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リアクション
「図面がありましたよー!」
 灯が、アルカンシェルの設計図集と思われるファイルを持って、駆けてきた。
「残念なことに、随分ページは失われてるんですけれど、制御室は載っていそうです」
 制御室について書かれていると思われるページを開いて、優子に見せる。
「うん、多分間違いないだろう」
 ほっとした表情で優子はファイルを受け取った。
 既に設計関連と思われる資料は、ルカルカと垂からも受け取っている。
「こっちの資料も渡しておく」
 雅も、撮影した映像をビデオカメラごと、優子に渡す。
 個人では写真一枚たりとも、持ち帰るつもりはなく。
 必要になった際には、開示申請をするつもりだった。
「ありがとう」
 と、優子は皆に礼を言う。
「ところでさ」
 資料を見ている優子に、垂が話しかける。
「お前はアルカンシェルをどこまで復活させれば良いと思っているんだ?」
「制御室の復元、全体的な修理と、バリア発生装置の修理までは予定に入ってる」
「そうか」
 優子の答えを聞いた後、垂はこう意見をする。
「俺は主砲――魔導砲も修理しておくべきじゃないかと思うんだ」
「!!」
 その言葉に、強い反応を示したのは優子ではなく、牙竜だった。
 垂は気付かずに、優子に語っていく。
「確かにアレは強力すぎる兵器だ。しかし、俺達は『イレイザー』と言う化け物と戦い勝たなくちゃならない。理念に反するが背に腹は代えられねぇ……攻撃対象を選択できる強力な一撃。今後の戦いに絶対必要になると思うんだ」
「魔導砲だけではない。アルカンシェルの攻撃システムはほぼダウンしたままだ。そちら方面の復旧は進んでいないし、進めていない」
 優子はそう答える。
「あれは、剣の花嫁を犠牲にする可能性のある兵器だ。俺は反対だ」
 牙竜は小さくそれだけ言った。
「そんな非人道的な使い方はしないだろ? もちろん、使用、攻撃許可を数系統の承諾式にするとかの予防対策は必要だと思う」
「しかしな……」
 垂のそんな言葉に、優子は眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「まぁ、数ある意見の内の1つとして持って行ってくれや」
 軽く笑みを浮かべると、垂は片付けを手伝いに格納庫へと戻っていく。
「……」
 牙竜はそんな彼女の後姿を静かに見守っていた。
 アルカンシェルに突入した際。
 無論、仲間の救出の為、全力を尽くしたが。
 それ以外に、彼は一人、目指した結果がある。
(あの時のような、非人道的な兵器の、綱渡りの破壊工作は……出来ればしたくない)
 設計図を事前に見ることが出来れば、似たような兵器が出てきても効率よく破壊工作ができる。
 技術的に近ければ参考になる。
(今、見てみたいが国家機密に触れるかもしれないよな。有事の時に設計図を見れるように情報開示の申請書を出しておくか)
 そう一人思いながら、僅かな間、目を伏せて。
「よし、終わったやつらから、若葉分校行ったらどうだー。宴会の準備だ!」
 顔を上げると、笑みを浮かべてパラ実生達に呼びかけた。
 設計関連の資料と、アルカンシェルの図面が優子の手に渡った段階で、作戦は終了となった。
 若葉分校生と協力者は、現地のパラ実生を大勢引き連れて、宴会を行う為に若葉分校へと戻っていく。
 今後の買い取りも、ゼスタがいる時に若葉分校で行われることになった。
「遅かったな」
 若葉分校に戻ったゼスタは、国頭 武尊(くにがみ・たける)に、ホールへと呼ばれた。
 ホールの中には、アルカンシェルの修理部品や、説明書などの資料と思われるものが多く、置かれていた。
「どうしたんだ、これ……」
「買い戻した。キマクに残っていた分だけだがな」
 武尊はキマクの闇市を中心に、売られた部品を集めて回っていた。
 単純に店を回っていただけではない。
『部品の回収にシャンバラ、エリュシオンの両国が動いている』
『部品を所持していると、逮捕、投獄される』
『S級四天王や、恐竜騎士団が部品の回収に動いている』
『キマクの出所の怪しい物を買い取ってくれる店がある』
 そんな誇張した噂を情報屋やネットを用いて流し、部品が自分の店に流れるように仕向けた。
「こっちが請求書だ。政府から金は出るんだろ?」
 武尊は必要経費を含めた請求書をゼスタに差し出す。
「ぼったくり……じゃなさそうだが」
 渋り気味のゼスタに、武尊はこういう。
「オレに借りを作りたくないなら、キッチリ払ってくれよ」
「わかった。……けど、純粋にかかった価格だけで、これ、人件費含まれてないよな。……何が目当てなんだ? S級四天王、国頭武尊」
「政府に恩を売っておけば、後々放校処分解除とか、神……いや、なんでもない」
「……ま、これは俺が立て替えておく。けどな」
 ゼスタが目を光らせる。
「なんだ」
 武尊も鋭い目つきで応える。
「支払は金でいいのか? 俺、優子チャンのあれとかそれとか、合鍵とか持ってるが」
 その言葉に、武尊は眉がピクリと揺れる。
「か……金で良い」
 絞り出すようにそう言い、武尊は金を受け取ったのだった。
 優子と、共に訪れた教導団員は現地解散とはいかず、資料を手にヒラニプラへと帰還していった。
「上官に対して失礼な言い草かもしれんが、今回は色々と参考になったぜ」
 部隊が解散となる際に、傍でずっと優子の指揮を観察していたケーニッヒが優子に言った。
「百合園に戻った後は、ゆくゆくはロイヤルガードのトップに就くんだろ?」
「それは目標ではあるが、必要とされるかどうかは分からないな」
 優子は軽く苦笑した。
「今回の件も、全て若葉分校生や、協力してくれたパラ実生。そしてキミ達教導団員の皆が求めて、導いた結果だよ。私は仲間に恵まれてるんだ」
「仲間が集まる何かがあるんだろうな。アンタが相手なら、オレたち国軍も……まぁ、多少のすれ違いくらいはあるかもしれねぇが、上手くやっていける、って気がするぜ」
 そして、ケーニッヒは手を差し出した。
「これからも、よろしく頼む」
「こちらこそ。また助けてほしい」
 優子も手を差し出して、握手を交わした。
 尚、今回の神楽崎優子に与えられた任務は、力で制圧するのではなく、取引を持ちかけて説得し、協力して目的の物を入手するように、というものだった。
 そして、その発見物の提供、協力の対価として政府は、パラ実生の活動拠点である、若葉分校に携帯電話基地局を設けると約束をした。
 買戻しなどのケースで派生する金銭の対価の裁量も、優子にある程度は任されていたが、彼女が持ち帰った小切手の額は予定より高く、その件に関しては政府側は良い顔をしなかった。
 更にパラ実側の交渉に応じて、インターネットの設置や使用に関する約束も行っており、今回の取引はパラ実側にかなり有利な内容となった。
 それであっても、国軍側とパラ実側の衝突が一切起こらなかったということ、パラ実所属の契約者、恐竜騎士団員、四天王達の協力を得られたことで、彼女の指揮の能力は一定の評価を得、若葉分校が盛況になることにより、大荒野での評価も上がった。
 交渉と勧誘により、若葉分校には現地人のパラ実生が更に沢山集まるようになった。
 携帯電話やインターネットが使えるということから、寄っていく契約者や旅人も多くなるだろう。
 結果、総長である神楽崎優子は、Bクラス四天王と呼ばれるようになり。
 番長の吉永竜司はCクラス四天王と呼ばれるようになった。
 
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