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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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 ■ 初恋は夏の色 ■




 今年こそはこっそりと地球に帰って、のんびりしよう。
 前に帰ったときには、地元空港で父に捕まり連行されてしまったから、今年は地元にすら寄りつかずにこのまま東京見物と洒落込もう。
 そう思いながら上野駅に降り立った東條 カガチ(とうじょう・かがち)だったのだけれど。
「おおい、こっちだべ」
 手を振る父の姿に、カガチは駅名を確かめる。
 上野駅。
 間違いなくここは東京で。
 地球に帰る日どころか帰ることさえ内緒にしてあったのに、何故ここに父がいるのだろう。
 首を傾げつつも、寝台特急の切符持参で迎えにきている父親に、カガチは諦めムードで大人しく連行されたのだった。


 来るつもりもなかった実家に里帰りしたものの、家にいても畑仕事や雑用を手伝わされるくらいで基本的には暇だ。
 せっかく地球に来ているのだからと、カガチは近くの街……といってもバスで2時間の距離なのだが……に出て、気の向くままにぶらぶらと歩いた。
 買う気のない店を覗いてみたり、本屋で涼を取ってみたり。それなりに久しぶりの街を楽しんで散策している背中に、不意に声がかけられた。
「カガチ君? カガチ君じゃない?」
「へ?」
 振り返ったところには、人懐っこい笑顔を浮かべた女性がいた。
 歳はカガチと同じくらいか。金の瞳に黒い髪、笑った口元には八重歯。
 どこかですごく見覚えのある顔なのに、誰だったか思い出せない。
「え、あー、ああ、あの」
「まさか、私のこと覚えてないの? 柳田夏子。思い出した?」
「思い出した、ような、してないような……」
 正確に言えばカガチは、思い出したいような、思い出したくないような不思議な感覚にとらわれていた。こんな感覚があるくらいなのだから、確かに知り合いなのだろうけれど。
「もう」
 笑いながら睨んでくる柳田 夏子を、立ち話もなんだからとカガチは近くにある喫茶店に誘った。

「たまたま旅行でこっちに来たらカガチ君と会えるだなんてね。これも運命かと思ったのに、覚えてくれてないなんて」
 もうすぐ結婚予定の夏子は、独身時代最後の思い出に一人旅をしているのだと話した。子供の頃のことを思い出して、ここも旅行の計画に入れたのだが、そこで昔なじみに会えるとは思わなかった、と夏子は懐かしそうにカガチを見る。
「私、カガチ君に逆プロポーズまでしたのに。『カガチ君のお嫁さんになってあげる』って」
 夏子のその言葉で、カガチは思い出した。

 あれは小学校四年生の夏休み。
 夏子は家の事情で夏休みの間だけ、カガチの地元に疎開してきていた。
 2人はたちまち仲良くなって、夏休みの間中、あちこちを駆け回って遊んだ。
 けれど夏が終われば、夏子は元の家に帰らなければならない。夏子の家は、小四のカガチにとっては到達することのできない遥か遠くの場所としか思えなかった。
 別れが寂しくてたまらなくて、あまりの辛さにカガチはその夏の出来事を『なかったこと』にしてしまったのだ。
 そうしないと耐えきれないほど、凄く大事で、凄く好きだったんだろう、とカガチはその当時の自分の気持ちを振り返った。
 けれど、それを夏子本人には言わずにおく。もうすぐ結婚するらしいし、余計な心配をかけるわけにもいかないだろう。

「そうだ。せっかくだからメアド交換とかしたいよね」
 夏子はカガチの様子には気付かず、携帯電話を取りだした。
「メアド? 俺あんまメールしないけど」
 そう言いつつカガチも携帯電話を取りだして、夏子とメールアドレスを交換した。
「カガチ君、契約者なんでしょ? パートナーの子たちにも会ってみたいなあ、なんて。私も旦那様予定の人紹介したいし、また会おうね!」
「だねえ。今度はなぎさん達も一緒に遊びたいかも」
 そう答えながら、カガチは気付いていた。
 パートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)の姿は、小学四年生の頃の夏子であることに。それと同時に、ある人への想いが恋心であったことも。
(ガキの頃に大事だったのは夏子ちゃんで、今大事だったのは『あの人』で……。じゃあなぎさんは、なんなんだろうねぇ……?)


 懐かしむのは、子供の頃の夏の恋。
 気付いてしまったのは、あの人に対して抱いていた恋心。
 そして、分からないのは……今の自分の心にある何か――。