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帝国の新帝 蝕む者と救う者

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激闘





「ポイント2、AからCまで設置完了」

 データ収集とエネルギーの削り取り作業を兼ねた、絶え間ない波状攻撃の最中。
 遊撃班の攻撃を隠れ蓑に、元々土木建築用であったイコン黄山の特性を生かして、割り出されたポイントへ機雷を埋め込んでいた白竜の報告に「了解」と理王が答えた。
「達成率、46パーセント到達。次ポイント割り出し完了。あと数箇所、算出できれば……」
 屍鬼乃の補助を受けながら、前線から送られてくるデータを収集、転送して分析していた理王が、軽く頭をかいた。マリーの提案するパターンにあわせ、エカテリーナの協力の下で割り出されたポイントに、北都たちの素早い連続攻撃が、着実にダメージを与えていく。枝枝の隙間を縫って旋回するザーヴィスチは正確に同じ一点を穿ち、ルドュテがそれをさらに抉るように、ブレードとウィッチクラフトピストルで通り抜け様にダメージを与えていく。
 またそのポイントの裏側では、姿を隠しながら接近するアンシャールの一撃にあわせ、同じ箇所へシュヴェルト13からのナパームが追い討ちをかける形で、抉った。
「ポイント4、目標値達成」
「今であります」
 サビクのマリーの言葉と当時、後方へと一旦散開しながら後退したシュヴェルト13達が空けた道に、待ち構えていた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)阿部 勇(あべ・いさむ)四名の搭乗するバロウズが、動いた。機体が唸りを上げる中、ブリジットが声を上げる。
「チャージ完了。前方クリア。発射準備完了」
「大型荷電粒子砲、発射!」
 甚五郎の一声と共に、轟音を引き連れて空気を裂いた一撃が、アールキングの幹の中心近くに激突した。
「着弾。樹皮表面のダメージ量を確認」
 それで容易く抉れるほど柔ではなかったが、ダメージは重い。そこへ、ウィスタリアの要塞砲が、バロウズの着弾地点よりややずらしたポイントに着弾する。
「樹皮表面へのダメージ、目標を達成いたしました」
 アルマが告げると、続いてウィスタリア甲板のストライク・イーグルの荷電粒子砲が、直線上の細かい枝葉をごっそりと抉り取る。そうして開けた道へと、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は機体を一気に発進させた。
「全く、付き合わされるこっちの身にもなれ」
 特攻にも近い発進に、同乗する柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)が呟いたが、その目は不敵な光が宿っている。
「いざ、尋常に……勝負!」
 一声と共に、ストライク・イーグルは神武刀・布都御霊を構えてアールキングの幹めがけて斬りかかった。高出力の砲撃を受けた樹皮は流石に硬さを保ててはいない。脆くなった部分に突きたてられた剣先で中を抉るように、機体は幹に沿って飛行していく。当然、柔らかいものを斬っているわけではないため、機体に返ってくる反動も大きいが、唯依は構うな、と恭也を後押しした。
「多少の損傷は整備班が泣くだけだ!」
 その言葉を受けて、裂け目を入れるように剣を振るっていたが、当然、アールキングがそれを黙って見過ごすはずはない。ストライク・イーグルを取り囲むように、複数方向から枝が迫ってきたのだ。
「ち……早い!」
 唯依が舌打ちし、恭也もとっさに剣を翻して迎え撃ったが、アールキングに突き込んでいた分、ロスがある。後方からの二撃目は、反転が間に合わない。
「――……ッ」
「させないわよ」
 損傷を覚悟した恭也だったが、その時。ストライク・イーグルの傍らへと接近したのは、異形の姿を持つ天貴 彩羽(あまむち・あやは)アルマイン・トーフーボーフーだ。
「忌まわしき双子よ、アルクトゥルスの彼方より神腕を伸ばして我らが敵をうち滅ぼせ!」
 アルハズラット著 『アル・アジフ』(あるはずらっとちょ・あるあじふ)の詠唱と共に伸ばされたツァールの長き触腕が、後方から迫っていた枝を掴み取ると、離脱の動きにあわせて枝を折り曲げた。みしみしと音を立てて枝が軋み、樹皮がめくれ上ったところで、ローザのロード・アナイアレイターがレーザーライフルで撃ち抜いて、枝を完全にへし折った。
「悪い!」
 そのままトーフーボーフーの鎌とロード・アナイアレイターがライフルで牽制している間に、恭也は機体のバランスを戻したが、警戒を強めたのか、枝が次々迫ってくるのに、唯依が眉を寄せた。
「体制を立て直したほうが良さそうだぜ。一旦、ウィスタリアへ帰還する!」

 そのウィスタリアでは、ゴスホークが柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)から整備と補給を受けている所だった。
「損傷は殆どないが、消耗が激しいな」
 熱を帯びた機体をチェックしながら、損傷箇所を修繕し、補給を進める桂輔は、アルマからのストライク・イーグル接近の知らせに「了解」と頷いた。
「あとはチャージさえ済ませれば、再出撃できるぜ」
 と言い残して、慌しく動く桂輔の背中を見送り、真司は息を吐き出しながら、眼下のアールキングを見やった。
「流石は、一度はイルミンスールを滅ぼしたというだけあるな」
 召喚されたのは一部だというのに、この戦力を相手にまだその回復力も衰えた風はなく、こうやって波状で仕掛けた攻撃も、今は効果を見せているが、放っておけばその内に塞がれてしまうことだろう。眉を寄せた真司だったが、無敵にも思えるアールキングとの交戦状況は変化しつつあった。
『パターン反転。再生率大幅低下、攻撃範囲変動……どうやら、やる気みたいなのだぜ』
 エカテリーナが不敵に笑う声を上げたのに、理王が「攻撃に特化して、一気に叩くつもりみたいだね」と補足すると、小次郎が「成る程」と目を細めた。
「ダメージ蓄積が無視できなくなってきたな」
 その呟きの通り、モニタに並ぶ膨大なデータを見ていてた屍鬼乃が「理王」と声をかけた。
『累積ダメージが目標値をオーバー。フェイズ2へ移行可能だよ』
 その言葉を受けて、それぞれが武装を構え直したが、シリウスは僅かに首を捻った。
「けどよ……ダメージ蓄積ポイントが散乱しすぎてねえか?」
 アールキングの幹を大幅に削ぐため、それぞれポイントを絞って攻撃を重ねてきたが、一点集中ではなく、かなり広範囲に点在しているのだ。これでは、再びポイントに集中攻撃を食らわせても、削ぎ落とせるかどうか。そう懸念するシリウスに、エカテリーナはふふん、と強気の表情をモニターごしに浮かべて見せた。
『ダメージが集中すると、流石に狙いに気付かれるのだぜ。それに、やるからには一気に削れる方がwktkっしょww』
 そう言ったエカテリーナは、合成音声ながら、歴戦ゲーマーらしく楽しんでいる様子が窺える。シリウスがその様子に片眉を上げていると『地上側の準備は万端だよ』と通信網に氏無の声が割り込んだ。
『大方の避難と、防御体制は済んだ。枝が降ろうが槍が降ろうが、まぁなんとかできる筈さ』
 その通信に、クリストファーや又吉が頼もしく同意する声が混じり、氏無は続けた。
『まぁ、やばくなったら全力で逃げる準備は出来てるから……思い切りやりなさい』
 相変わらず状況にそぐわないのんびりとした声が、背中を押すように付け加える。
 それを開始の合図に、状況は開始された。


 飛び出したルドュテとアンシャール、シュヴェルト13とザーヴィスチ、そしてロード・アナイアレイターが散開と同時にアールキングに急接近し、ダメージを蓄積させていた各ポイントに一斉に攻撃を仕掛けた。
「ダメージ率、60パーセントから80パーセントまで上昇!」
 クナイが声を上げる。狙い澄ませた一撃が、重ねてきたダメージの最後の一打となって、アールキングの幹にベキリと深い傷口を刻んだ。
「よし……!」
 歌菜は呟き、全機は着弾と同時に即座に期待を翻して離脱する。
 直後、ドン、ドン、ドンッと連続して響いたのは、白竜が各ポイントに埋めて回っていた機雷の爆破音だった。再生が仇になり、深くに埋まった機雷の爆発によって、樹皮から根深いところまで亀裂が走る。そして。
『太くて切り倒せないなら、切り倒しやすいように裂いてしまうのだぜ』
 走った亀裂は、それぞれの攻撃でダメージを蓄積させたポイント……樹の筋に沿って刻まれたそれらを、点と点を繋ぐ様にして走り、ベキベキベキッと音を立てて、幹に深く巨大な裂け目を生んだ。
「いっけぇえ!」
 そこへ飛び込んだのは、バロウズとドージェロボだ。リンの号令と共に巨体から繰り出される重たい一撃が、ドォンっと地響きのようにアールキングを揺さぶる。ばさばさと葉を散らせながら、枝がドージェロボとバロウズに伸びたが、彼らの進撃は止まらない。
「今だ……!」
 バロウズの巨体を盾代わりに、この至近距離まで運ばれた武尊と、トーフーボーフーが、甚五郎の声に飛び出した。
「行く、ぜぇええ……!」
 雄叫び一声。巨大化カプセルで巨人と化した武尊が幹に飛びつくと、裂け目に体をもぐりこませるような形で、無理矢理に亀裂を押し広げていく。いかに樹皮が硬かろうと、内側の繊維は縦に避けようとする力には弱い。みしみしと押し広がる傷口が伸ばせる手の限界まで来たところで、武尊がバロウズにしがみ付いて離脱し、入れ替わるようにチャージを終えたトーフーボーフーが構えを取っていた。
「龍よ、太陽すら飲み込む猛き呪龍よ、我らが敵を飲み込みつくせ!」
 アル・アジフの詠唱と共に放たれたヴリトラ砲から放たれたエネルギーが、まるで黒いドラゴンが駆け抜けるように、亀裂が入って剥き出しになった内側へと激突し、そして突き抜けた。
「貫通を確認。さあ……伐採と行きましょう」
 彩羽が更に追撃とツァールの長き触腕で、二つに割くように傷口を押し広げたところで、ごうっと急速接近する機体が二機。ウィスタリアから発進した、ストライク・イーグル、ゴスホークが、その機動力全てを威力に乗せて、それぞれの得物を、分断された幹へと振り下ろした。
 ルドュテ達が攻撃を重ねて脆くなった樹皮の上に正確に叩き込まれた一刀の下に、ついにアールキングの巨大な幹は削ぎ落とされ、生木を裂く断末魔のような音を引き連れて、地上へ向かって落下していったのだった。