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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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 ■ 両手に胸 ■



 シスターがふらりとダイニングルームにやってきた頃には、樹月 刀真(きづき・とうま)はもうかなりの杯を空けていた。
「いい酒をそんな飲み方するだなんて、バチあたりだね」
 酒瓶のラベルに目を走らせて、シスターはそんなことを言う。
「これくらいでバチが当たるなら、俺はもう千回は死んでる……」
 刀真の自嘲に、神父なら何万回、と言いつつシスターはさっさと自分の分の杯を出してきた。
「けど私は清廉潔白だから、きっと良い事が百万回あるに違いないねぇ」
 人の酒を横取りしておいて何を言う。
 普段ならそう文句を言う所なのだけれど、その気力も湧かず、刀真はシスターが杯になみなみと酒を注ぐままにしておいた。

 シスターは何も尋ねず、杯を口に運ぶ。
 その沈黙に耐えかねて、刀真はぽつりぽつりと話し出した。
「月夜と白花、玉藻は俺の物で、俺はあいつ等の物だ……。だから俺はあいつ等を好きにするし、あいつ等が俺に何をしようと当たり前に受け入れる」
 それは刀真がずっと貫き通した信念、否、信念と言うにはそれは疑う余地も無い真理であり、呼吸するように自然に受け入れているものだ。

 ……けれどそれが揺るがされたことがあった。
 石によって操られた月夜と白花が、刀真でない他の存在の名前を掲げて刀真に対峙したのだ。
 その2人を刀真は剣で斬った。ためらいもなく、本気で。
「俺の手から離れるなら、再び俺の物にするためにその命を奪う……パートナーロストの事なんて関係ない。あいつ等を俺の傍に居続けさせるためなら、命だって使う。だからあの時、操られた月夜と白花を斬ったんだ……」
 迷いを洗い流すかのように、刀真はぐいぐいと日本酒を呷った。
「やれやれ、歪んだ独占欲だね刀真……」
 ふ、と笑うと、シスターは机に肘をついて身を乗り出す。
「それで悩んでいるなら月ちゃんに手を出しな。あの娘はお前を受け入れてくれるよ。白花ちゃんもね」
「無理無理、今あいつ等に手を出したらあいつ等の身体に溺れる、そして戻れない」
「戻る必要なんてあるもんかね。私たちが生きている内に孫の顔を見たいんだけどね〜」
 シスターはどこまで本気なのか分からない合いの手を入れてくる。
「確かに、溺れる俺もあいつ等は受け入れてくれるだろうけど、だからこそ手は出せない……そんな俺を俺が認められない。だから孫の顔はもう少し待て」
 くいっとまた1杯、刀真は酒を呑む。くらりと世界が揺れた。
「月ちゃんたちに溺れる自分が嫌? お前なら大丈夫だよ。なんせ私たちの息子なんだから」
「どういう根拠なんだそれは」
 訳が分からないと呟きつつ、刀真は杯を重ねていった。



「……白花、どうしよう」
「どうしようって……どうしましょう」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は困惑顔を見合わせた。
「やっぱりこれ凄い恥ずかしい」
「シスターさんからのアドバイスとは言え……恥ずかしすぎますよね」
 刀真との関係が進まないことをシスターに相談したら、服も下着も身に着けない素肌に刀真のワイシャツだけを着るようにとアドバイスされたのだけれど、これはかなり恥ずかしい恰好だ。
 おまけに、ボタンも全部留めずに胸が見える方が良いと言われ、それを守ってみたのだけれど……。
「白花やっぱりやめておこう」
 月夜が言うとYシャツの裾を懸命に下に引っ張っている白花も即座に頷いた。
「そうですね。着替えてきましょう」
 2人が急いで部屋に戻ろうとした矢先、廊下の向こうから刀真がふらふらと歩いてきた。
 1歩足を運ぶたび、頭がぐらぐら揺れている。
「刀真、凄い酔ってる……」
 これで刀真に話しかけたら、シスターのアドバイス通りになるのだろうか。
 そんなことを考えて月夜が迷っていると、刀真の身体が大きく傾いだ。
「刀真!」
「刀真さんっ」
 月夜と白花は両側から刀真を支えた。

「ん……ありが……」
 危うく倒れるところだったのを支えられて、刀真は礼を言おうとした。が、開いた目に映った2人の恰好に言葉が出なくなる。
(おまえ等……それは俺のシャツだし下着つけてないのかよ)
 ボタンが中途半端にしか留まってないから、シャツの中が見えて見えてる。
「ぐは、っ……」
 色々刺激が凄すぎて、頭に血が上った刀真はぶっ倒れた。
「おばあちゃん刀真が倒れちゃう!」
 月夜の叫びに、どうしたんだいとシスターがやってきた。状況を見ると、呑ませすぎたかねぇ、と苦笑する。
「とりあえずベッドへ運ぶから一緒に寝なさい」
 シスターは刀真を引きずってベッドに放り込むと、おやすみと去っていった。



 そして朝。
 白花が目を覚ますと、隣で刀真が無防備に眠っていた。
(これって私になら何をされても良いって事ですよね? 以前の月夜さんのように好きにして良いんですよね?)
 自分に言い聞かせると、白花は意を決して寝ている刀真に口づけた。
「あ……」
 上げようとした頭を、寝ている刀真に引き寄せられる。どきりとしたけれど刀真は目覚めた訳ではないらしい。眠っている刀真の心音を聞きながら、白花はもう一度目を瞑る。
(このまままた寝てしまいましょう)
 それはとても幸せな心地がした……。

 次に目を覚ましたのは刀真だった。
 月夜と白花が同じベッドの左右で寝ていることに気付くと、まだ寝ぼけているのかちょっと悪戯してみたくなる。
 右手でYシャツの上から弄る月夜の柔らかい感触が気持ち良い。それを楽しんでいると、
「あんっ」
 と甘えた声を出してすり寄ってくる月夜が可愛い。
 左手で抱き寄せている白花のYシャツごしに感じる胸や身体の柔らかさも気持ちが良い。
 シスターの計略にまんまとはまっているなと思いつつ、両側を柔らかい良い匂いのする身体に挟まれて、刀真は満ち足りた気分で微睡んだ。

 その後。
 ハッキリと目を覚ました刀真は、ガーンと描き文字が出そうな勢いのショックを受けた。
(駄目じゃん! 既に溺れてるじゃん!)
 今回はどうやらシスターの計略勝ち。
 この数時間をやり直させてくれと、刀真はベッドの上で1人悶えるのだった。