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リアクション
■ 年の初めはお汁粉から ■
年末年始は神社の華、とばかりに意気込んで帰省した神威 由乃羽(かむい・ゆのは)だったのだけれど。
「……相変わらず閑古鳥ね」
そろそろ年も変わる頃。初詣客が集まりだしても良い頃なのに、神社はひっそりと静まりかえったままだ。
暇に任せて手を動かしていると、掃除がはかどるはかどる。他にやることもないのだから当然か。
帰省する必要があったのかどうかと由乃羽がぼんやりと考えていると、
「大丈夫なの? 由乃羽」
同僚の巫女の久留宮 玖留が声を掛けてきた。
何か心配されるようなことがあっただろうかと由乃羽は周囲を見回したが、特に目につくものはない。
「大丈夫って何が?」
「だってさっきから社務所の前でぼーっとしてたでしょ。帰って来るなり御勤めを始めるのはいいけど、やっぱり疲れてるんじゃない? 体調が悪いなら無理しないで少し休んだら?」
「ああ、そのこと……」
由乃羽は疲れてるんじゃないのよと首を振った。
「ちょっと考え事してただけなの。パラミタまで行って信仰集めに奔走したのに、肝心の神社がこれじゃ浮かばれないわよね、って」
地球での信仰集めに限界を感じ、由乃羽は強化人間となってパラミタに入った。パラミタにいる間もずっと賽銭箱を持ち歩き、事あるごとに奉納を要求して信仰集めに邁進したのに、その結果がこれでは報われない。
そんな話を玖留にこぼしていると、ふらりとやって来た白南風 みなみがのんびりと言う。
「由乃羽ちゃん、ちゃんと成果はあったわよぉ。たまに観光に来てくれる方もいましたし。本当に、たまにですけど、ね」
「たまに、かぁ。それって効果としてはどうなんだろ」
神社で一番偉くなって部下をこき使い、楽な生活を送る、という夢の為にも信者は多くなくては困るのだけれど。
「効果が出るのはきっとこれからよぉ。それより、由乃羽ちゃんのパラミタでの武勇伝を聞きたいわぁ」
みなみはパラミタのことに興味があるらしく、由乃羽に質問を畳みかける。
「今ツァンダに住んでるのよね? 街はどんな感じになってる?」
「みなみ姉さん、そんなことが気になるの?」
「気になるわぁ、何しろ私の故きょ……」
言いかけたみなみは、ごほごほといきなり咳き込んで言葉を濁した。
「どうしたの? 何か……」
「な、なんでもないわよぉ。パラミタなんてなかなか行けない場所だから、どんな所なのかと思っただけ、そう、それだけなのよぉ」
みなみにしては少し早口になっているのが気に掛かったけれど、追及することはせずに由乃羽はパラミタでのことをぽつりぽつりと話し出した。
ひょんなことから契約を結ぶことになった事。大きな緑竜を助けたら懐かれた事。普段やっている信仰集め、というか奉納強要活動の事。思いつくままに話をしてゆく。
「り、緑竜……相変わらず自由奔放なことやってるのね」
玖留は由乃羽の武勇伝に引き気味だ。
「そうだ。今度その緑竜連れて来ていいかしら。御利益のある竜神様ってことにしちゃえば、きっと参拝客も沢山……!」
「まあ、龍神様だなんて素敵ね。きっと大繁盛するわよぉ」
みなみはすぐに乗ってきて、名案だと手を叩くけれど、玖留は慌ててやめなさいと止めた。
「パラミタは相変わらず色々ありそうねぇ。契約したって言ってたけど、どんな人を見付けたのぉ?」
みなみはあれこれと質問をし続ける。
「あたしの契約相手、お願いしたらいつも300円奉納してくれるの。良い人よね」
「良いわねぇ。私もその人におねだりしたら、お小遣いもらえるかしら?」
如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が聞いたら蒼くなりそうなことを、みなみまでしゃらっと言う。
「……今度お詫びの菓子折でも持ってった方がいいかしら。その契約相手って人に」
玖留がどんどん難しい顔になっていくので、由乃羽も少し不安になってくる。
「あたし何か変な事言った? 玖留姉さん」
「変なことっていうか……前のままっていうか……」
頭が痛いわ、と玖留が額に手をやったとき、本殿のほうから新年を告げる太鼓の音が聞こえてきた。
しばらくすると、宮司の千鳥 暁登がお盆を持ってやってくる。
「皆揃って新年を迎えることが出来て良かった良かった。由乃羽も元気そうで安心したよ。折角帰ってきたのにこの寒空の下で仕事して風邪引いたら大変だから、温かいお汁粉を作ってきたよ」
「暁登さん! 姿見せないと思ったら何やってんですか!」
真面目な玖留に怒られても、暁登はほけほけと笑っている。
「だって皆に早く温まって欲しかったんだよ〜。張り切って作ってたら新年間近で、慌てて本殿で太鼓を鳴らしてきた。これが遅れたらさまにならないからね〜」
「様になるならないじゃなくて、宮司なんですからもっと真面目に御勤めをですね!」
「いやあ、どうせ向こうも適当にしか助けてくれないんだから、神様なんて適当に敬っておけばいいんですよ〜」
とんでもないことを言いながら、暁登はお汁粉の碗を配る。
「うまく出来たと思うんだよ〜。ささ、冷めないうちに食べて食べて」
「それが宮司が言うことですか! ……でもまぁ、お汁粉は頂きますけど」
湯気のたつお汁粉の魅力に負けて、玖留もそれを受け取った。
由乃羽も椀に口をつけた。温かいお汁粉が甘く喉を落ちてゆく。
「あ、おいしい……」
暁登心づくしのお汁粉を飲みながら、由乃羽はすっかりくつろいだ気分でいた。
相変わらず、参拝客は少ないのに騒がしい神社。けれど……居心地の良い場所。
(頑張って偉くなって神社を大きくして、皆に楽させてあげたいな……)
ついでに自分も楽したいし、と由乃羽は心の中で付け加えた。
新年の静かな時が流れてゆく。
そういえば新年の挨拶をきちんとしていなかったことを思い出し、由乃羽は飲みかけのお椀を下ろした。
「次はいつ帰ってこられるのか分からないけど……みんな、今年もよろしくお願いします」
「今年もよろしくね、由乃羽。僕も適当に頑張るから、由乃羽も適当に頑張るんだぞ」
暁登が力の抜けた挨拶を返してくる。
「今年もよろしく。由乃羽、無茶や危ないことはしないでね。それと、契約相手にもあんまりたかりすぎないようにするのよ」
玖留はあれこれと注意を与えてくる。
「うふふ、今年もよろしくね、由乃羽ちゃん。あんまり無理しちゃダメよ」
みなみはそう挨拶しておっとりと微笑んだ。
三者三様だけれど、その誰もが由乃羽にとって大切な宮司であり同僚巫女だ。
この神社とそこで働く人々の為にも、一層信仰を広めなければと由乃羽は志を新たにするのだった。