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死いずる国(前編)

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死いずる国(前編)

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PM2:00 捨てられた町

「行こう!」
「いいえ。行く必要は全くありません」
「徹様のおっしゃるとおりですな」
「ううう……あの、ごめん」
 口論しているのは九条 ジェライザ・ローズと水無月 徹(みなづき・とおる)
 シーリーン・ソロモン(しーりーん・そろもん)も徹を全面的に支持している。
 切っ掛けは、ミルディアだった。
 先日、死人の村で助けられた彼女は、別の町から逃げてきた生き残りだった。
 今日通るルートの近くに、その町があるらしい。
 見てみたいという彼女に、ローズは同行しようと申し出た。
 町には生き残りがいるかもしれない。
 徹はそれを一言で切って捨てた。
 彼はそもそも、ミルディア自体に疑念を持っていた。
 死人の村で救われた彼女こそが、死人なのではないか。
 横須賀行きの一行に死をもたらしたのは、彼女なのではないか。
 一方ミルディアは、町に行ってみたいと言い出してはみたものの、思った以上の反発に戸惑っていた。
 できれば、行ってみたい。
 でも……
「医学生として、助けられそうな人がいるなら行ってみたいんだ」
 ローズは引かなかった。
「いいんじゃない? 有志だけで、見てみるだけなら」
「理子さん……」
 見かねた理子の提案に、徹が僅かに眉を歪ませる。
「ちょうど休憩も必要な頃だし。もし、行ってみたい人がいるなら覗いてみたら? もちろん、頭数は揃えてね」
「あ……ありがとう!」
 ミルディアの顔に笑顔が戻る。
 徹は、未だ不信の目でミルディアを見ていた。
(少しでも怪しい動きを見せたら……)
 ぎり……
 徹の、獲物を持つ手に力が入る。

「ローズさん、本当にありがとう」
「気にしないで。これは私の我儘でもあるんだから」
「他の皆さんも、ありがとう!」
「いいのよ。だって、仲間でしょ。ね、羽純くん」
「……本当は、歌菜をここに来させたくなかった」
「もう!」
 人を信じたい。
 その信念でついて来た歌菜は、羽純の冷たい態度に僅かに憤ってみせる。
 しかし、歌菜も分かっていた。
 羽純の態度は、自分のためだと。
 信じすぎる自分を、守るためだと。
 その羽純のおかげで、自分は迷わず人を信じることができるのだ。
 口では反発してみせたものの、ぎゅっと羽純の手を握る。
「仲間は、俺が守る!」
「だよね!」
 元気に宣言したのはレオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)アーミス・マーセルク(あーみす・まーせるく)
 二人の屈託のない元気な声に、周囲の空気が少し明るくなる。
 ミルディアの案内で、町に入ったのは10人。
 ローズと歌菜と羽純、レオナーズとアーミス、セルマとミリィ、唯斗。
 ミルディアを見張る様に、徹とシーリーンも同行する。
 彼らはどこか疑念の籠った顔で、それでも町を油断なく眺めていた。
「きゃあっ!」
「危ないっ!」
 不意に、屋根の上から何かが投げられた。
 どこかの店の看板だろうか、鉄の板。
 常に警戒を続けていた羽純の動きは早かった。
 即座に歌菜を抱きかかえると、板を避ける。
「誰だ!」
 一向に緊張が走る。
 レオナーズとアーミスが構える。
 動いたのは、唯斗だった。
 無言のまま、ミルディアを庇いながら屋根から飛び掛かってきた死人の攻撃を受け止めると、相手を取り押さえる。
「足りません」
 その死人を、徹は切りつけた。
 四肢が切断され、死人は動きを止めた。
「あ、ありが……」
「忍者ですから」
 感謝の言葉を伝えようとしたミルディアに、唯斗が口にしたのはただ一言だった。

 いくつか、生者が潜伏していそうな場所を覗いてみた。
 しかし、そこには誰もいないか死人が襲ってくるだけだった。
 それを黙々と倒していくレオナーズとアーミス。
 セルマと徹が、倒した死者を更に動けないように足止めする。
 集会所に行っていたローズと唯斗が戻ってきた。
 ミルディア曰く、ここには数人の人が生きて潜伏していたという場所だ。
「どう……だった?」
 ミルディアの問いに、黙って首を振る唯斗。
「駄目だった」
 申し訳なさそうにローズが項垂れる。
 死人との戦闘があったのだろうか。
 二人の息は、僅かに荒かった。