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リアクション
一
カタルたちは、小さな町を訪れていた。花と団子が名物で、春には観光客が多く訪れるが、それ以外の時期は宿場町として知られている。
そこで体の疲れをいったん癒し、これからのことを話し合うことになった。
「葛城吹雪とイングラハム・カニンガムの話じゃ、裏街道を通った方が良さそうだな」
地図を広げ、匡壱は言った。
「しかし、裏街道は危険が多すぎる」
「梟の一族」の隠れ里から落ち合った場所まで、何度も襲われた。実のところ、仲間は他に二人いたのだが、傷を負って別れた。おそらく今頃は、とオウェンは思ったが、それは口に出来なかった。
「表でも裏でも、あいつらにとっちゃあ一緒だろう。なるべく他に迷惑かけない方がいい。そんなわけだからカタル、布団で寝れるのは今夜が最後だ。ゆっくり休めよ」
「はい」
カタルと同じ部屋に泊まったのは、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)の二人だ。匡壱はオウェンと同室になった。
布団を並べ、牙竜は口を開いた。
「……黒装束の連中は、過去に迫害され追放された者たちかもしれない」
「どういうことですか?」
「あくまで俺の予想だが、流浪の民かもしれないと思っている。『真の王』とやらに頼らざるを得ないほど、追い詰められているんだろう」
「流浪の……」
すっとカタルは目を伏せた。彼ら「梟の一族」もまた、ある意味、迫害された一族だ。
「もし予想が当たっていれば、オーソンも含めた彼らを助けられるのは、カタル、君だと思う。同じように辛い過去を持つ君の言葉なら、彼らの心に響くものがあるかもしれない」
布団の上にきちんと座ったカタルは、膝の上で拳を握り締めた。
「私に、そのようなことが出来るでしょうか?」
「分からない。不確定の話をするのは申し訳ないが、最後まで一緒にいられるか分からないからな、今の内に話しておくんだ」
「カタル様、あなたは強い人です。大丈夫、あなたにならきっと出来ます」
カタルはぶるり、と震えた。恐怖か、武者震いか、牙竜たちには分からなかった。だが、彼の左目に怯えはない。
「するべきことをします――。それが私の運命なのですから」
その答えに、牙竜は満足そうに頷いた。
清泉 北都(いずみ・ほくと)とモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)は、町を巡回していた。夜ではあるが、町は意外に賑やかだった。あちこちの部屋から灯りが漏れ、まるで昼間のようだ。
北都も客引きされかけ、断るのに難儀した。極上の執事服が仇となったらしい。
すん、と北都は鼻を動かした。
「血の臭い……」
周囲を見回すが、怪我人らしき者はいない。敵であるとは限らない。包丁で指を切っただけかもしれない、転んだのかもしれない、全く関係ないが大立ち回りを演じることもあるだろう。
この大勢の中から、敵を見分けるのは困難だ。何か目印でもあれば――。
「!?」
目の端に映ったのは、蛍光塗料だった。レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が、砦での戦闘時、黒装束に付けたことを咄嗟に思い出す。葦原島の、こんな田舎町でそうそうある物ではない。
レキはその光を追った。建物から漏れる灯りに惑わされそうになるが、その一点だけを見つめて走った。
が、突如、カタルにかけた【禁猟区】が反応する。同時に、モーベットから連絡が入る。
「しまった!」
北都は慌てて宿に戻った。モーベットが【恵みの雨】を火元に投げつけていた。幸い、勢いが弱く、塀が焦げるだけですんだ。
その時、宿から怒鳴り声が聞こえて来た。二人は顔を見合わせ、塀に手をかけると乗り越えた。毒虫に囲まれた黒装束たちが飛び出してきた。外へ出るや、黒装束は虫たちを炎で消し去る。
北都は素早く「アルテミスボウ」を構える。黒装束が北都に斬りかかるのを、【龍鱗化】したモーベットが体当たりで庇う。
「させるものか!」
宿の塀が吹き飛んだ。灯を装備した牙竜が庭に降り立つ。
「俺たちが相手だ」
長ドスを構えた牙竜に、黒装束の一人が炎の塊を投げつける。牙竜の髪が燃え上がったが、本人は意に介さず、黒装束の中心に飛び込んだ。
モーベットが【恵みの雨】を降らせ、北都が【エイミング】で一人ずつ、足を射抜く。機動力を奪い、モーベットが【千眼睨み】で動けなくしていった。
最後に残ったのは、炎を使う女だった。機晶姫か剣の花嫁かは分からないが、年は二十歳を少し超えたぐらいだ。美人だが目は吊り上がり、殺意が宿っている。まるでカタルとは正反対だ。
「カタルなら、いないぞ」
牙竜はにやりと笑った。北斗たちが駆けつけるまでの僅かな間に、匡壱、カタル、オウェンは逃げ出していた。表に置いておいた可変型機晶バイクは既に破壊されていたが、それも囮に過ぎない。
「おい、どうせオーソンはこの話を聞いてるんだろ? オーソン、一度、カタルと話をしてみろ! 過去の出来事の結果が今に繋がってるんだ……知らん顔しては未来へは進めないぞ!」
しかし女は、そんな牙竜の言葉など意に介さず、手の中に炎の渦を作り、周囲に飛ばした。建物、塀、植えられた木に火が燃え移る。
「貴様!!」
モーベットはギリ、と歯噛みした。【恵みの雨】では限界がある。延焼を防ぐには、
「壊すしかない、か」
「後は任せるよ!」
北都とモーベットは、【恵みの雨】を降らせながら、炎の周辺を叩き壊していった。
牙竜は、歯を剥き出しにして襲い掛かる女の鳩尾に、渾身の拳を叩き込んだ――。
――遠く離れたその場所で、オーソンは(ふむ)と呟いた。笑いに似た感情が込み上げてくるのに、彼は気づいた。
(過去の出来事の結果が今に繋がる……真理だな。ならば、未来へ進むために修正が必要かもしれん)
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