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【2022修学旅行】2022月面基地の旅

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【2022修学旅行】2022月面基地の旅

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第2章 月面料理

「さあ、いよいよ食事ですね!! 私たちの出番です!!」
 多比良幽那(たひら・ゆうな)は、レクリエーションルームで団らんを始めたルシアたちを物陰からうかがうと、興奮した口調でいった。
「母よ、我にいっぱい食べさせてくれい!!」
 アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)もまた、興奮した口調でいった。
「あはは、あたしも料理ごっこで遊びたいっすー!!」
 キャロル著不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)が、例によってめちゃくちゃな口調でいった。
「こらー!! ごっこではありません!! 料理ですよ、料理!! 本格的にやるんですから!!」
 幽那はアリスを睨んでいった。
「月面野菜の研究もかねて、カ。うーん、お祖母ちゃんの気持ちもわかるシ、ここはひとつ暖かく見守ろうかナ」
 ハンナ・ウルリーケ・ルーデル(はんなうるりーけ・るーでる)は、どこか冷めた口調でいった。
「こんにちはぁ。おやおや、ワタシの他にも調理師さんがいらっしゃいますねぇ」
 厨房に入った佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、幽那がにぎやかに調理している姿をみて、愕然とした。

「月面の野菜さん、果物さん、教えて下さいね。あなたたちは、どんな環境で育ったんですか?」
 まな板のうえにある、基地で栽培された野菜や果物に話しかけながら、幽那は調理を進めていった。
 植物学者である幽那としては、アルテミスの植栽たちに興味が尽きなかったのである。
 幽那のアルラウネたちも、野菜や果物についての記録をつけたり、幽那の調理を手伝ったりして、厨房で忙しく働いていた。
「あははははははは!! 修学旅行だぜ!! レクリエーションだわ!! 月面でしゅー!!」
 アリスは、ひたすら騒いでいる。

「はあ。今日は疲れたわね。みんながお料理をつくってくれているみたいね。楽しみだわ」
 食堂の席について料理を待ちながら、ルシアは、朗らかな口調でいった。
「……」
 その傍らには、佐々木八雲(ささき・やくも)が、無愛想な顔をうつむかせている。
 実際には八雲も、弟がつくる料理が楽しみだったのだが。
「月面というのは、何とも趣のある場所だな。さあ、俺たちもお茶を入れてきたぞ。君たちにどしどし振る舞おう」
 エースは、ルシアの前に紅茶のカップを置きながらいった。
「パンケーキ焼いてきましたー!!」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)も、テーブルにパンケーキを持ってきた。
「わあ、おいしそうですね。でも、お茶とパンケーキから頂いていいのかしら?」
「気にすることはない。まだ、メインディッシュができるには時間がかかるようだ」
 エースは、ルシアの隣の席について、いった。
「そう、それじゃ、おいしく食べようかな……あっ」
 ルシアは、一瞬、エースと目が合った。
 くすっ
 エースが笑った。
「ふふ」
 つられて、ルシアも笑う。
「ルシアちゃんも、何かお料理つくったら? 食べてみたいな」
 何だかいい空気になりそうだった二人の間に割り込むかのように、桐生理知(きりゅう・りち)が話しかけてきた。
「理知さんもお茶をどうぞ。冷めないうちに」
 エースは、さして気を害した風もなく、理知に暖かい視線を向けた。
「あっ、ありがとう。エースさんって、優しい感じの人だよね」
 理知は思わず、そんなことをいってしまった。
 お茶はおいしかったし、エースは確かに、女性には優しくて、好印象だった。
 何となくルシアをとられるような感じを覚えてしまっていた自分が、恥ずかしくなるほどだった。
「今度、理知さんともゆっくりお茶をしてみたいな。朗らかな笑顔で、気持ちが和むからね」
 エースは、理知の瞳をまっすぐ見据えて、いった。
 胸の底にまで届きそうな視線だった。
「う、うん。楽しみ」
 そういいながら、理知は、いまのは今度2人で、という意味なのかなと考えた。
「そのときは、智緒も一緒だもん」
 北月智緒(きげつ・ちお)がいった。
「もちろん、智緒さんも一緒にどうぞ。指きりで約束しようね」
 エースは笑って、智緒に小指を差し出した。
「わーい」
 智緒は笑って、エースの小指に、自分の小指を絡ませる。
「私もやるー」
 理知も、エースと智緒が絡ませているところに、自分の小指を無理やり絡ませた。
「くす。3人で指きりなのね」
 ルシアは、笑った。
 傍目からみると、女子生徒2人と指を絡ませているエースは、何だかとてもうらやましい状況であった。
「ああ、いや、ルシアさんもそのときは、一緒に」
 エースは、ルシアを再びみつめて、微笑んだ。
「うん、是非! あっ、でも、それって、今日の状況と別に変わらないんじゃないかしら」
 ルシアはふと気づいていった。
「ああ、なに、俺たちの出逢いがここだけで終わらないようにしようという意味さ」
 エースは笑っていった。
「あ、あのー、パンケーキ、おいしいですか?」
 エオリアが、控えめな口調でいった。
 何となく、女子生徒に囲まれてテンションが上がっているようにみえないこともないエースを、やや抑止したい気持ちがあったのである。
「……」
 がたっ
 突然、黙ってうつむいていた八雲が席を立って、向こうにいってしまった。
 エースと女子生徒のやりとりを騒がしく思ったのだろうか?
「ああ、席が空いたね。それじゃ、君たちがここに座ったら」
 エースは、気にした様子もなく、他のテーブルにいた生徒たちを招いた。

「あっ、呼んでくれたの? ありがとう」
 清泉北都(いずみ・ほくと)は、エースに呼ばれて、喜んで移動していった。
「それじゃ、コーヒーをみんなにいれてあげるね」
 北都は、クナイ・アヤシ(くない・あやし)とともに、エースたちにコーヒーをいれたカップを配った。
「やあ、これは、ありがとう」
 エースは礼をいって、カップに口をつけた。
「今日はてっきり宇宙食だと思ってたから、ちゃんとした料理が出るみたいで嬉しいな」
 北都は、上機嫌な口調でいった。
「君たち2人も、ずいぶん仲がよさそうだね」
 エースの言葉に、北都はうなずいた。
「せっかく修学旅行だし、クナイとめいっぱい楽しもうと思ってるよ」
 その隣で、クナイもうなずいている。
「今日は、一緒のベッドで寝たいと思ってるんですよ。思いきりベタベタでいきたいですね」
「えっ」
 クナイの言葉に、北都は赤面した。
「嫌ですか?」
「い、嫌じゃないけど、ここでそれをいうのはー」
 クナイの問いに首をうちふる北都は、慌てた口調になっている。
「これは、まいった。熱々だね。うらやましいことだ」
 エースが、笑っていった。
「本当。みてるこっちも胸がドキドキしてくるわ」
 ルシアも笑っている。
「そうだな。いっそのこと、みんなで同じ部屋に寝るのもいいかもな。修学旅行だし」
 エースの言葉に、ルシアはえーといって笑った。
「ふふ」
 つられて、理知と智緒も笑う。
「えっ、それって、いいんですか?」
 エオリアが驚いて尋ねる。
「いや、枕投げでもしようかってね。ルシアさんにぶつけちゃおうか」
 エースは、軽い口調でいってみせた。
「あー、それじゃ、私もエースさんにぶつけるから」
「勝負してみるかい? 部屋はどこ?」
「廊下の突き当たりよ」
 ルシアは、エースの目を挑むようにみていった。
 そのとき。
「はーい。月面でできたてのフリーズドライを材料にして、ハンバーグとクリーム大福ができたよぉ」
 佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)が、料理を乗せたお皿をお盆に乗せて、やってきた。

「弥十郎さん、これ、フリーズドライを使ってるから、サクサクとした食感があっておいしい!! 料理、うまいのね」
 ルシアは、弥十郎の料理を味わって、賞賛の声をあげた。
「わー、そんなに喜んでもらえるとは感激だねぇ。ありがとう」
 弥十郎は、ルシアにみつめられて何だかドキッとしていた。
「うん、確かに食感が新鮮だな」
 エースも、弥十郎の料理を評価した。
「……」
 少し離れた向こうのテーブルでは、佐々木八雲(ささき・やくも)がぶすっとした顔で弟の料理を食べていた。
(まあ、味は悪くないな)
 八雲の精神感応によるメッセージを聞いて、弥十郎はニッコリとした。
「だよねぇ? フリーズドライ、成功だろ?」
(だから、フリーズドライそれ自体は否定していないぞ。ここでわざわざ新しくつくる必要があるのかと……)
「はいはい」
 弥十郎は、八雲との交信を打ち切った。
「弥十郎さんも、ここに座って。お話したいわ」
 ルシアの言葉に、弥十郎も席についた。
「弟さんとは、全然しゃべらないみたいだけど?」
「いや、全然、そんなことないよぉ。まっ、わからないのも無理はないけど」
「へー」
 首を振ってそういう弥十郎の目を、ルシアはしみじみと覗き込んでいる。
 弥十郎は、またしても胸がドキッとするものを感じていた。
 このように至近距離にルシアがいるというのも、なかなかない状況である。
「ルシアちゃーん、そんなに男子と話さなくていいよぉ。もっと私たちとお話しようよ」
 理知は、不満そうに口をとがらせた。
「理知さん? 大丈夫。みんなと仲良くしようね」
 ルシアは、ニッコリ笑っていった。
「智緒ともお話してー」
「うん。後で一緒に、お風呂に入ろうか」
 ルシアは、智緒にも微笑んでみせた。
「お風呂、大浴場なのかな?」
「ううん。そんなに広くないわ。あと、男女兼用なのよね。入替制になってて」
 エースの問いに、ルシアは答えた。
「そうか。それじゃ、先に入りなよ」
「うん。念のため。覗いちゃダメよ」
 ルシアは、意地悪そうな笑みを浮かべていった。
「まさか」
 エースは苦笑した。
「あらー? それはそれで、全然興味ないってことなのかなー? 何だかそれも、複雑な気持ちになっちゃう」
 ルシアは、おどけた口調になった。
「いや、それは、まあ、人なみに興味はあるさ。何だい、みられたいってこと?」
「ううん。バカいわないでよ」
 ルシアは笑った。
「ルシアちゃん、だから、男子とばかり仲良くしないでー」
 理知が、わめいた。
 そのとき。
「はーい。やっと、月面野菜の料理、できあがりました!!」
 多比良幽那(たひら・ゆうな)が、料理の皿を運ぶアルラウネたちとともに、食堂に現れた。

「メインディッシュ、やっときたわね。楽しみにしてたのよ」
 ルシアは、幽那の料理を前にして、ますますテンションが上がったようだ。
「そういえば、ルシアさんのお腹の鳴る音が聞こえたような?」
「やだ、鳴ってないー」
 エースの冗談に、ルシアは慌てて否定する。
「あっはっは。それでは、みなさん。メインがきたところで。いただきまーす!!」
 エースの言葉にあわせて、生徒たちはみな(八雲を除く)、いっせいに声をあげた。
「いただきまーす!!」

「おお、これが母の月面料理か!! 素晴らしい!! 母の料理はどんなモノを使っていてもおいしいぞ!!」
 アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)は、幽那の料理をドカ食いしながら、ひたすら、手放しの賞賛の言葉を並べていった。
「がっはっは!! 全部誉めるだけじゃ、作り手にとってあまり参考にならない意見になっちゃっちゃでぽん!! あらあら? でも本当においしいわいん」
 キャロル著不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)もまた、相変わらず言語の破壊に挑戦しながら、料理を賞賛した。
 実際、幽那が野菜や果物に語りかけながらつくった料理には、心がこもっていて、それだけで、旅の疲れを癒したい生徒たちには十分な調味料たりえた。
「まあ、調査結果はわかっていたワ。実をいうと未来では、宇宙野菜や月面野菜とかは普通に食されてて、その特性も評価されていたのでネ。おっと、ワタシが知っていたことはお祖母ちゃんには秘密ヨ」
 ハンナ・ウルリーケ・ルーデル(はんなうるりーけ・るーでる)は、低い声でアリスにそう語っていたが、相手は全く聞いているようにはみえなかった。
「みなさん、満足して頂けたようで、よかったです。いろいろデータもとれましたしね」
 幽那は、ひと仕事終えて、満足している様子だった。
 これで、植物学に関する重要な研究の成果をまとめられそうだった。
 実は幽那のこのときの調査が、ハンナのいう「未来」に影響していくこととなるのである。

「そういえば、メシエとリリアは?」
 エースは、ふとエオリアに尋ねた。
「ああ、二人で先に、部屋に入ったみたいですね。重なり合って寝てるんでしょうか」
「重なり合って?」
 エオリアの言葉に、ルシアはぴくっと反応した。
「そう、重なり合って、かもしれない。なに、赤くなってるんだい?」
 エースは、ルシアを冷やかすようにいった。
「別に。赤くなってなんかないわ」
「ムキにならないで」
 口をとがらせたルシアに、エースは笑った。
「それじゃ、食事も済んだし、俺たちはこの辺で。ルシアさんたちは、やっぱりお風呂?」
 エースは、席をたちながらいった。
「うん。理知さんたちと」
「明日の朝、また会おう」
「うん!!」
 エースの言葉に、ルシアは元気よくうなずいた。
 ぱちん
 2人は、掌と掌を打ちあわせた。
「ルシアちゃんの身体、洗ってあげるー」
 去っていくエースの背中を見送るルシアに、理知がはしゃいだ口調で話しかけていた。