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第四章:お風呂天国
 ここはスパリゾートアトラス内の男湯である。「のっけから男湯等見たくねーよ」という声を黙殺して話は進む。
 この湯は所謂、『昭和の銭湯』を再現したものであり、男湯と女湯は上に隙間を持つ壁で仕切られている。勿論、その壁には『飛行禁止』『ノゾキ行為禁止』の看板が張ってある。また、湯船の奥に見えるタイル貼りの壁には山脈の画が描かれ、入浴客達は、プラスチックの椅子に腰を下ろして身体を洗ったり、湯船で談笑している。そんな雰囲気の中……。
「よっと……」
 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)は、半透明の黄色の洗面器を丁寧に積み上げていく。
「ユーシスを撒いておいて正解だったぜ……アイツときたらロマンのロの字も知らないからな」
 上に向かって着実に三角形の山のように積み上げられていく洗面器。
 そんな様子を、丁度、樹月 刀真(きづき・とうま)と一緒に来ていた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が見つめている。
「樹月くん?」
「何?」
 ゴシゴシとシャンプーの泡をたてる刀真が振り向く。
「シャウラくんて、同じ教導団の人だよね?」
「ああ。さっき挨拶した」
「……いいの? あの行動を許しておいて」
「別に今は任務中じゃないし」
「えっと……隣が女湯で月夜達が月夜や沙幸達と一緒に入っているはずだけど……」
「……そう言えば、そうだったっけ?」
 刀真はそう言うと、シャワーで頭を洗い流していく。
「いやー、ひと仕事終えた後の温泉は格別ですねぇ」
「ん? 今の声は……」
 佑也は、聞き覚えのある声に反応して壁を見上げる。
「楓? 楓か?」
 ワンテンポ遅れて壁の向こうから返事が聞こえる。
「おおー、この声は旦那! 偶然ですねー。旦那ぁ? もしかしてお困りですかぃ?
「もしかしなくてもお困りですよー。悪いけど石鹸貸してくれないかー?」
「石鹸?」
「持ってくるの忘れたんだ」
「成る程ー。あっしはもう身体洗いましたし、お貸ししますよ。ちょーっと待って下さいね」
「ああ、助かる……待て! 待つって何を待つんだ?」
「おーおー、こっちは目のやり場に困る事態に……。まったく皆さん元気のよろしい事で」
「楓、待て! 話を逸らすなよ」
 嫌な予感を佑也が感じる中、シャウラの洗面器ピラミッドは間もなく完成しようとしていた。