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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ ここから続く贖罪の道 ■
 
 
 
 行かなければならないと思っていた。
 なのにどうしても、その勇気を出すことが出来なかった。
 けれど飛騨 直斗(ひだ・なおと)と……親友の弟である直斗と再会して、やっと決心がついた。
(沙織に会いに行こう)
 ずっと出来なかった、謝罪と贖罪の挨拶の為に。
 
 
 獅子神 玲(ししがみ・あきら)は、直斗と獅子神 ささら(ししがみ・ささら)を伴って三重県伊賀市に帰ってきた。
 迷子になるといけないからと直斗と手を繋いで向かった先は、飛騨 沙織の墓だった。
 玲は墓をきれいに掃除して花を供える。
 ……生命無き墓石の冷たさが無性に寂しさをかき立てた。
 
 3年前、昔地球に降り立った獅子神の子孫を捜しに来たささらに、玲は出会った。
 父親が殺人犯として捕まっていた玲は、『殺人鬼』という渾名をつけられ、不遇な境遇で過ごしていた。それを知ったささらは玲を『獅子神』として引き取ることにした。
 パラミタという新天地。自分を引き取ってくれるというささらの存在。
 これから先にはきっと、良いものが待っている。そんな期待を玲は抱いていた。
 そして明日にはささらと一緒にパラミタ大陸へと出発しようという日。
 女子剣道部の部室に置いてある私物を取りに行った玲は、クラッカーと拍手の音で迎えられた。
「はっはっは、驚いたかい、玲」
 剣道部員の真ん中で屈託無く笑っていたのは沙織だった。その隣には弟の直斗の姿もある。
 剣道部では、玲は『豪剣の鬼塚』、沙織は『柔剣の飛騨』と並び称された剣道小町。互いに正反対の戦法を得意としながらも、2人はよく気があった。
「僕、プロデュースの歓迎会はいかがかな?」
 沙織の言葉に、やっぱり、と玲も笑う。
「サプライズパーティの主犯格があなたであるってことはすぐに分かりましたよ、沙織」
「うむ、喜んでいただけたようで何より」
 沙織はいつものように飄々と答えた。口調こそ男っぽいけれど、沙織は思い遣りのある性格だった。そんな沙織だから、旅立つ玲を賑やかに送り出そうと、サプライズ送別会を企画してくれたのだろう。
「思えば、あなたとも長い付き合いですね」
 小学校の頃、玲は父の所為で『殺人鬼』と呼ばれ、苛められていた。そこに転校してきた沙織がいきなり、『僕と剣道をやらないか?』と誘ってくれたのだ。
 そうして沙織と弟の直斗と3人で、今日まで楽しくやってこられた。
 今までの礼を言うと、沙織は照れた顔つきになった。
「ふむ、そんなこともあったな。あれは僕としては、一番気が合いそうだったから声掛けたのだよ、チミ」
「……ありがとう、沙織。今まで無二の親友でいてくれて」
「寂しくはなるが、『鬼塚』から『獅子神』になっても、玲は玲。今までじゃなくて、これからも無二の親友だろ? 後は直斗とくっついてくれれば、家族にもなれるんだがな」
 どこまでが冗談なのか分からない口ぶりで沙織は言った。
「そうですね。でもパラミタに行ってしまったら、これまでのようには会えなくなります。だから……今日ここで決着をつけましょう。どちらが強いのか」
 これまでつけられなかった勝負を今日こそは、と玲が言うと、沙織も乗り気で受けて立った。
 いつもの勝負。
 決着がついてもつかなくても、終わったら一緒にメロンパンを食べて、次の勝負の約束でもしよう。
 そんなことを思いながら始めた勝負は……2人が思っていたようには終わらなかった。
 ――なぜ? 今まで互角だったのに、どうしてこんなにあっさり勝ってしまった?
 旅立つ玲に華を持たせようと沙織はわざと負けたのだろうか。
「違うだろ! 本気で……本気で戦って! じゃないと……私を誰が受け止めてくれるんだ!」
 そして――気づけば、沙織は血だまりの中に倒れていた。
「まさか……ここまで強かったとは、ね……」
 笑おうとした沙織の口から血がしたたり落ちた。
「姉貴!」
 蒼白な顔色で駆け寄ってきた直斗に、沙織は苦しそうに、けれどはっきりと言い聞かせた。
「……いいか、直斗。玲を恨むな。私も恨んでないから。あと……お願いだ……強くなって……寂しがりで脆い玲の傍にいて……支えてやってくれ。……僕の代わり、に……」
 それが沙織が残した最期の言葉となった――。
 
 
 今思えば、あれが玲の最初の鬼神力の発動だったのだろう。
「ワタシと契約状態になってしまった為に、玲は力を暴走させてしまったんでしょうね……」
 沙織も玲が罰せられることを望まないだろうからと、ささらは根回しして事故として処理させた。けれど結局、山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)の所で見付けるまで、逃げた玲に辛い思いをさせることとなってしまった。
 本当に申し訳なかった、とささらは悔恨をこめた声で玲と沙織に謝った。
「ささらの所為なんかじゃない……ごめん、ごめんね、沙織! 結局、私は父と同じ殺人鬼だった! ……カナンで復讐心に駆られて、無関係の人たちを殺してしまった……沙織をそうしたのと同じように……!」
 玲は冷たい墓石に手を当てる。
 これは自分が最初に殺してしまった人の墓。最初に背負った罪の墓。
「こんな最低な私は許されるべきじゃない。だから……お願い、ささら、直くん……私を殺して」
「確かに玲さん……うちの両親は姉貴のことで憎んでるし、俺だって複雑な気持ちだ」
 すべてが割り切れたわけではない、それでも、と直斗は叫ぶ。
「大好きな玲さんには生きていて欲しいんだ! 例え、玲さんが懺悔と贖罪の苦渋の道を歩むとしても、俺も一緒に歩むから!」
 それが直斗の偽り無い本心であり、沙織の遺言でもあるのだから。