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リアクション
■ 告白の行方 ■
想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)は雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)を誘って、月冴祭にやってきた。
「せっかく来たんだから、あちこち見て行こうよ」
雅羅が来てくれたことが嬉しくてたまらない夢悠は、創世学園や月冴祭を思いつくまま見て回った。
誘った時に雅羅が「お月見ってしたことないから、一度してみたいと思っていたの」と言っていたのを思い出し、夢悠は聞いてみる。
「お月見するのは初めてなんだよね? どう?」
「月なんて毎日のように見てるから、どうしてわざわざお月見なんてするのかと思ってたけど、改めてこうして満月を見上げると、その理由が分かる気がするわ」
綺麗、と雅羅はしばし立ち止まって月に見とれ、夢悠はそんな雅羅に見惚れる。
そして、自分の雅羅に対する愛をしっかりと自覚した。
雅羅を愛し続けたい、結婚もしたいし、家族を造りたい。ずっと一緒に未来を生きたい。
そのためには勇気を出さないと。
「……雅羅さん、小舟に乗ってお月見してみない?」
思い切って言ってみると、雅羅はいいわよと答えてくれた。
小舟をこいで池の中央辺りに行くまでの間、夢悠の動悸は激しく、息が詰まりそうだった。
夢悠は以前、雅羅に愛を告白したことがあった。その時の反応が芳しくなかったので一旦は諦めかけたけれど、雅羅の言葉にまた心を励まし、玉砕覚悟で一層の努力をしてきた。
雅羅と過ごしてきた日々は、告白の結果に変化を与えてくれただろうか……そうであって欲しい。
小舟を止めると、夢悠はさっき貰っておいた月うさぎの餅を取りだした。
半分に分けて、その片方を雅羅に渡す。
「これはお餅?」
「うん。でもまだ食べないで。……それは、食べた恋人同士が永久に結ばれるっていう伝説のお餅なんだ。だからお願い。まずはオレの話を聞いて」
真剣な表情で夢悠が頼むと、雅羅は分かったわと餅を持った手を膝に置いた。
「オレは雅羅さんの、人生のパートナーになりたい」
切り出してしまうと、言葉は自然と夢悠の口から紡がれた。
「オレは雅羅さんから災難体質が無くなった後でも、ずっと雅羅さんと一緒にいたい。
……災難体質が無くならないなんて言わないでね。例え他の皆が諦めても、オレは諦めないから!
でもオレのことを、災難体質に同情してるだけだと思わないで。
オレは綺麗な雅羅さんの、何度もオレを助けてくれた強さと勇敢さ、何度も迷惑をかけたオレを受け入れてくれる優しさを、
災難なんて目じゃないくらい愛してる!
雅羅さんを助ける人は何人もいるけど、オレはその内の1人、というだけじゃ嫌なんだ」
そう告げる夢悠の言葉を、雅羅は口元に困ったような微笑を浮かべて聞いていた。
「雅羅さん……今、出来たら、災難体質の消えた雅羅さんの未来を想像してくれる?
したい事とか色々あると思うけど……その傍に、オレの姿は浮かぶかな?
浮かんだら――お餅を食べて」
永久に結ばれたいからこそ、未来を想像して欲しい。
夢悠にとって愛は、希望であり未来。
だから夢悠は雅羅の希望でありたいし、未来を一緒に築ける存在として認められたいのだ。
どうするかと夢悠は見守ったが、雅羅の餅を持った手は膝から動かなかった。
「ごめんね、おかしな事頼んじゃって……」
夢悠が謝ると、雅羅は少し笑って手にしていた餅を夢悠の手に返した。
「災難体質が消えた未来なんて言われても、思い浮かばないわ。周囲からの目は変わるんだろうけど、案外私自身は何も変わらないような気もするし」
それに、と雅羅は続ける。
「人生を背負うには、お互いまだ早いんじゃないかしら? 自分と相手の人生においての大きな決定をするのは、もっともっと成長して、もっとしっかりしてからじゃないとね」
相手と共に生きていきたいと願うことと、生きていけることは違う。
時期尚早だと雅羅に諭されて、夢悠はうつむいたまま手の中の2つの餅を握りしめた――。