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最後の願い 前編

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最後の願い 前編

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第4章 ドラゴンスレイヤー

「いた〜」
「巨人を発見しました。現在地送ります」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)と共に、アシュラムに搭乗して巨人を上空から捜索していたパートナーの守護天使、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が、巨人の位置を伝える。
「巨人に発見されていないようなら、そのまま警戒を続けてください。挟み撃ちにします」
「了解」
 返答を返して、北都を見る。
「了解」
と、北都はクナイに答えた。
「でも……」
 首を傾げて、地上を見下ろす。
 いると思っていた人影ふたつが、見当たらなかった。


 あらゆる情報を総括し、巨人が現れる可能性が最も高いと思われる場所へ先回りして、大岡 永谷(おおおか・とと)は、ベースキャンプを設営した。
 ここに到着するまでに燃料をほぼ使い切っているイコンもいるし、本拠地を設置すれば、イコン達も簡易的にでも点検等が出来て、戦闘がし易くなる。
 集合する場所を一ヶ所作っておけば、休憩や治療を必要とする者がまばらに散らばることもなくなるからだ。
 情報を集めることも、味方に伝えることも、比較的容易になる。
「一時的なものだからな、本格的である必要もないし」
 その余裕もないだろう。
 それでも大谷は、巨人が来る迄には設営を完了し、何機かのイコンは、事前にその拠点に集まって、巨人を迎え撃つこととなった。



「チ。既に集まってやがんのか。俺の出番はなさそうだな」
 高台に立つソードウイング/Fの操縦席で、パートナーのヴァルキリー、エリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)と共に、ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)はベースキャンプの様子を窺っていた。
 もしも自分が最初に巨人を発見するようなら、同じように巨人を探す者が追い付くまで、足止め役として単独相手取るつもりでいた。
 最も無茶をするつもりはなかったので、増援が来たらすぐに撤退する予定だったが。
 だが、ベースキャンプには最初から数機のイコンが待ち構えているし、恐らく程なく到着するイコンもいるだろう。
 そして向かって来る巨人が道を逸れる様子も無い。
「あえて危険を冒す必要もないと思うわ」
 エリザロッテも、ヴェルデの考えに同意した。
「だな。
 ……それに、気になることは他にもある」
「何?」
「俺のモヒカンがチリチリ言いやがんのよ。
 これには何か裏があるってな」
「燃えてるの?」
「違うっ!」
「嘘よ。ごめんなさい」
「……お前な……ボケかましやがった後にワビ入れるとか一番しちゃいけねえ……いや何でもねえ」
 はあ、とヴェルデは気を取り直す。
「ま、工作員の立場から、もしこれが罠だとして、どう使うかを考えりゃあ……」
 とりあえず、と周囲を見渡した。
「どっかで一部始終を撮影してんじゃねーかと思うんだけどよ」

 へくちっ、と、密かに隠れた場所でくしゃみの音がしたことには、気付かない二人である。

「そんな中で下手に姿を曝すこともねーやな。
 用心に越したこたぁねえ」
「撮影者はそのままにしておくの?」
「気にはなるがな。無駄な労力だろうぜ。
 俺にゃ関係ねえことだ」
「全く……」
 エリザロッテは、軽く肩を竦めた。



「――来た」
 双眼鏡に食い付いて、永谷はそこに見えるものを凝視した。
 二人の巨人が歩いて来る。
 騎士甲冑と、古代ローマ風の戦士。情報の通りだ。
 巨人は、待ち構えるイコンに気付くと、騎士甲冑を振り返る。
 何かを言われた騎士甲冑は、数歩後退して足を止め、巨人はそのまま歩いて来た。


「……ふむ。やはり直接王宮に攻めこむのは無謀、か。
 だが祈祷所の位置が解っただけでも大殊勲というもの。よくやった」
 その男の指には、黒い小鳥が乗っている。
 四十代ほどの、黒髪の男。
 肩には黒猫、また足元には、黒いイタチのような生き物がいる。どちらも、彼の使い魔だ。
「あとは、こちらの状況がどう動くかだな。まずは見物といこう」
 密かに潜む岩場の向こう、充分に距離を置いた先は、巨人対イコンの戦闘が始まろうとしている。
「お前達、巨人やあの甲冑周りの会話を拾って来い」
 男の指示に、使い魔達の姿が消えた。


「いましたわ。
 巨人と、騎士甲冑……。でも、博士とハルカさんの姿は見えません。
 巨人やゴーレムの上にも乗っていませんし、周囲にもいませんわ」
 操縦士、ユーベル・キャリバーンが確認する。
 大型飛空艇、アイランド・イーリは、待ち伏せではなく、ベースキャンプに向かって進んで巨人に追い付いた。
 しかし、ラウル・オリヴィエは、巨人と同行していない。
 周囲を警戒する二人、空飛ぶ箒ファルケに乗ったアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)と蹂躙飛空艇に乗ったイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)からの、巨人と騎士ゴーレム以外の人物を確認できない、という報告に、
「例え隠れるにしても、光学迷彩とか、そういうのを使う人達じゃないと思う。
 姿が見えないのなら、本当にこの場にはいないんだわ」
と、全員の意見が概ね一致して、オリヴィエの捜索の為に巨人を探していた者達は、捜索を続行する為に、その場をイコン部隊に任せて離脱した。

 だが、飛び去る飛空艇を見送りながら、地上から追い付いた光臣翔一朗や樹月刀真らは、その場を動けないでいた。
 立ち去ることはできなかった。
 それは、名刺の矢印が向かう先を確認したからだ。
「……まさか……」
 信じられない気持ちで、翔一朗は矢印の指す先を見る。
 そこには、騎士甲冑――オリヴィエ博士によって造られた、ゴーレムがあったのだった。



「追い付いてくるかと思ったが、先回りして来たか」
 巨人は、抜き身のまま背負っていた大剣を手に取る。
 その足元に、銃弾が弾けた。
「なるほど、上にもいるか」
 巨人は鷹揚に上空を見上げて呟く。

「おじちゃん!」
 その足元に、生身の人間が走って来て、巨人は驚いてその子供を見下ろした。
「まってください! すぐにたたかうのは、ダメなんです!」
 ぽかん、と、巨人は足元を見下ろしている。
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、ぶんぶんっと両手を振り上げた。
「ボクは、おじちゃんとお話して、なかよくなりたいんです!」
「……戦うのでないのなら退くがいい。邪魔だ」
「ダメです!
 たたかわずになにかできないんですか!
 どうして女王さまをころさなくちゃイケないんですか!」
 やれやれ、と巨人は息を吐き、ヴァーナーを摘み上げた。
「うきゃー!」
「足元に居るな。踏み潰してしまいそうだ」
 ぽいっと放られた先は、巨人の肩の上で、ヴァーナーは驚いた後、ぱっと笑って巨人の横顔に向き合った。
「これでお友だちです!」
「何故だ」
 巨人は呆れる。
「逃げるつもりが無いのなら、しっかり掴まっているのだな」
「たたかうのはダメなんですーっ」
 ヴァーナーの訴えも聞かずに、巨人はイコンに向かって身構える。
「どうしてですかっ……!」
 ぎゅう、と巨人の頬にしがみ付くヴァーナーに、ふっ、と諦めたような息を吐く。
「……知りたいことがあるからだ」
「えっ?」



「何考えてるのよフィス姉さん――!!!」

 戦場に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の絶叫が木霊する。
 イコンサイズの巨人が騒動を起こしているらしい、という噂に、これが実際にイコンだったら、イコン嫌いのパートナー、ヴァルキリーのシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は止めるの大変だったろうな、などと呑気に考えていた。
 まさか、女王殺害を企てているという噂もある巨人に協力するほどトチ狂っていないだろう、と。
 だから巨人を追って来たのも、正義感からのはず、だった。それなのに。

 シルフィスティが生身でイコンと戦う悪夢のような光景が、現実の目の前には広がっている。
「だってもう、気が付けばあっちでもこっちでもイコンイコンイコン!
 もうね、イコンを何とかしないと、この世界は人間よりイコンの方が偉くなっちゃうんだから!」
 そのイコンを殲滅させたという巨人は、いわばシルフィスティにとって救世主。
 加勢しないで何をしろというのだろう。
「馬鹿言ってないでもう、犯罪者になっちゃうんだからねっていうかだからって何で生身でせめて顔を隠して、じゃなくて!!!」
 という人間2人のやり取りを、上では巨人が眼前の敵と戦いながらもぽかんと見ていたが、やがてくつくつと笑い出して、自分の戦いへの集中へ戻る。

「はぁ!? 何で生身の人間が攻撃して来るんだっ!?」
 一方、手近な位置に居たというだけでシルフィスティの標的と化した、バルムング猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は困惑する。
「マスター。対象を敵として認識いたします」
「チッ、了解!
 折角の巨人との戦いを邪魔しやがって、返り討ちにしてやるぜ!」
 パートナーの機晶姫、セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)の言葉に、勇んで操縦席にかぶりつく。
「意気込むのは構いませんが、空回りなさらないでくださいますよう」
「解ってるっつの! サポート頼むぜ!」
 バルムングは剣を構えたが、相手が小さい上早く、上手く狙いを定められない。
「見失った!」
「マスター、背後に!」
 がくん、と強い衝撃に体勢を崩した。
「膝の関節にダメージ」
「くそ!」

 レーザーブレードに真空波を乗せて、膝裏の関節を攻撃したシルフィスティは、身を翻しながらバルムングが薙いだ剣を、辛うじて躱した。
「あっぶない!
 でもコイツ、今イチ動きがぎこちないわね?」
 機体は凄いけど、パイロットがまだ慣れてないのかしら、と推測する。
「よし、もう一撃っ」
 今のダメージで、更に動きは鈍くなっているはずだ。
 そこへ、勇平の機体が攻撃を仕掛けてきた。
 地表を払うように、バルムングの剣が唸りを上げる。
 何とか寸でで避け切ったシルフィスティは、そのまま足元に滑り込んだ。
「! またか!」
「後退いたします!」
 位置を捕捉するよりも、距離を置いた方がいいと判断したのだが、潜り込んだシルフィスティが足首の関節に攻撃を仕掛ける方が早かった。
「大丈夫か、セイファー! ダメージは!?」
「損傷、トータルで15%。
 戦闘自体に問題はありませんが、地上における機動力が著しく低下しています。変形も危険です」
「このまま飛行は?」
「問題ございません」
「仕方ない、一旦ベースキャンプに引く!」
「了解いたしました」
「くっそー、地味にダメージ食らわせやがって! とんだ伏兵だっ」
 忌々しそうに勇平は呟く。