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Welcome.new life town 2―Soul side―

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 第8章 

「えっ……アイビスさん」
「うん……そうだったの」
 皆、それぞれに話をしている。相手の耳に自分の言葉が届くように、普段よりも大きめの声で話しているし、周りに聞こえる事はないだろう。アイビスはそう思い、この機会にファーシーに伝えておくことにした。
「ファーシーさんがイディアちゃんを産めたように、私も、子供が産めるって」
 と、いうことを。
 そう言った瞬間、同じテーブルに座っていたルシェンがびくっとしたが、アイビスがそれに気付く一方でファーシーは全く気がつく様子は無い。やっとこさっとこカウンセラーとしての業務を終わらせてカフェに着いたルシェンは、仕事終わりの一服も兼ねて赤ワインを飲んでいた。軽い酔いもあって普段より若干自制レベルが低く分かり易いのだが、それでもファーシーは目を輝かすのに忙しくて気が付かない。
「おめでとう! 良かったわね! あ、でも……本当に大変だからカクゴしておいた方がいいわよ? この子を産む時なんか、わたし、爆笑しちゃったわ」
「ば、爆笑……?」
 それって、すごく楽しかったという事だろうか。楽しいなら良いような気もするけれど。
「それで、アイビスさんは気になる人とかいるの? 将来は彼と……みたいな」
「…………!」
 グラスにワインを注いでいたルシェンの手元が大きく狂う。グラスから零れるワインを見て、朝斗が白い布巾を持ってテーブルへとやってきた。彼は料理の手伝いの延長で少なくなった料理を足したり、お酒やジュースを用意したりしていたようだ。
「あーあ、ルシェン、気をつけないと……」
 テーブルを拭きながら、朝斗はルシェンと目を合わせる。
「顔が赤いし……今日は何か、ペースが早いんだな。仕事で疲れて酔いやすくなってるとかかな?」
「そ、そんなんじゃないわよ。それより朝斗、料理運んだりするならメイド服着なきゃ! 無いなら女の子の制服よ! ほらほらほら!」
「え? ちょ、ちょっとルシェン……!?」
 ルシェンは朝斗の背をぐいぐいと押して、ノアに女子の制服があるか聞いている。そして「勿論ありますよーっ」という言葉と共に、3人は裏へと入っていく。
「……ぶ?」
 大慌て、という様子のルシェンをイディアは不思議そうに見送り、ファーシーも小さく首を傾げる。
「どうしたのかしら……でも何か、“女の子”っぽく見えるような……」

「ファーシー様、イディアちゃん」
 彼女達の消えた先を向いたままであった2人に、望が話しかけてくる。彼女は黒髪ロングの仏頂面をした制服少女のぬいぐるみ――『ほむらのぬいぐるみ』をイディアに渡した。
「こちらは、私からのお誕生日プレゼントです。ま、まぁ新作劇場版も公開していますし……そう、古いものではないかなぁ、と」
「「…………?」」
 望の台詞に、ファーシーとイディアはきょとんとした。深夜帯での放送だったのが幸いし、彼女達はぬいぐるみのキャラクターが出てくるアニメを見ていなかった。映画館はまだ早い、と映画の上映予定もチェックしていないので、完全に無知と言って良い。だが、ファーシーの方はその台詞で何となく意味は察せられた。
「何かの映画のキャラクターっていうこと?」
「……そうですね、そういうことです」
「そっか。じゃあ、その『新作劇場版』の前のお話でも借りて観てみようかな。せっかくぬいぐるみもらったし、イディアはアニメも好きだしね」
「そ、それはダメです!」
 キャラをプレゼントしたにも関わらず、望は反射的に制止の声を出していた。精神衛生という面から考えても、この母娘にはまだ刺激が強すぎる。
「? どうして?」
「ええと、子供向けのアニメではないので……イディアちゃんが観たらショックで数日悪夢を見るかもしれません。もう少し大きくなってからの楽しみにするのも良いのではと」
 ファーシーは納得したようだった。「じゃあそうしようかな」と気が変わったらしい彼女に、先程フィアレフトに話したように預かりものだと説明してもう1枚の『太陽のアルカナ』を差し出す。
「お嬢様も来たがってはいたんですが、当主継承の準備や何かで色々と忙しいもので」
 カードを摘んで受け取ったイディアは、じっと絵柄に見入っている。
「こちらのアルカナはお守りみたいなものですね。健やかな成長を願って、と言伝を預かっております」
 きちんと解説を加え、プレゼントを渡せた事に望は達成感を感じてガッツポーズをした。クリスマスの時はピノにぬいぐるみを渡したのだが、頭ぐるぐるであったその時の記憶は曖昧で、むきーっとリベンジを誓っていたのだ。
 今度こそプレゼントをちゃんと渡す! と。
(さて、あとはこちらを処分しておきませんと)
 そうして、望は金魚鉢を持ってまた歩き始めた。