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Welcome.new life town 2―Soul side―

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 第11章 

「……イディアちゃんを抱かせてくれないか?」
 朔がそう言うと、ファーシーは二つ返事で「うん、いいわよ!」と頷いた。
「わたしも葉月ちゃんを抱いていい? 男の子って初めてなのよねー」
「リンネちゃんも抱きたいよ! 未月ちゃんを抱いていい?」
「もちろんだ。どんどんと抱いてくれ!」
 未月と葉月という自慢の双子を抱くファーシーとリンネを見ながら、朔もイディアを抱き上げる。
「……やはり子供はいい……まさに宝物だ……愛くるしくてこのままなでなでし続けたい」
 そして、夢の中に居るようなとろんとした眼差しで彼女の頭を撫でる。それがぱちっ、と夢から醒めたのは葉月の泣き声が聞こえてきた時だった。わーわーと泣く彼の背中を撫でながら、特に驚きもせずにファーシーは言った。
「何かびっくりしてるみたい。どうしたのかな?」
「ああ、葉月は知らない人が苦手だから、それが原因かも……何だ、おっぱいが欲しいのか?」
 自分の方に腕を伸ばす葉月を見て、朔はすぐに息子の要求に気がついた。イディアをそっと椅子に座らせ、ファーシーの腕の中から葉月を受け取る。完全には泣き止まないままにぽよんぽよんと胸を触って服を脱がせようとする彼をあやし、朔は未月の様子も見た。葉月と同様、知らない相手に抱っこされたことに驚いたようだが、泣きかけたところで彼女の場合は止まっている。リンネの心の芯にある、子供への優しさが分かったらしい。おしゃぶりを口にしたまま、未月はリンネに遠慮がちに甘えていく。
「わー、この子、おとなしいよー! それに、可愛いよー!」
「良かったですね、リンネさん」
 嬉しそうに声を上げるリンネを博季は微笑ましく、また、来て良かったという思いを抱いて見守っている。その様子に、朔もまた双子を連れてきて良かったと思いながら――
 葉月に授乳させようと席を外した。

 ――閑話休題――

「フォォォ!!! イディアちゃん可愛い!!! そしてうちの子達も可愛い!!!」
 席と席の間の仕切り側に備えられているベンチ型の椅子の上に、イディアと未月、おなかいっぱいになった葉月が座っている。イディアは赤ちゃん用のゴスロリ服を着て、貰ったプレゼント――ミニ機晶犬やぬいぐるみ、E.G.G、ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)――と彼等双子と遊んでいた。ひとつプレゼント以外のものが混ざっている気がするのは気のせいである。
「うちの子の愛くるしさも負けてないぞ! なんたって、天使だからな! うちの子!!」
 ビデオカメラとスマホのカメラを併用し、朔はハイテンションでれまくりで子供達を激写していた。幸せになった事で色々とタガが外れたのか、親バカぶりを存分に披露している。その中で――
「にゃー、にゃにゃっ!」
『イディアちゃん! ボクは機械じゃないよ! 人形だよ!』
 関節の有無で分解できると勘違いされたのか、ちびあさにゃんはイディアに妙なロックオンをされたようだった。機械製のプレゼントで遊んだ後にさて次は……と手を伸ばしてきた。何で遊ぶのかと思ったらやけに力が入っていたのでびっくりして逃げ出し、今は彼女の体の周りでおにごっこをしているような状態だ。
「にゃー!」
「やめてー! お願いだから!」
 それを、何故か顔を真っ赤にしたフィアレフトが一生懸命に止めに入る。後ろからがしっと抱きしめて動きを止めると、イディアは「?」ときょんっとした目でフィアレフトを見上げる。そして、何を思ったのか泣き出した。
「えっ!?」「にゃっ!?」
「な、なんで泣くのーっ!?」
 イディアにつられて、泣きやんでいた葉月も泣き出した。ままごと遊びに使っていたほむらのぬいぐるみと魔法のぬいぐるみを抱きしめてわんわんと泣く。
「ば、ばぶー、ぶー?」
 その2人を、未月はクランとの遊びを中断して慰めに行った。お互いの顔を見上げては、“まあまあ”というように声を掛ける。
「すん、すん……」
「ひっく。うぇっ」
 やがて、2人は涙を残しつつも泣きやんだ。一応、イディアが4ヶ月程先輩の筈なのだが――
「未月さんが一番お姉さんみたいだね」
 3人の様子を見て、ケイラはそんな感想を抱いた。フィアレフトも困ったように、また、少し釈然としないようにイディアを見つめた。
「赤ちゃんの4ヶ月って、結構差が大きい筈なのに……。いえ、今は泣いちゃったからそう見えるだけで、わ……じゃなくてイディアちゃんの方がお姉さんですよー!」
「でも……どうしてあんなに泣いたんだろうね。何か、普通の泣き方じゃなかったような……ちょっと、こわがってたみたいな?」
「え?」
 それを聞いて、フィアレフトはびっくりしたようにケイラを見上げる。だがそれには気付かず、ケイラはファーシーと向き合ってプレゼントを渡していた。
「パーカーなんだけどね、一応頑張って作ってみたんだけど……どうかな?」
 小さな小さな青いパーカーを広げ、ファーシーはわぁ、と声を上げた。
「これをケイラさんが作ったの? 猫耳がついてるわね!」
「フリル沢山のドレスも捨て難かったんだけど……1歳ともなるとどんどん動き回るようになるだろうから、外に出る時に着れるような洋服がいいかなって」
「うん、すごい可愛い……ありがとう。普段着として使うわね」
「フぅ……色々と堪能したよ。ん、それはプレゼントかい?」
 子供達も3人で仲良く遊び始め、たっぷりと写真やムービーも撮った朔が戻ってくる。彼女は猫耳パーカーを見て、自分もプレゼントを持ってきたことを思い出す。
「……そうだ。カリンと花琳からのプレゼントを渡さないとな」
 そうして、まずは空いたテーブルの上に置いていたバースデーケーキの箱を開ける。
「これは、カリンから預かってきたんだ」
 ケーキには、イディアをイメージしたデコレーションがされていた。ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は、ファーシー達の不器用さ加減を心配してケーキを焼いてくれたらしい。
「『ファーシーとアクア先輩がまた変なもん作っちゃ大変だからな』と言ってたぞ」
「! だから、私は最低限の料理は出来ると……! ファーシーと一緒にしないでください、と伝えてください」
 謎料理のスキルが無くても謎料理を作成するファーシーと同列に見られるのは甚だ心外である。今度、どこかで大々的に料理の腕を披露する必要があるかもしれない。割と本気でアクアがそう考えていると、「うわぁ……」とデコレーションに感心した声を上げていたファーシーが朔に訊ねた。
「ところで、今日はカリンさんはどうしたの?」
「カリンは今、自分の店をオープンさせる為に料理の修行と軍資金貯めを兼ねた出稼ぎ中なんだ。それと、これは花琳からだ。花琳は、まだ一人旅を続けてるんだ。個人的な理由がまだ解消されてないみたいでね。私も詳しい事は知らないけど……」
 そう説明し、朔はパラミタ中を撮影した写真の数々をファーシーに、イディアへは三二一のサンタぬいぐるみをプレゼントした。まだ自分が1人前とは思えず、プリムに会って謝る決心も……という花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)の旅の理由までは朔にも分からない。
「最後に……私からだ。この子もファーシーと同じ素敵な女の子に成長することを願って」
 そうして、彼女は花飾りをそっとイディアの掌に置いた。
「……フフ、ここ1年は結婚、出産、家事と育児で外出とか出来なかったからな……」
 この選択が正しいものだと、1ミリの後悔も無く思えるから。
 成長した子供達と、沢山の友人達に囲まれて祝いのひとときを過ごすという事がどれだけ貴重で尊いものかが解るから、朔はこの一分一秒を大切に感じつつ、楽しそうにケーキを等分に切っていった。

「イディアちゃん、眠くなっちゃったみたい。どうしよう……?」
 未月に続いて、イディアを抱いていたリンネが少し困ったような声を出した。遊び疲れたのだろう。リンネの頬の傍でまどろみ、むにゃむにゃと口元を動かすイディアを見て、ファーシーは言う。
「本当ね。安心してるみたいだし、良かったらそのまま抱いていてもらえると嬉しいな」
「う、うん……わかった!」
 リンネは使命感のようなものを瞳に宿してイディアをよいしょと抱き直す。大きく動かさないように座り直してイディアの寝顔を見守る彼女を見つめ、博季は思う。
(可愛いなあ、リンネさん……)
 幸せな気分に包まれて、自然とにこにこと、少し弛緩気味の微笑みを浮かべてしまう。
「もう! 博季くん、思ってることが丸分かりだよ! しょうがないなあ……」
「え? あ、つ、つい……リンネさんも、そんなに笑わないでくださいよ」
 苦笑しつつも嬉しそうなリンネに、何か恥ずかしくなって照れ笑いする。今は家で2人きりじゃないのに、気がつくと暖かい気持ちの中で周りの事を忘れてしまう。
 それだけ、この時を幸せに感じているということで。
(ファーシーさんの子なのに、一緒にいるとものすごい幸せな感じがしちゃうのはなんなんだろう、これ……)
 赤ちゃんって、不思議な存在なんだ。
「それじゃあ、子供達の様子を見ながらママさん会話でも楽しむとしようか」
 ケーキの乗った皿を手に、朔がそう言うのが聞こえたのはその時だった。博季ははっと我に返って彼女に言う。
「僕達も入っていいかな。あの、まだ、ママパパじゃないんですけど……ご出産の経験のある方、なかなかいないし。お話が参考になればって。……その、備えだけはきちんとしておいたほうがいいかな、とか。大変だったこととか……してほしかったり、あとは経験してみないとわからないこととか。それに、準備しておいたほうがいい物、とか」
 リンネのためにも、将来のための心構えとかが出来たらいいな、と思う。育ててくれた音井の家の母は亡くなっていて、養子である彼がこういった事を聞けるのはリンネの母くらいしかいない。だからこそ、ここで話を聞いておきたいという気持ちがあった。
「ああ、予備知識というのは大事だからな。何でも聞くといい」
 朔はあっさりと、むしろ歓迎ムードで博季に応えた。そして、さあさあ、と近くにいたアクアにも言う。
「アクアも後学の為に混ざるといい。というか、混ざってうちの子自慢を聞くといい」
「!? こ、後学の為って、私は……」
 引き込まれたアクアは、顔を赤くして戸惑いまくりながら朔の隣に立った。アルコールを摂った様子も無いのに陽気な彼女に、少し身を縮めて上目遣いにアクアは言う。
「……暫く見ないうちに、随分変わりましたね。明るくなったというか何というか……」
「ん? フフ……」
 それを聞いて、朔はスカサハに寄り添っている未月と葉月に母親らしい眼差しを向ける。
「なら、あの子達のおかげさ。……本当に無事に生まれてきてくれて嬉しかった……。ファーシー、君もそう思うだろう?」
「うん、そうね……あの日の事は一生忘れないと思うわ」
 当時のことを思い出したのだろう。はっきりと答えるファーシーと朔はケーキの友として用意していたグラス同士を軽く合わせた。続けて、博季とアクアとも乾杯する。
「願わくば子供達の健やかな成長を願って……乾杯♪」