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リアクション
六
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)、ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の三人は、特別に離れた部屋を借り受けていた。
オーソンたちに操られ、今もその影響下にある草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)を元に戻すためだ。失敗したとき、再び敵対行動を取るようなことがあれば、周囲に迷惑をかけかねない。
甚五郎は、羽純がつけていた面を手に取り、ためつすがめつした。口の両端を上げた、にやけたようなデザインだ。
「遅くなってすみません……って、何やってるんです!?」
そこにちょうど、平太がやってきた。ポチの助に散々こき使われて、疲労困憊である。
甚五郎の手の中で、面は二つに別れていた。
「あああああ!」
いつになく素早い動きで甚五郎から面を奪い取り、机にハンカチを敷くと、平太はその上に面を置いた。
「弄っていたら、外れた」
「弄ってたらって……どれだけ馬鹿力なんですか」
呆れたように平太は言い、しかし次の瞬間、眉を寄せた。二つに別れた面の内の内側に、何か小さな物がついている。
「ちゃんと調べないと何とも言えないですけど、これ……受信機ですかね? それにGPSもついてますね」
「受信機? それで羽純を操っとったのか?」
「それなら、外した瞬間に元に戻るでしょう。単純に、細かい指示をするための物じゃないですかね。ほら、ユリンが持っているリプレスとかいうやつ……あれで操ってるって言うじゃないですか。でも、あの人が戦っている最中にも他の人たちはそれぞれ勝手に動いていたでしょ?」
「大まかな命令しか出来ないってことですね?」
と、ホリイ。平太は頷いた。「多分、ですけど。だからなんかあったら、これで指示するんじゃないですかね。オーソンとか他の誰かが。――念のため、GPSは外しておきます」
「ひょっとしてワタシは、支配を逃れた例としては特殊なのでしょうか?」
ブリジットは、羽純がいなくなった頃、誘われるような、強制されるような声がしたことを平太に話した。
「それは面白い話ですね。五寧さんたちが纏めているらしいんで、伝えておきます。他の操られなかった人にも、聞いてみないといけないでしょうし」
「そういえば、魔鎧は操られないんですね。他者に創られた者という観点では同じなんですが……何か違いがあるんでしょうか?」
「あ、それは多分、作った人の違いじゃないですかね。魔鎧はザナドゥの悪魔、機晶姫と剣の花嫁はポータラカ人の技術」
ホリイはホッとした。操られたり自我を失うなど、想像したくもなかった。
「つまりまだ、どうすれば元に戻るかは、まだはっきりとは分からないのだな?」
「リプレスを奪えばいいらしいですけど、それが何かも分からないし、そもそもユリンって人、化け物みたいに強いらしいですしね」
難しいでしょうね、と続ける平太に、甚五郎は指を一本立て、「一つ、考えがある」と言った。
「光条兵器なら、斬る物と斬らない物を分けられるはずだ。『リプレスの力』を指定して斬ることは出来んか?」
「いや、それは……僕も剣の花嫁をパートナーに持ったことがないんでよく分かりませんが、多分、無理じゃないでしょうか」
「試してみる価値はないか? 絆で何とかならんか?」
「……僕はオススメしません……」
「そうか、それは残念」
甚五郎は腕を組んで、他に方法がないか考えた。
結局、ホリイが【レストア】を試してみたが、羽純の体調が良くなっただけで、何も起きなかった。
風が吹き、枯葉が音を立てて飛んで行く。目の前に来たそれを、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は力いっぱい踏みつけた。クシャ、と軽く潰れる。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! ククク、ここが咲耶とアルテミスが捕らえられている、明倫館の監獄だな!」
ただの建物である。
「くっ、さすがはニンジャやオンミョウジの徘徊する明倫館……! この天才科学者である俺には分かる! あの監獄、一見すると普通の建物で、警備もいないように見えるが、天才科学者であるこの俺の目は誤魔化せん! きっと、罠だらけのうえに、ニンジャがそこらじゅうに隠れ潜んでいるに違いない! な、なんと厳重な警備体制だ……汚いな、さすがニンジャきたない」
オーソンの襲撃を警戒して、明倫館自体には警備体制が敷かれていたが、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)とアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が捕えられているこの建物は、それほどでもない。なぜなら、他校生用の宿泊施設だから。
「咲耶とアルテミスを救出するには、この防衛網を突破せねばならんということか……。面白い。この俺の力を見せてやろう! さあ行け、我が発明品血の殺戮者(ブラッディ・ジェノサイダー)よ!」
現れたのはオートマタをベースに、銃火器やナイフ、爆弾などで武装したロボットだ。ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)は、ドクター・ハデスが心血を注いで作り上げた物ばかりである。
「ククク、我が発明品「血の殺戮者」は、目に映るすべての敵を排除するまで停止しない。さあ、明倫館のニンジャどもよ! 止められるものなら、止めてみるがいい!」
「血の殺戮者」は、レーダーを四方に向けた。
「敵味方識別信号、検索……周囲一キロニ味方ノ反応ハアリマセン。無差別殺戮モードデ起動シマス」
説明しよう。「血の殺戮者」は、敵と味方を識別し、敵のみを殲滅する。――が。
BOMB!!
小さな爆発音と共に、ハデスはボロボロになって倒れた。
非常に残念なことだが、ハデスは味方の識別情報の入力を忘れた。
そして非常に恐ろしいことに、「血の殺戮者」は目に映る全ての人間をターゲットとして認識するのだった……。
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