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【2022修学旅行】2022月面基地の旅

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【2022修学旅行】2022月面基地の旅

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第7章 月面キック

「さあ、いよいよ大気圏突入だわ。後悔はしてないが反省はしているわ!! でも、しょうがないんだから」
 宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)は、なぜかわくわくして、声を張り上げようとした。
 宇宙船は、月面を離れ、地球に降下しようとしていた。
 月面のアルテミスをみると、先ほど発射されたミサイルが爆発して、瓦礫が燃えている。
 ルシアが、哀しそうな目で映像をみつめていた。
 確かに悲惨だが、基地の全壊は免れたので、近い将来、アルテミスは運営を再開されるだろう。
 祥子は、操縦に集中しようとした。
 そのとき。
 ピコーン、ピコーン!!
 アラートが鳴った。
「何かしら?」
「艦内から通信よ。エッツェルさんが暴れてるって!!」
「ええ? 誰が連れてきたの?」
 ルシアの報告に、祥子は目を丸くした。

「やれやれ。やっぱり、そう簡単には因果の鎖から解放されないようだねぇ」
 八神誠一(やがみ・せいいち)は、宇宙船内で暴れるエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)に敢然と立ち向かいながら、嘆くようにいった。
 それにしても、誰がこの巨体を運んできたのか?
 誠一にとっても謎だったが、放っておくわけにはいかない。
「でも、困ったねぇ。この壊れかけた宇宙船で、派手な技を使うわけにはいかないし。とりあえず、鋼糸で縛っておこうかね。エッツェルさんを地球に連れ帰るようなことになるのは、地球人たちに申し訳ないけど」
 誠一は、エッツェルの動きを読みながら慎重に立ち回るが、果たして大気圏突破に間に合うかどうかは微妙だった。
 突破が始まれば、闘いどころではなくなるのだが。
 もしかして、ここでこの相手ととも倒れか!?
「いやいや。それだけは、勘弁だねぇ」
 誠一は、ひとりごちた。

「大気圏突入。みんな、衝撃に耐えて!! きゃああああああ!!」
 いいながら、臨時の艦長である祥子自ら悲鳴をあげてしまった。
 自分で操縦しながら大気圏に突破するのは、スリリングすぎた。
 気のせいか、想定していたより衝撃が大きい気がする。
 自分の操縦が悪いからだろうか?
 多分そうだ。
 もっとも、宇宙船の状態もベストではない。
「船体がバラバラになりかけているぞ!! 何とかやってみるが!!」
 風森巽(かぜもり・たつみ)からの通信を理解している暇もない。
「これ、私が体験した衝撃の中でもかなり強いわ!!」
 ルシアは、悲鳴をあげた。
「ルシア、大丈夫だ!! 俺が、俺が、ついている!!」
 神条和麻(しんじょう・かずま)が、さっきから同じ言葉を繰り返している。
 ルシアは、シートにしがみついて、衝撃に耐えようとした。
 そこに。
「ふっふっふ、チャンス到来!! ルシア、ここになら予備のパンツもあるだろう!! 奪ってやる!!」
 バッチリついてきていた国頭武尊(くにがみ・たける)が姿を現していた。
「い、いやあああああ、こんなときに、やめて!!」
 ルシアは、悲鳴をあげた。
「お、おい、来るなー!!」
 和麻は、大気圏突破の衝撃の中、国頭と取っ組みあった。
「そいつを、外に、捨てて!! 早く!!」
 祥子が金切り声で叫んでいる。
 そういえば、大気圏突破に成功したとして、その後の制御はどうすればよいのだろう?
 ふと、素朴な疑問が祥子の脳裏をかすめた。
 いろいろ制御法は考えておいたが、ここで自分が失神してしまったとしたら?
 そして。
 宇宙船は、大気圏の中で、炎に包まれた。

 ざざーん、ざざーん
 海京。
 車椅子に乗った、虚ろな瞳の強化人間が、人工砂浜から、彼方の海原をみつめていた。
 強化人間 海人(きょうかにんげん・かいと)である。
「う……う……あ……」
 海人は、空を見上げて、口をぼんやり開け、よだれをたらして、うめいていた。

 ざざーん、ざざーん
 海京からそう遠くない、小島。
 波の音を聞きながら、風森巽(かぜもり・たつみ)は、地面にめりこんでいる宇宙船から外に出ていった。
「宇宙船は、不時着したか。それにしても、よくここまで、うまくいったものだ。何かが誘導してくれたとしか思えないが、何だろうな?」
 巽は、首をかしげた。
 これでも、うまくいったのだと思っていた。
 自分以外の乗組員は、全員死んでしまった可能性さえある。
 それでも、祥子の危険な操縦で船体が瓦解しなかったのは、奇跡といえた。
 海原ではなく、この小島に着陸できたのも奇跡だ。
「どんな可能性がある? たとえば、海京の強化人間の誰かが、私たちの宇宙船に気づいて、親切にも、全身の力を振りしぼってサイコキネシスで船体を制御してくれたとか? しかし、かりにそれだけの強い力を持っていたとしても、そんなことをしてくれるような人がいるだろうか? いや、いたような気もするな。思い出せないが」
 巽は、首を傾げながら、しばし、宇宙船の周囲を散策した。
 巽は、宇宙船に乗ったときは変身を解いていたが、大気圏突破の衝撃が思ったより強かったので、念のため、仮面ツァンダーソークー1に再び変身しておいたのだ。
 そのことが功を奏して、衝撃で失神することもなかった。
 だが。
 しばらく待っても、他の乗組員たちは姿をみせない。
「やはり、全員死んだか? 認めたくないが、中に入って確認するか」
 巽がため息をついたとき。
「さすがだな、ソークー1。あの衝撃の中で、無事でいるとは」
 地の底からわいてくるような声が、とどろいてきた。
「この声!! 宇宙王か!! どこに?」
 巽、ソークー1は、戦闘の構えをとった。
 すると。
 宇宙船の一部と思っていた黒い塊が、ぼとっと地面に落ちた。
 塊が身を起こすと、そこには、異星のロボットと思える存在がいた。
「我が忍びこんだことがわからないように、エッツェルとかいう異形のものを、カモフラージュで運んでおいた。おかげで、気づかれずにすんだ。しかし、あの衝撃で、私の迷彩装甲は壊れてしまったようだ」
 ロボット、いや、宇宙王はいった。
「宇宙王。ロボットの身で、女生徒たちに欲情していたか」
「何をいうか。純粋な美を愛でていただけだ。生物的な欲求と同じにするな」
 宇宙王は、戦闘態勢に入った。
 全身から銃口が突き出し、背中に、大きな翼が生えてくる。
「我は、これより、地球征服を開始する。我は、エイリアンの卵も持っている。すぐに軍勢を整え、進撃することは可能だ。その前に、ソークー1、お前には消えてもらう。いっておくが、勝ち目はないぞ。我の分子破壊兵器は、この地上にいる限り、自動照準で一瞬で破壊し尽くすことができる」
「いっておくが、宇宙王。俺は、たとえ何があろうと、お前のような輩を倒すために、この身を捧げて闘ってきたのだ」
 巽は、宇宙王と睨みあった。
 宇宙王の分子破壊兵器が、火を吹いた。
 その瞬間。
「とおっ」
 巽は、天高く跳躍した。
「むう」
 宇宙王は、上空に火を向けた。
 だが、無限の空を舞う巽に、火は当たらない。
 必死で照準を合わせようとした宇宙王は、ふと、眩しい光に目を射られたように感じた。
 青い空に、月がみえていたのだ。
 宙を舞う巽の身体が月と重なったとき、月が一瞬光を発したように思えて、宇宙王は、眩暈を覚えた。
「ツァンダー!! 月面キック!!
 巽は、宙返りをして、豪快なジャンプキックを放った。
 月が光ったように思えたのは、宙返りの効果だったのだ。
 どごーん
 宇宙王の首が、巽のキックによって、はね飛ばされた。
「あ、あああああ……」
 首だけになって地面を転がる宇宙王の前に、ルシアが現れた。
「あなたの、最後よ」
 ルシアは、いった。
「おおおおお……美しい女よ……もう1度……お前の身体を」
 宇宙王の首は、呻いた。
 それが、最後の言葉だった。
 どごーん
 宇宙王の首は、大爆発を起こした。
「きゃああああああ!!」
 爆発に巻き込まれたルシアは悲鳴をあげた。
「ルシア!!」
 和麻が、ルシアの身体に覆いかぶさった。
「和麻さん……ああっ」
 ルシアは、失神した。
 その身体は、爆発の影響で衣服がボロボロになっていて、またしても下着姿になっていた。
 それも、上の方はほとんどみえてしまっていたから、和麻は、慌てて「手ブラ」で、ルシアの胸を隠した。
 ぱちり
 誰かが、写真を撮る音がした。
「大丈夫、かしら?」
 祥子を始めとして、他の生徒たちが、宇宙船から出てきた。
「くっ!! みるな!! ルシアに触れるな!!」
 和麻は怒鳴ると、ルシアの身体にタオルをかけて、お姫様抱っこした。
「よかった。みんな、生きていたのか」
 巽は、安堵していった。
「ええ。無謀って素晴らしいわね
 祥子は、笑った。

 そして。
 修学旅行でアルテミスに行った生徒たちは、エイリアンに襲われたものの、無事帰還することができた。
 当初、大気圏突破を強行し、指導を受けるかと思えた祥子は、アルテミスのスタッフたちの口添えで、むしろ勇敢に務めを果たしたとされた。
 それでも、始末書を山ほど書くことにはなったが。

 しかし、ルシアをお姫様抱っこしていた和麻は、ルシアが全裸に近い姿だったこともあり、尋問の対象となった。
 祥子が何となく撮っていた写真から、和麻がルシアに「手ブラ」をしていた姿が明らかになり、セクハラの証拠とされてしまった。
 ルシアは、和麻は無罪であると主張。
 さんざん揉めた末に、和麻は誤解が解け、釈放された。
 だが、和麻は、一般の生徒からは誤解されたままになってしまった。
 それぐらい、和麻が「手ブラ」をしていた事実、そしてお姫様抱っこしていたということは、衝撃的だったのである。
 教官たちの誤解は解けたものの、和麻は、各校の風紀委員に狙われることとなった。
 いわく。
「この男、セクハラ要注意!! 厳戒態勢で臨むべし」
 と、風紀委員たちに情報が流れてしまったのである。

 そして。
 海京の人工砂浜に、釈放された和麻の姿があった。
 ルシアは、宇宙船が不時着した場所に近い、海京の病院に入院していたのだ。
 そのお見舞いをした帰りだった。
 ざざーん、ざざーん
 砂浜に立って、海原をみつめる和麻。
 ふと、その身体がくるりと、こちらを振り向いた。
「やあ、みんな。ここまで読んでくれてありがとう。俺はもちろん無実だし、ルシアを最後まで守ったという自信がある。風紀委員が俺にケンカを売るなら、かっても構わないぜ!! これからも純粋で行こう!! 明日へ向かって、ファイヤー!!!! ルシア、好きだぁー!!!!
 ビシッと指をこちらにさして、和麻はいったのである。
 その目には、いささかも後悔の色はなかった。
 これぞ、漢であった。

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 今回は1日目と2日目で趣向を変えてみました。
 ルシアが男子とも仲良く語らってくれるので、いろいろドキドキできた方も多かったと思います。
 まあ、和麻さんほどではないと思いますが。

 なお、エッツェルさんは、異形ですが一応地球人なので、宇宙服着てます。
 異形な宇宙服ですが。

 あと、今回は、海人が地味に活躍していました。
 気づいてくれれば幸いです。

 それでは、参加頂いたみなさん、ありがとうございました。