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お風呂ライフ

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お風呂ライフ

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 混乱の中、長き旅をついに終えようとしている者がいた。巨猿から降りたアルフである。混乱の最中、ずっと一緒だったエールヴァントの姿は消えていた。
「エルヴァ……おまえの意志は俺が継いでやる! チッ、敵の妨害が苛烈を極めてやがるぜ!!」
【隠形の術】で姿を隠しつつ女湯へ突撃するアルフ。【千理走りの術】に【疾風迅雷】で機動力をあげ、【殺気看破】で警備員を察知し、一気に進む。
 ダンッと、銃声が響く。
「(クッ、まだいたのか!?)」
 アルフが弾丸をかわす。
 ダンッダンッダンッ!!!
 発射の感覚からショットガンだろうと推測するアルフが、横目て敵の位置を探る。
「(岩場の影からか!! だが、俺も散っていった同士達のため、歩みを止めるわけにはいかないんだ!!)」
「……」
 岩場の影に潜む者が【超感覚】でアルフの位置を読む。ピョコンと飛び出るシェパードの耳。
 アルフの目前に、女湯が迫る。
「うふふ。のぞきなんて出歯亀野郎はぶっ殺しちゃっていいわよハーティオン!」
「ラブ。あなた時折物騒な事言うわね」
「(声!! 女の声!! しかも一人は確実に俺の射程範囲内!!)」
 外見14歳未満は射程範囲外のアルフの胸が踊る。
 ダンッ!!
 またしても頭部をかすめる弾丸。
「邪魔するな……あ!? お、おまえ、エルヴァ!?」
 【シャープシューター】と【スナイプ】でしっかりとこちらの頭を狙う、岩場の人物に驚愕するアルフ。
「あっ、エルヴァが邪魔するなんて聞いてねぇぞ? おい、銃を向けるのはヤメロ」
「僕は言ったよな? そろそろお前も素行を少し改めたらどうだい、と」
「待て! 今まで溜まっているウサを晴らしているとか言わねぇか、それ!!」
 アルフが叫ぶも、エールヴァントは走る彼の1秒後の予想位置へ向けて、正確に狙いを絞る。
「けど、止まるわけにはいかないぜ!!」 
 アルフが女湯へ向けて最後の跳躍を見せる。
「ん?」
 ラブが上空を見上げると、そこには跳躍を決めたアルフの姿があった。
「ひっ……」
 因みにアルフの視線はラブではなく鈿女に向いていた。
 息を大きく吸い込んだラブは、フルパワーの【叫び】をお見舞いする。
「いやああああああ!! 痴漢!! 覗き魔!! 女の敵!! 死ねええええええ!!」
「了解しました」
 ラブのリクエストに応えて引き金を引いたエールヴァントの弾丸がアルフの頭部を直撃する。
「見え……ギャウッ!?」
 頭部にエールヴァントのゴム弾を食らったアルフは、その反動で、女湯の上空を飛び越し、隣の男湯へと落下していく。
「よし。止めた……」
 派手に水しぶきを上げて落下したアルフを確認したエールヴァントは、やれやれと溜息をつく。
「僕ももう少し早めに仕留めれば良かったけど、これも教導団の訓練にはなるだろうしな」
 そう言いながら、ショットガンを抱えてエールヴァントは素早く行動を開始する。恐らく男湯に水没しているであろうアルフの回収を警備員より早く行うために……。


 スパリゾートアトラスの近郊で起きた爆発現場には、クェイルに搭乗するセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がいた。
 話は爆発前に遡る。
「あー、慣れないイコン操縦訓練のためとはいえボーリングするなんてね……って、ちょ、当たった!?」
 滲みだすお湯を見ながらセレンフィリティがセレアナに確認する。
「ええ。セレン。どうやら私達が掘り当てたのは、温泉のようね」
 先程まで「春休みがつぶれたー! イコンなんか大嫌いだー!」と嘆く恋人に「自業自得でしょ」と非情なツッコミを入れてていたナビゲーターとして補佐するセレアナが冷静に告げる。
 セレンフィリティは、教導団でのイコン操縦実技の成績が散々だった(筆記試験でどうにか赤点だけは避けられた)ため、春休みを利用して操縦訓練を行え、という学校側のありがたい配慮により、泉質調査員として温泉発見に参加する事になっていたのだ。
 二人は、目星をつけた箇所でのボーリング作業にクェイルを使って作業をしていた。
「でも、まだ岩盤の一部に穴を開けただけのようね」
「じゃあ、機晶爆弾を使って細かく砕く方が慣れてるし楽なのでそうしようよ!」
「……爆弾は……」
「いいのよ! どっちにしても岩を砕かないと温泉が出ないでしょう?」
 機晶爆弾をセットし、しばし待っていると、
ドガアァァァーーンッ!!!
 巨大な爆発と地響きの後、間欠泉のようにお湯が吹き出す。
「やったわ! 温泉よ!!」
「ええ、しかも良い泉質のね」
 セレアナが泉質を調べると、どの数値もそれが『凄い温泉』であることが判明する。
「え、嘘、マジ、あたしが見つけたの!?」
 それまでのゲンナリしたセレンフィリティの表情が一転、大喜びにかわる。
「これだけ凄い温泉の権利なら、宝くじの一等当てたのと同じ価値があるじゃないの!」
 テンションが上昇するセレンフィリティ。
「だけど……おかしいわね。この近くは温泉があちこちで出ているのに、この湯量は……」

 そこにジャイアントピヨに乗ったアキラが一頭の巨猿と一緒に駆けつけてくる。
「ああ、やっちゃった!」
「え?」
「この巨猿が教えてくれたんだ。とある岩盤を割ると、良いお湯が凄く吹き出る。けど、それは本来巨猿達の天然温泉のお湯だったんだ」
「どういうこと?」
「スパリゾートアトラスは、この一帯の温泉の湯から少しずつ分散させて湯を引いていたんだ。だから、巨猿達は自分たちの天然温泉の湯量が減ってしまった。そして、今セレンフィリティさん達が掘ったのは、その中心部。つまり、良質な温泉だけど勢いが強すぎて周囲一帯を枯らしてしまう可能性がとても高い温泉なんだよ!!」
「……」
「ど、どうしよう?」
「そんな事言っても、泉質調査員として温泉を掘るのが私達の仕事だったのよ?」
 セレンフィリティとセレアナが顔を見合わせる。
「グゥオオオ」
「ピッ? ピピピィ!」
 巨猿からピヨへ、そしてアキラへと伝わる情報。
「何だって、ピヨ? ……一旦埋める? それ別のところを掘ってお湯の量を調整するって?」
「仕方ないわね。セレン、イコンを使って近くの岩で一旦蓋をするわよ」
「む、無理よ! あたしのイコンの操縦じゃあ……」
「ここで上手くやれば、教導団でも通用するわよ」
「うー……やっぱりイコンなんて大嫌いだーー!!」

 クェイルで巨大な岩を担ぎ上げたセレンフィリティとセレアナは、吹き出すお湯を止めるべく岩を置こうとするが……。
「流石に勢いが強いわね……」
 水圧に押されて中々蓋を出来ないセレンフィリティ。また、アキラもピヨで手伝おうとするが、ヒヨコの手では腕力が足りず断念していた。
 と、そこに、駆けつける4体のイコン。
「お待たせ! 事情はわかったから、手伝うよ!!」
 美羽のグラディウス。
「やっと掘った温泉を埋めるのは複雑だね」
 理知のヒポグリフ。
「確かにな」
 翔のジェファルコン。 
「周辺被害を最小限にする事を第一に動くんだ」
 庚のソルティミラージュ。
「みんな……ありがとう!!」
 セレンフィリティが礼を述べ、
「じゃ、せーのでいくわよ!!」
「「「「了解!!!」」」」
「せーの!!」
 水圧を跳ね返した5体のイコンの力により、間欠泉は蓋を閉じられた。