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ザ・修行

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ザ・修行

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第1章 真剣勝負で修行だぜっっっっっっっっ!!

 シャンバラ大荒野。
 その一画に、いま、本気も本気、超本気で「修行」をしたいと思っている猛者たちが、気炎をあげて集結しつつあった!!
 これは、いまをときめく老若男女の、ハートを熱く燃やし己をひたすら高めに高めていく、気合と根性と誠の物語である……。 

「フハハハハハハハハハハハハハ!! フハハハハハハハハハハハハハ!!」
 顎が外れそうなほどの洪笑をあげながら、ドクター・ハデス(どくたー・はです)が現れた。
 なぜ、彼はそれほどまでに笑っているのか?
 何か楽しいことがあるのか?
 どうみてもインドア派の彼も、修行をしにきたのであろうか?
 なぜ、この男が最初に登場しなければならないのであろう?
 だが、ハデスは、それらの疑問に決して答えることはない。
 なぜなら、彼の思考、そして会話は、ひたすら「一方通行」であり、他の者の抱く疑問や指摘を、聞いているようで聞いていないからである!!
「フハハハハハハハハハハハハハ!! ここか、多勢の猛者どもが修行に明け暮れているという奇特な地点は!! なかなかいい感じではないか!!」
 何がどう「いい感じ」なのか、誰にもわからないが、ハデスは満足そうにうなずきながら、一歩一歩、踏みしめるように荒野を歩いていった。
 その様子は、まさに、真の意味での「自己満足」であった。
 と、彼は立ち止まると、誰もいないはずの前方をビシッと指さし、こうのたまったのである。
「全国の蒼フロユーザーの諸君!! 待ちわびたであろう、我は、我こそは、天才科学者、ドクター・ハデス!! いずれ、高校の世界史の教科書にもその名が載るに違いない、今世紀の英傑中の英傑であるぞ!!」
「あ、あの、どこをみて、誰に向かっていってるの?」
 デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)は、毎度のことながら、ハデスの異様なテンションにひきそうになるのを必死にこらえながら、おそるおそる、尋ねずにはいられないことを尋ねた。
「うん? 決まっているだろう。カメラに向かってだ!!」
 ハデスは、いいところなのに邪魔するな、といった顔で、デメテールを睨んでいった。
 その視線は、デメテールからみて、断崖絶壁の真上から見下ろされているかのような、圧倒的な「上から目線」であった。
「カ、カメラ!? ど、どこに……あ、ああ、何でもないー!!」
 デメテールは質問したことを後悔しながら、どうでもいいですというように首をフルフルと振った。
 実はその様子は、かなり愛らしかったのである。
 だが、ハデスは、性欲などないのか、デメテールの愛らしさに心を奪われたような様子は微塵もみせない。
 いや。
 野望の前には、性欲など殺せるのが、ハデスなのである。
「え、えーと、ハデス様、ここにきたということは、ハデス様も修行をなさるのですか?」
 デメテールとともにハデスの後方からついてきていた、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が、なぜだかドキドキしながら尋ねた。
「うむ? 我が修行? 何をいっておるか。未熟者が!!」
 アルテミスの不安は的中し、ハデスはみるみるうちに顔を真っ赤に紅潮させて、叱責の声をあげた。
「わ、わあ、す、すみません!! 申し訳ありませんでした!!」
 わけがわからないまま、アルテミスは謝った。
「まったく。調子が狂ってしまうではないか。もう少し、しっかりしてもらわないと困るぞ。では、気を取り直して」
 ハデスは、ブツブツいいながら姿勢をただし、デメテールたちをビシッと睨みつけて、いった。
「聞け、世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部である我が命ずる!! 我と契約せし悪魔怪人デメテールよ、師である唯斗のもとで、忍びとしての修行をしてくるのだ!!」
 ハデスの言葉に、デメテールは目を丸くした。
「えー、修行なんて面倒くさいー」
「逆らうことは許さん!! デメテールよ、悪の忍者怪人として、あらたな力に目覚めてくるのだ!!」
 ハデスは、目を血走らせてデメテールに怒鳴りつけた。
「わ、わかりました。山にいってきます」
 デメテールは、しゅんとなってうなだれた。
 ハデスの命令は、絶対であった。
「あの、ハデス様。私も修行に参加するんでしょうか?」
 アルテミスが尋ねた。
「うむ。オリュンポスの騎士アルテミスよ、お前も修行に同行し、戦力を高めるのだ」
 ハデスは、うなずいていった。
「わかりました。デメテールさん、行きましょう」
 アルテミスもうなずくと、デメテールの手をとって、足早にその場を去ろうとした。
「待てい!!」
 すかさず、ハデスが後を追ってきた。
「え、ええ、ついてくるのー?」
 デメテールが、思わずぼやく。
「いかにも。修行には我も動向し、我が究極の発明品の数々で修行をサポートしてやろうではないか。ありがたく思うのだぞ!! フハハハハハハハ!!」
 ハデスが、再び洪笑をあげたとき。
「ウホ、ウホ!!」
「ホホ、ホホ!!」
 怪しげな雄叫びとともに、多数の人影がハデスたちを取り巻いて、悪魔めいた踊りを踊り始めたのである。
「うぬ、何やつ!? オリュンポスの野望を阻止せんとする、他の秘密結社の者どもか!? デメテール、アルテミスよ、戦闘準備をとるのだ」
 ハデスは、顔を蒼くして、デメテールたちの背後に隠れようとする。
 だが。
「きゃー、怖いー」
 デメテールは、主人を置いて真っ先に逃げ出しかねない勢いだ。
「ハデス様。こいつらは、シャンバラ大荒野の首狩り族です!! 気をつけないと、首を狩られてしまいます!!」
 アルテミスは、迎撃態勢をとりながらも、どう切り抜けるべきか案じ顔だ。
「待て、逃げるな、デメテール、うわー!!」
 走りだしたデメテールをつかもうとしたハデスは、首狩り族たちがいっせいに襲いかかってきたのをみて、悲鳴をあげた。

 そのとき。
「ここは任せろ。早くいけ!!」
 叫びとともに、樹月刀真(きづき・とうま)が飛び出してきて、ハデスに襲いかかった首狩り族にタックルをくらわせた。
「ホホォ!? ウホホホホ!!」
 タックルをくらって転倒した首狩り族が、怒りの雄叫びをあげる。
 だが、刀真は涼しい顔だ。
 否。
 刀真は、相手が発する以上の殺気を発して、首狩り族を睨み返していたのだ!!
「どうした? かかってこい。首狩り族なら、俺の首を狩ってみせろ」
 刀真の言葉を聞いているのかいないのか、起き上がった首狩り族は巨大な斧を振りあげると、ものすごい勢いで振りまわして、刀真をバラバラに斬り刻もうとした。
 殺人旋風。
 刀真の背筋を、ゾクゾクと駆けあがるものがあった。
 その感触こそ、刀真を修羅の世界へと駆り立てるものだったのだ。
「勢いはいいが、考えろ。力だけで、風のような俺をどうやって斬るつもりだ?」
 刀真は冷徹な口調でそう言い放つと、白の剣を音もなく抜き放って斧の刃を軽く弾くと、さっと相手の背後にまわりこんでいった。
 しゅるるる
 鋼鉄の殺意が、首狩り族の首にまとわりついた。
「ホホホ!?」
 首狩り族は、ワイヤークローが巻きついた首に手をかけ、苦しそうにうめく。
「ホホホじゃない。遺言は何かと聞いている」
 刀真は、ワイヤークローを強く引いた。
 びく!!
 窒息した首狩り族は、身体を硬くさせた。
「静かに、静かに。逝くときは、せめて、美しく散れ」
 刀真は静かにそう囁くと、白の剣を、音もなくひらめかせた。
 ころり
 首狩り族の首が、椿の花が落ちるときのように、前触れもなく、まるごと落ちていった。
 ぶしゅう
 一拍置いて、首狩り族の首があった付け根の部分が、鮮血が吹きあがる。
 刀真は、返り血を拭いもしなかった。
「血か。そうだ。血は、ただの血だ。何らの感慨も持つ必要はない。ただ、風のように吹かれていればいい」
 刀真の次の思考は、斜め後ろから斬りかかってきた別の首狩り族の雄叫びにかき消された。
「ウ、ウボボボボボボ!!」
 声にならぬ怒りの叫びをあげながら、仲間を殺された首狩り族は、いきりたって刀真の胸に斧を振りおろす。
「月夜!」
 刀真は、冷徹な瞳の色を曇らせることなく、半歩身をひいて斧の斬撃をすかすと、振り返りもせずに、相方を呼んだ。
「はい。側にいるわ」
 漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)が、さっと刀真の脇に駆け寄って、胸を反らし、肩と肩を触れあわせようとする。
「でも、ここは女人禁制じゃなかったかしら?」
「月夜。お前は剣だろう? 女としているなら、すぐに帰れ」
 刀真は、振り向くことなく、体温で月夜の存在を感じとりながらいった。
「そうね。私は、剣。刀真に使われるのよね。でも、それでもいいわ。必要とされているんだから」
 そういうと、月夜はさらに胸を反らして、光条兵器を発現させた。
「さあ、握って。楽しみにしているんだから」
「月夜。お前は剣だ」
 刀真はもう1度そういうと、月夜の胸から伸びてきた剣の柄に手をかけた。
「顕現せよ。黒の剣!!」
 かけ声とともに、刀真は白の剣と、月夜の胸から抜いた黒の剣との、二刀流の構えをとった。
「ホ! ホ! ホ! ホ! ホ! ホ! ホ!」
 リズミカルな叫びとともに、首狩り族たちが次々に刀真に斬りかかってきた。
 刀真は、疾った。
 風のように軽やかに、二本の剣を鮮やかにひらめかす。
 ぶしゅ、ぶしゅっ
 次々に鮮血が吹きあがり、首狩り族たちの首が地面に転げ落ちてゆく。
 あっという間の出来事だった。
「いっさいの感情を入れる必要はない。殺戮というのもまた、風のようなものだ」
 刀真は、そう呟いた。
「大量ね。これ、どうするの?」
 月夜が、首狩り族たちの生首がごろごろ転がっているのをみながら、いった。
「紐でつないで、持っていこう。修行の証だ」
 刀真は、感情を入れない口調でいった。
「感情を入れる必要がないって、本当? 私は確かに剣よ。だけど、どうかしら?」
 月夜は、刀真に身体をもたれさせて、聞くともない口調でいった。
「そうだな。いい剣だ」
 刀真は、そのままいった。
「ありがと。それ、最高のほめ言葉よね」
 月夜は、胸の奥がじわっと温かくなるのを感じた。
 刀真に使われるということが、月夜には何よりの悦びであったのだ。
「気を抜くな。敵はまだいるぞ」
 刀真は、さらなる敵襲に備えて、剣を空に振りあげた。

「あ、あわわ。な、何なのだいったい!? オリュンポスへの一斉攻撃が始まろうとしているのか!?」
 ドクター・ハデスは刀真の活躍を目を丸くして眺めながら、次第に数を増してくる首狩り族の姿を目にして、いっそう震えあがる自分を感じていた。
「わー、かっこいいですー」
 デメテールは、刀真の活躍に惚れ惚れとしていた。
「気をつけて下さい。早く退避しましょう」
 アルテミスは、ハデスたちを促した。
「う、うむ。だが、ここで逃げたら、お前たちの修行はどうなる? そして、オリュンポスの野望はどうなるのだ?」
 ハデスは、錯乱した様子で叫んだ。
「戦場にたわごとは不要だ。口しかまわらないなら、すぐに去れ。無駄に生命を捨てるつもりか」
 刀真が、厳しい口調でハデスにいった。
「いや、ちょっと待つのだ。我の発明品を……」
 ハデスは、鞄をごそごそとあさって、何かを取り出そうとした。
 いかにも、もたもたとした、まだるっこしい動きであった。
「ウホホホホホホホー!!」
「わ、わあああー!!」
 待ってくれるはずもない首狩り族たちの強襲を受け、ハデスは悲鳴をあげると、鞄を急いで閉じて、逃げ惑った。

「刀真。数が、本当に増えてきたけど。全員殺るつもりなの?」
 月夜が、刀真に尋ねた。」
「無論だ」
 刀真は、淡々といった。
「どうして、そこまでして闘うの?」
「自分をみつけるため、だ」
 それだけいって、刀真は首狩り族の大群に斬りかかっていった。

「よし、ちょうどいい人数だ。相手にとって不足はない、というか、選ぶつもりはない。いくぞ!!」
 武神牙竜(たけがみ・がりゅう)は、雄叫びをあげると、首狩り族の群れに自分から突っ込んでいった。
 ちょうど、無数の敵に斬り裂かれかかった刀真をかばうようなかたちで身体を割り込ませると、武神は拳の一撃を首狩り族の横面にめりこませた。
 ボゴォ!!
「ホホ、ブー!!」
 武神にぶん殴られた首狩り族は天を仰ぐと、勢いよく鼻血を吹き出した。
「助けたつもりか? 呼んでいないが」
 刀真が、淡々とした口調でいった。
「いや、たまたま通りかかっただけだぜ。実は、修行ということで、百人組み手をやろうと思っているんだ」
 武神は、爽やかな口調でいった。
「百人組み手?」
「読んで字のごとく、無差別に百人と闘って、打ち倒すんだ」
 武神は、力こぶを示していった。
「どうでもいいが、なぜ拳を使う? 剣があるだろう」
「あっ、そうか!! こいつは一本とられたぜ!!」
 刀真の追求に、武神はポンと手を叩いて、ニコニコ笑いながら、剣を抜いた。
「……」
 刀真は武神に興味をなくしたのか、淡々とした闘いを続けていく。
「刀真。私は、剣よ。それでいいんでしょう?」
 月夜が、何かを確認したいかのように、刀真に尋ねた。
(わからないのか。月夜、お前という剣を使うから、俺は、自分をみつけることができるんだ)
 刀真は、その思いを口にすることなく、首狩り族の首を淡々と狩り続けた。
「よし、俺も負けてられない。いくぜ!! どらららあ!!
 武神は、裂帛の気合いとともに、炎のアッパーパンチで首狩り族の顎を砕いていった。
 また、剣を使うのを忘れていた。

→→→武神の百人組み手、現在12人達成!!
残る88人を無事倒せるのか?


「たあ、とあー!!」
 空高く響きわたる威勢のいいかけ声とともに、高峰雫澄(たかみね・なすみ)は、ひたすら剣の素振りを続けていた。
「はあ。いい汗かいてるなあ。あっ、首狩り族?」
 高峰は、首狩り族の群れが自分に押し寄せてきているのに気づいた。
「くっ、ここで野望が潰えるというのか? いや、しかし!! というか、デメテールはどこだ!?」
 ドクター・ハデスが、必死の形相で首狩り族から逃げてきて、高峰にぶつかりそうになった。
「あっ!! 修行の妨害はダメだよ!!」
 高峰は頬を膨らませてそういうと、ハデスを軽く突き飛ばした。
「は、はわわー」
 ハデスは泡をくって、転倒する。
「どんどんくるね。いいよ。どんどん、修行するよー!!」
 首狩り族の襲来を目前にしてもひるむことなく、むしろ、爽やかな笑顔をみせながら、高峰は死闘に自ら飛び込んでいった。
 そして。
「うん!? うわー、俺にいきなり攻撃か!! やるな!!」
 高峰の剣の一撃に斬り裂かれそうになった武神が、驚きの悲鳴をあげた。
「首狩り族じゃないのも混じってる? でも、修行だからいいよね!!」
 高峰は一瞬首をかしげたが、ニコッと笑って剣を振りあげると、武神に力いっぱい斬りかかっていった。
「待ったなしか。面白い。燃えるぜ!! 百人組み手!! 百人一首とは違うからな!!」
 武神はわけのわからないことをいいながらも、己を熱く燃えたたせて、高峰と真剣勝負を繰り広げた。

「く、くそ!! 何なんだ、ここは!! もうめちゃくちゃではないか。だが、どのような困難にも、我は、いや、オリュンポスは負けぬ!! いつの日か必ず、栄光の世界帝国を再建してみせよう!!」
 あまりにすごい闘いの様子にひきながらも、ドクター・ハデスは不退転の志をふるいたたせるのだった。
 だが、「再建」といっても、まだ最初の建設さえ終わっていないはずなのだが……。