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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 過去と今とのティータイム ■
 
 
 
 上野行きの新幹線に乗り込もうとするイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)をホームで見付け、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は軽く手を挙げて挨拶した。
「Hi、イングリット。今から帰省?」
「ええ。こちらでやることがあったものだから遅くなってしまったけれど、漸く帰省できますわ」
「そう。良い帰省を」
 イングリットに挨拶すると、ローザマリアはパートナーのホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)の所に戻った。
「あの鼻っ柱の強そうな所……誰に似たのだろうな」
 ホレーショは目を細めてイングリットを眺めている。
「イングリットが帰省するという情報は確かだったようだけれど、どうするの? 話しかけてみる?」
 ホレーショは以前より、ネルソン姓の新入生が百合園女学院に入学したと聞いて気になってはいたものの、男子禁制の学院に確かめに行くのもはばかられた。
 今回、イングリットが帰省するらしいという話をローザマリアが百合園の友だちから聞いてきた為、この機会に接触出来ないかとやってきてみたのだ。
「もちろん話はしてみたいが、ただ問うのは無粋というものであろう」
 こういうのはスマートに持っていかなければとホレーショは笑い、ローザマリアと共に上野行きの新幹線に乗り込んだのだった。
 
 
 パラミタからの帰省はピークを過ぎている為、イングリットはそれほど混雑に巻き込まれることなくすいすいと歩いて行った。
 イングリットが1人になったのを見計らい、ホレーショはさり気なくその前を横切った。
 その際、イングリットの目に留まるようにひらりとハンカチを落とす。
「あら……ハンカチを落とされましたわよ」
 気づいたイングリットがハンカチを拾って渡すと、ホレーショは優雅に一礼し、感謝を述べた。
「これはご親切に、ありがとうございます。これも何かの縁というもの。お時間がありましたら、ティータイムにおつきあい願えますかな? 見た所、貴方も英国人のようだ」
「いいえ、そこまでして頂くには及びませんわ」
 ハンカチを拾っただけだからとイングリットは言ったが、同国人のよしみでとホレーショがもう一押しすると、それなら少しだけ、と頷いた。
 
 近くにあった洒落たティールームに入ると、イングリットはダージリンを頼んだ。ホレーショはタブラティーを注文し、カップにラム酒を入れてから紅茶を注ぐ。
「それで、英国のどちらまで帰られるのですかな?」
「ノーフォークですわ」
 ホレーショはイングリットの出身地に話を向け、そこから家柄の話へと誘導する。
「ほう、ネルソン家と言いますと海軍の……」
「ええ、ホレイショ・ネルソンをはじめとして海軍の将校を輩出してきた家系ですわね」
 そう答えたイングリットに、ホレーショは自分もかつては海軍提督だったことを打ち明けた。今は英霊として第二の人生を送っているのだと言いながら、ホレーショはテーブルの上にあるラム酒の小瓶を手に取った。
「これはかつて『私の血』と呼ばれていた飲み物なのですよ」
 笑顔を交えてホレーショがそう吐露すると、イングリットは何かを考える風に首を傾げた。
 ラム酒の別名は、ネルソンの血。
 イングリットはラム酒の瓶を見、ホレーショを見……そして得心したような顔つきになった。
 英霊はあくまで英霊という存在であり、パートナーの趣味趣向が加味される場合もあるので、厳密にはイングリットの先祖とは言えない。イングリットの先祖はあくまで、家に重々しく飾られている肖像画の中のホレイショ・ネルソンだ。
 けれどその先祖が元になった英霊と会うのは、やはり珍しいことでもある。
 イングリットは礼を失しない程度にホレーショを眺めてから、紅茶のカップを手に取った。
 素敵な英国紳士とのティータイムを楽しむように、微笑んで。