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Welcome.new life town 2―Soul side―

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Welcome.new life town 2―Soul side―

リアクション

 
 階段を上り、賑やかなオープンカフェとは一転した静かな事務所で立ち止まる。
 最終的に、フィアレフトはラスとアクア、望の他にリネンとフリューネ、ルカルカとエリザベートを呼んでいた。フィアレフトの来た理由――それについて気に掛けていた面々と、そして、自分の正体に気付いた――
「さて……なにか悩んでいる様でしたら、愚痴くらいは聞きましょうかね? 困り事があるのなら、こっそり手助けしますよ」
 望の言葉に、フィアレフトは微かに微笑む。
「……そう、言ってくれると思っていました」
「どうしたの? 事情があるのなら聞くし、私は力になるわ」
 ルカルカも彼女に言い、謎の少女は「その時は、お願いします」とまた笑う。そうして、「でも……」とどこか寂しそうに続けた。
「聞くだけでも、構いません。私はただ……皆さんには話が出来る。聞いてもらえると思ったんです。子供の妄言だと思っていただいてもいいです。ちなみに、愚痴ではありません」
 例えに冗談を返す余裕はあるようで、彼女はそう言うと、ゆっくりと話し出す。まず向き合ったのは、アクアに対してだった。
「こういう事を言うのも、あんまり良い事とはいえないんですけど……どっちにしろ、近いうちに選ばなければいけない時が来るから。……先生、“私達”に色々と教えてくれてありがとうございました。おかげで、私はミンツくんを作れるだけの技術も身につけ、“ここ”に来ることができました。今日、先生達に再会するまで『8月11日』の意味も忘れていたけど……この日に私が来れたのも、何かの運命だったんだと思います」
「せ、先生……? どういう事ですか? 貴女は、何を言っているんです? 再会も何も、私は貴女とは初対面で……」
 運命っていう言葉は嫌いだけどそうとしか思えないから。と続けるフィアレフトに、アクアは混乱のままに問い掛ける。自分自身の問題でいっぱいいっぱいなのに、いきなり意味の解らない事を言われても彼女は対応できなかった。静かに首だけを振って答える少女に、リネンが訊く。
「ねえフィー、あなたは一体……何者なの?」
「それを言うのは、もう少し待ってください」
 正体を告白して全てを話せば、ここで意見が別れてどうなってしまうか判らない。場合に因っては、階下で平和に行われているパーティーが壊れてしまう結果にも成り得る。簡単に人を信じられない環境に一時的にでも身を置いたフィアレフトは、それを危惧せずにはいられない。
 でも、知って欲しいとも感じていた。今日1日、我ながら自分はよく口を滑らせた。それはただのドジではなく、気付いてほしいという思いの表れだったのだろう。
「私と同じように、“成功した者”がここへ……恐らくツァンダの、ピノさんの下へ現れます。ピノ・リージュンという存在を消して、『自分の世界』を守るため……いえ、取り戻す為に。ラスさ……おじさんが入院したと聞いた時は手遅れかとも思ったんですが……全く関係の無い事情で安心しました」
「存在を消す……!? 手遅れって……ピノが抹消された後だと思ったのか? ピノが……」
「……何か、悪いことでもするのですか? それとも……」
 ラスの後を引き継ぐように、望は言う。
 彼女は、もう2年以上前になる出来事を思い出していた。
 それは、かつて――ファーシーが謂れのない理由でアクアに悪感情を持たれたように、ピノ自身には身に覚えの無い、外的理由から起こる事なのだろうかと考える。
「ピノさんは守ろうとしただけです。限りある“魂”――生命の営みを」
 そして“彼”は自分の家族を、友人を取り戻そうとしている。“彼”からしてみれば、否、あの世界で暮らしている未来を望む人々にとっては、むしろフィアレフトが悪で、裏切り者とも言える。
 けれど――
「まだ、断片的な事しか言えません。そしてこれは、極個人的な事に過ぎなくもあるんです。私はピノさんを守りたい。“彼”はピノさんを抹消したい。でも、その結果が影響するのは、この世界ではないから。私達はこの時点で、皆さんを巻き込んでしまっているだけなんです。どう転んでもこの世界に益は何も無い……エリザベートさん」
「な、何ですぅ?」
 代名詞を使い過ぎている所為で具体的であるのに全く全貌が見えない話に、それも突然呼び出されて聞かされた話にエリザベートは目を白黒させている。
「“彼”が“成功”して、この世界にやってきたら……いつか、エリザベートさんの所へ行く時が来るかもしれません。自分を在るべき場所に戻してくれ、と。その時は決して受けずに、断って欲しいんです。お願いします」
「よ、良く解らないですけどぉ〜、分かりましたぁ。でも、最終的な判断は私がしますよぉ〜?」
「……それで、構いません。エリザベートさんの判断力は信じていますから」
 真面目な表情で「後、能力も」と付け加えたフィアレフトは皆に向き直った。
「“彼”がいつ来るかは、判りません」
 大まかな指定は出来ても、細かい事までは設定出来ないから。だから、時期は彼女にも分からない。
「でも、早ければ今年中、遅くても次の年の初めには到着する筈です。その時は……ピノさんを守らないと。だから……」
 そう言って、最後に少女は目一杯の意思を込めて、ラスに言った。
「私をしばらく、泊めてください!」
「…………」
 絶対に引かない、という勢いの前で、ラスは彼女の申し出の意味を考えた。フィアレフトの話が真実で、本当にピノが抹消される可能性があるというのなら看過出来る事態ではない。この少女は、全ての情報を開示していない。その状態で彼女を突っ撥ねて居場所不明にしてしまうのは得策とはいえないだろう。何より。
 ファーシーの家には絶対に泊まれないと主張し、喋る機械という特殊なパートナーを持ち、アクアを『先生』と呼び、自分を――否、それはともかく。
 フィアレフトの正体が想像通りの人物だとしたら……彼女を放置したら、今度はファーシーに殴られかねない。『フィアレフト』で通す以上、ファーシーがそれを知る事は無いだろうが――
「……人の事を、おじさんって呼ぶのを止めてくれたらな」
「それは無理です」
「はあ!? ていうかさっき、わざわざ言い直したろ! そのままで突き進めばいいところをわざわざ……」
「ご、ごめんなさい! つい悪戯心が……善処します。善処しますから泊めてくださいっ!」

「フィー」
 皆が階下へと降りていった後、リネンはフィアレフトを呼び止めた。ミンツも一緒に足を止めたのを確認して、彼女は言う。
「その機晶ドッグって変形するって聞いたんだけど……仕組みはどうなってるの? もし良かったら、ちょっと調べてみたいんだけど……」
「えっ……ま、またですかっ!?」
「また?」
 少し憤慨したように声を上げるフィアレフトに、リネンはきょとんと瞬きした。こう言われたのは初めてではないらしい事だけ把握して言葉を続ける。
「私も空賊でしょ? 未知の飛空艇って気になるのよ」
「…………」
 気が進まない、という思いが顔いっぱいに現れている少女に、「無理にとは言わないけど」とリネンは言った。
「機工マスタリで機械には精通してるから、壊したりはしないわ」
「…………」
 フィアレフトは考えた。自分はリネンに、一端ではあるがこの世界に来た目的を話した。けれど、肝心な事はまだ何1つ話していない。顔見知りであるピノを“彼”が抹消しようとする理由も、自分自身の正体も。それがとても身勝手で中途半端で、皆を振り回すだけの行為だと分かっているのに。
「……分かりました」
 フェアではない事は自覚している。だから、彼女はダリルにそれを認めた時とは違う理由で、ミンツを調べることを了承した。

              ◇◇◇◇◇◇

 そして、その頃――
(『ミンツ』……あの機体は、内部で使用されていたあの部品、あの技術は……)
 教導団に戻る最中、ダリルは実際に見たミンツの構造を思い出していた。
(俺が見た事の無いものだ。恐らく、この世界のどの技術書を見ても載ってはいないだろう――)
 

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

この度はご参加ありがとうございました。沢樹一海です。
フリーサイドの方のマスターコメントで「なるべく早く」と記しておきながらそれから2週間も経ってしまい……。大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

20人シナリオで7万字書くとか何をやっているのか、と……。さっさと締めれば良いものを(でもこれでも予定からカットしたシーンも幾つかあります。増えたシーンの方が多いのかもしれませんが)

新キャラのサトリさんとフィアレフト・キャッツ・デルライドについてですが、こちら2人共、この後のシナリオにも登場予定となっています。フィアレフトに関しては引きを作りまくっているので言わずもがなな気もしますが(サトリさんは今回限りの予定だったのですが、執筆中に色々浮かんできたので多分また出ます。しかし、見事にシグさんが空気ですね(笑))

フィアレフトの正体についてですが、正解された方がちらほらと居られました。
そう、それで合ってます。マスターページにこっそり追記した部分にも気付いたもらえたようで、アルファベットと格闘した甲斐がありました。
ただ、今回はアクションに絡めるのは(情報無さすぎで)難しすぎたようでPL情報の段階であり、正解! という意味を込めてちょっとばかり絡みを増やしてみたり、MC周辺の台詞にここぞと伏線やヒントを書いてみたりとかしてみました。PC情報で「ばれてますねこれ」という方のみ、もう少しあからさまな書き方をしています。
こちらがPC情報化するのは、次回のリアクション内となる予定です(ただし予定は未定です)。
にしても、最終ページはほんとにもやもやする書き方してるなあ、と我ながら思います。色々と伏せすぎで私自身なんのこっちゃ状態ですが、どういう意味か想像してみるのも良いんじゃないかな、とか思います(次ガイドいつになるか分かりませんが)。

次のシナリオについては、色々と迷い中です。最終ページに書いた“彼”が来る時期をぼかしたので、何かインターバル的なものをやるかもしれません。

私信等も、いつもありがとうございます。個別コメ返信できず、申し訳ないです(というか、リアル時間の関係で今回個別コメント基本白紙です。出そうよ! という方にも白紙で失礼させていただいています。今回この欄に色々と書いているのも個別コメ代わりという面が多かったりします)。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
よろしければ、次回もお付き合いいただけると幸いです。

※フリーサイドの方で、こちらの個別コメントで説明するとお伝えしていた1MC様のみコメントを追加いたしました。