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死いずる国(前編)

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死いずる国(前編)

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AM7:30 死ぬ人たち

 横須賀基地へ向かう一向から離れた場所で、消えていく命があった。

「はっ、はあ……やった。宝珠を手に入れた」
「宝珠は、あるべき場所にあるから、効果がある」
「ああ。このままオヅヌへ」
 神宮寺兄弟は、走っていた。
 彼らの目的は、宝珠を守る事だった。
 あるべき場所において。
「ここまで来れば、ひとまず大丈夫だろう」
「しかし、妙に追手が少なかったような……」
 宝珠を取り出そうと、鞄を開けた。
 そこで、ルカルカの仕掛けた罠が作動した。
 ぼん!
 鈍い音と爆風。
 それが治まった時、翔は自分の足が目の前にあるのを見た。
 櫂の腕も、千切れてどこかに行ってしまった。
「……」
 櫂が何か言っているのが聞こえる。
 それが、死人が近づいてくる警告の声だとは、翔には分からなかった。
 分かったとしても、どうしようもなかった。


「縺壺ヲ窶ヲ縲窶ヲ窶ヲ縺茨シ溘●●!」
 輝夜の攻撃を受けたラムズは、逃げていた。
 道ともいえぬ道を。
 もはや走っているのか歩いているのか、それとも倒れているのかも定かではない。
 倒れた彼の前に、いつしか死人たちが集まってきた。
 ほんの僅かに残った生気を求め、ラムズに群がる死人。
 やがて、彼は起き上がる。
 死人として……

   ◇◇◇

 ほとんどの人が去ったオヅヌコロニー。
 ここにもまた、今にも消えそうな命の火が、いくつか。

「たがね……」
 硯 爽麻は茫然と鑑 鏨を抱き締めた。
 それは、つい先程まで元気に動いていた。
 爽麻を守るため斬刀「鈍」を振るい、死人を切り捨てていた。
 お腹が空いたという爽麻に微笑むと、ひよこ型チョコを取り出してみせた。

 オヅヌコロニーに残ると言い出したのは、爽麻だった。
 鬼龍 貴仁が残るから――彼の側にいたいが為に思わず選択した未来。
 しかし、貴仁は爽麻たちと共にいることを望まなかった。
 死人渦巻くこの日本で、他人と接触することは死を意味する。
 他人との接触を避け、ただ一人調査と生存のために行動していた。
 だから、オヅヌ基地に爽麻と鑑、ふたりきり。
 宝珠の結界もないこの場所は、次第に死人に浸蝕されていった。
 そして――
 死人の手で致命傷を負った鑑を抱き締めると、爽麻は最後の力を振り絞って走った。
 一瞬でも、死人の手の届かない所へ。
 そして今、鑑とふたりきり。
 まもなく、死人がやってくる。
 いや、その前に鑑の命の炎が燃え尽きる方が先だろうか。
「そうま……」
「鏨っ!」
「そうま、ぶじ、か、よかった……」
 その言葉を聞いた時、爽麻の中で何かが弾けた。
 ばさり。
 爽麻の身に纏っている服が落ちた。
 鏨の目に、爽麻の白い裸身が映る。
 それは、死の淵にある彼にさえとても美しく感じられた。
「爽麻」
「たがね……」
 横たわった鏨の上に、のしかかるように。
「さいご、に。最後の、想い出に……」
 爽麻の手が、鏨の衣服を奪っていく。
「いいの、よ。最後だから、全部、受け止めてあげる」
「そ、爽麻!」
 動き出したのは、どちらからだろう。
 二人の交合は、まもなく終わる。
 死人となった鏨が爽麻の生気を吸いとるまで……

「くっ」
 貴仁は、一人戦っていた。
 調査という目的は、やがてそれより遥かに重大な、生存という目的へとすり替わっていく。
 オヅヌに残る人間はほとんどいなかった。
 宝珠という希望に縋って、いやそれよりも宝珠という守護のなくなったオヅヌに、残るだけの魅力を見出した人間がいなかったのだろう。
 オヅヌに残って、宝珠を起動させるためのキーを探していたが、以前に桐生 円とハイナたちが説明していた以上の事は分からなかった。
 そして、とうとう死人がやって来た。
 『フールパペット』も効かないと分かった彼は、逃げ出した。
 どこに?
 死人のいない所など、どこにもない。
 それでも、彼は逃げ続ける。
 時折食料を確保し、それを食べ命を繋ぎながら。
 生きる為、逃げ続けた。
 そして彼は……


<死亡>
 神宮寺 櫂
 神宮寺 翔
 ラムズ・シュリュズベリィ
 硯 爽麻
 鑑 鏨

<生死不明>
 鬼龍 貴仁