった。
両雄とも、まったくの同時に血を吹き、同時に倒れた。

こうして戦いは相打ちという結果を残した。


●●● アヴァロン

この二度目の戦いを勝ち残れるのは13名のはずだった。
しかしこの相打ちにより、残るは12名となった。

「ランスロットでもシージ・ペリラスには座れなかったか」

一命を取り留めたアーサーが、寂しげにつぶやいた。
ヴィクトリカに渡しておいた鞘に、護りの魔力がこもっていたのである。

シージ・ペリラス、『危難の座』。
アーサー王の円卓における13番目の席。
聖杯を手にする騎士のみが、ここに座ることができるという

ロングウェーブでやや浅黒い肌の男が、シージ・ペリラスという言葉に反応した。

「聖杯を望むのかね、英霊の子よ。ならば……」
「いや、それは心の中に望むものだ。
 我が手に握り締めるには似つかわしくあるまいよ。
 我が円卓に座った騎士のだれかが、いずれ手にすればそれで満足さ。
 パルシファルか、あるいはガラハッドがね」
アーサーはそういうと、ヴィクトリカと共にその場を立ち去った。