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第9章 白く柔らかなもちもち

 1月2日。
(うわっ、メンドクサイのがいやがる)
 空京神社を訪れたパラ実生、如月 和馬(きさらぎ・かずま)の狙いといえば、勿論賽銭箱だ。
 新年の挨拶や初詣には全く興味がないが、振る舞われている飲食物や、賽銭箱には興味がある。
 しかし、目当ての賽銭箱から見える位置に、巫女装束姿の神楽崎優子――ロイヤルガード隊長の姿があったのだ。
 隙があれば箱ごと持ち帰りたいと思っていたが、どうやら無理そうである。
(しかしまあ、なんでこんなに人がいるかね)
 参拝に訪れている人々を、和馬はつまらなそうに眺めていた。
(ここじゃ神なんてそれほど珍しくもないだろうに、何を有難がって神社に足を運ぶんだろうか)
 とはいえ。
(女にモテる気さくな好青年を演じるためには、こういうイベントも心の底から楽しんでいるという印象を、周りに見せつけねえとな!)
 というわけで、ゲーセンのコインを賽銭箱にポーンと投げ入れた。
「賽銭箱は、メダルゲームの投入口じゃないぞ」
 途端、側にいた女性が和馬に声をかけてきた。
「いやいや、あれはオレの地元の記念硬貨なんだ。少なくても5円分の価値はある」
 和馬がそう答えると、その女性――メルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)は疑いの眼で和馬を見たが、それ以上は何も言わず、自らも賽銭を入れて目を閉じ何かを祈願した。
 そして、そのまま帰ろうとする。
「ちょっと待った。この後、餅つきに加わらせてもらうんだ。ここで会ったのも何かの縁だし、
お前も食ってけよ!」
 和馬はメルヴィアの腕をぐいっと引っ張った。
 視線は勿論、彼女の餅……のように柔らかそうな白い胸元に釘づけだ。
「焼き餅の早食い競争、やろうかと思ってるんだ! おまえ、教導団員だろ、死者が出ないように見張ってなくていいのか〜!?」
「馬鹿なことを……新年早々、羽目を外す気か」
「お汁粉や、雑煮もある。そんな格好じゃ寒いだろ。食ってけよ」
「……おい、さっきから、お前は一体何と話しをしてるんだ」
 ベシンッと、メルヴィアが和馬の頭を叩いた。彼は変わらうメルヴィアの胸を見ながら話しかけていた。
「まあ、お前達が餅に変なものを入れたりしないか、見張る必要はありそうだな」
 そうため息をつきつつ、メルヴィアは和馬と共に餅つき会場へと歩き出した。

「どりゃー。うおー。そいやー!」
 大げさな掛け声をあげて、神職から奪……もとい、お借りした杵で和馬は餅をついていき、柔らかくて美味しい餅に仕上げる。
 神社には日本人が多く訪れており、和服姿の男女が多くみられた。
(昔は着物なんてものは体型に自信のない女が着るものだと思っていたが、こうして周りを見てみるとなかなかに風情があっていいじゃねぇか!)
 凛々しく力強い自分を囲むファンの和服な女の子(妄想)に、ファンサービスのごとく、投げキッスと餅を振る舞う。
 女の子達は、餅だけ喜んで受け取って帰っていった。
「待たせたな! これはお前の分だ」
 そして、つきたての餅をメルヴィアの元へと持っていき、お汁粉にして一緒にいただくことにした。
「……温まるな」
 お汁粉を飲み、メルヴィアがふっと笑みを浮かべた。
「オレはもう、体アチアチ状態だがな!」
 餅をつきまくった和馬は、大量に汗をかいていた。
「いい汗をかいたな。境内で騒動を起こすなよ」
「仕方ねぇな、それじゃ荒事は神社の外でやることにするぜ!」
「……しばらく見張ってないとならんのか。それとも、餅にしてしまうべきか」
 いつの間にか、メルヴィアの手には杵が握られていた。
「わかったわかった。外でも暴れねぇよ。その代り、もう少し付き合ってくれよな」
 にっと笑って言うと、メルヴィアは苦笑のような笑みを見せた。
「了解。次は私も餅をつかせてもらおう」
 彼女もつきたかったようだ。

 その後。和馬は下方からメルヴィアの揺れる2つの餅を堪能しながら、返し手を務めたのだった。
 ……時々、頭に杵を叩き付けられながら。