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未来への階段

リアクション

 訪れた者達が歩くとき、飛ぶとき、走る時、この世界に風が生まれる――。
「因果応報かもしれんが、魔女への頼みはほっとけねえな」
 小型飛空艇で、瓜生 コウ(うりゅう・こう)はこの世界を飛び回っていた。
 ダークレッドホール発生直後から、彼女はタシガン空峡周辺を調査していた。
 その時に話を聞いた行方不明者の近親者から、個人的にも探索を頼まれていた。
 預かった写真を手に、探して回るが、バラバラになってしまっていたり、焼け焦げてもとが何であったのかさえ分からないものも、ほとんど骨しか残っていないものもあり、身元を判明させるのは困難だった。
「当時来ていた服が分かる者はまだいい」
 顔がわからずとも、服の切れ端で判断できるケースもあった。
「DNA鑑定でもしなきゃ、分からない者も多そうだ」
 見つけた遺体を前に、軽く目を伏せる。焼け焦げていたが、原型をとどめている遺体だった。
 コウは周辺に落ちていた遺品と共に、飛空艇へと乗せた。
 そして、一旦拠点へと戻る。
「あっちの方向に、飛空艇の残骸があった。多くの遺体や遺品があるようだ。手伝ってくれないか」
 見つけたその遺体は、焔狼盗賊団のメンバーと思われた。
 コウが持ってきた遺品の中に、盗賊団が掲げていた旗の切れ端があったから。
 彼等もまた、古代の陰謀に翻弄された力のない個人。
 彼等にも命があり、人生がある。
 命の物語を看取り語るのが生死の垣根に立つものとしての【森の魔女】瓜生コウのマジカル・モットーだ。
「……わかった。2、3名向かわせよう。それで大丈夫か?」
「ああ、頼む」
 地面に敷かれたシートの上に遺体を寝かせ、遺品を優子に預ける。
 そして自分以外の者が発見した遺体を確認し、探索の依頼を受けている人物はいないか見て回る。
「オレが個人的に依頼を受けていた人物に関しては、受け渡し任せてもらえるか?」
「顔や所持品ではっきりと身元が判明した人物については、頼む」
「……わかった」
 確認を終えると、コウは飛空艇の残骸の場所へと戻っていく。

「ダークレッドホールに人々を誘った人達も、操られていたのかもしれないから」
 コウの元に応援に訪れたのは、モニカと、美羽コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の3人だった。
「人を操る力を持った人、いたの?」
 船の残骸に近づきながら、美羽はモニカに尋ねた。
「詳しいことは判らないけれど、報告を聞く限り、多分。少なくても、瑠奈……風見団長が向かうきっかけになった時、ダークレッドホールに突入しようとしていた人達は、操られていたみたい」
「そうなんだ……」
 悲しげに言いながら、美羽はモニカ、コハクと共に瓦礫をどかして、人の姿を探す。
「あ、ここに」
 コハクがどかした瓦礫の下に、人の足のようなものがあった。
 傷つけないように注意をしながら、3人は上に乗っかっている瓦礫や石をどかしていった。
「……パラ実生かな」
 その遺体は、炎に対してのなんの対策もしていなかったように思える。
「宝さがし目的で飛び込もうとしたのなら、防火服くらい用意してそうだよね」
 だからやっぱり、誰かに操られて飛び込んだのかなと。
 少し切なく思いながら、美羽は動くことのない少年の上半身を持ち上げた。
 下半身をモニカが持ち上げて、コハクは散らばっていた遺品を持ち、平らな場所へと遺体を移していく。
「この場所にはまだ、彼の仲間が沢山いそうね」
「うん、友達みんな、見つけ出だそうね。頑張ろうね、モニカ!」
 モニカと美羽は寂しげに頷き合った。
 美羽は今回、今までの事をモニカが挽回できるようにと思い、誘ったのだ。
「この世界はなんだか……遠い過去の世界みたいだから。今の世界に返してあげたいね」
 コハクは辺りを見ながら言う。
 付近には小さな塔のような建物が在った。
 どこかで……そう、ヴァイシャリーの地下に在る、離宮と同じ作りのように思えた。
 それからも3人は一生懸命、人々を帰すために働いて行く。
「ヒャッハー、オレは先にここを調べさせてもらうぜェ」
 しばらくして、塔を見つけた竜司が近づいてきた。
「地図に乗ってねぇからな、まずは記録しておくぜェ」
 竜司は銃型HCにこの場所をインプットし、それから周りを調べる。
「火事があったのかァ? この世界の建物は黒焦げなのが多いなァ」
 建物も、乗り物も、植物も。そして人も。焼けてしまっているものが、多かった。
「でも、昔の人の姿はないよね。大火事が発生して、皆で逃げたのかな」
 コハクが近づき、塔の状態を確認する。
「逃げたあと……」
「封印、した?」
 この場の遺体と遺品の回収を終わらせて、モニカと美羽も近づいてきて、塔を見て回る。
 やはり離宮に存在していた建物と造りが似ている。
 そしてここは離宮のように封印された過去の世界なのではないかと、思うのだった。

「身元が分からないのなら……遺品や体をサイコメトリすれば、その人のこと分かるかも」
 拠点で遺体の保護と、遺品の整理を担当していた少年がぽつりと言った。
「ナオ……」
 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)が、その少年、千返 ナオ(ちがえ・なお)に、真剣な目を向けた。
 かつみには、そして指揮者である優子も気づいていたことだ。だけれど、言わなかった。
 それはとても辛い作業だから。
「俺、やります。みんな、家族の元に帰りたいですよね……」
 ナオの言葉に、かつみは静かに頷いた。
「無理はしないでくださいね」
 遺体の修復をしているジェライザ・ローズがかつみを案じて声をかけてきた。
「いえ、気持ち同じですから。そちらもどうぞよろしくお願いします」
 ナオはぺこりとローズに頭を下げた。
「ええ、皆様がご家族のもとに少しでも良い形で帰れるよう、共に頑張りましょう」
 ローズはそう言って、アキラが作った風呂で遺体の身体を洗ったり、遺体を少しでも生前の状態に近づけようと、修復作業を進めていく。
「はい」
 頷いて、ナオは遺品に触れて、サイコメトリで調べていく。
 見えたのはダークレッドホールに突入した瞬間の映像だった。焼けていく船と人々の姿を見たナオの手が震えた。
「持ち主の、顔……分かりました」
 そして、写真付きの行方不明者リストから、持ち主の顔を探し出して、指差した。
「この遺品の持ち主は、この方であったな」
 ノーン・ノート(のーん・のーと)が体の大半を焼失している一人の人物の側に行き、間違いないかとナオに尋ねる。
 ナオはしっかりとその人物を自分の目で確認して、頷いた。
 遺品は沢山ある。遺体も次々に運ばれてくる。
 ナオは呼吸を整えると、次の遺品をサイコメトリで探り、同じようにして身元を判明させていく。
「はあ……はあ……」
 続けるうちに、ナオの呼吸が荒くなっていく。
 肉体的な負担はそう多くなくても、精神的に酷く疲れていく。
「みんな頑張ってるのに俺ひとり泣いちゃだめですよね」
「……」
 代わってあげたいと、かつみは思う。
 泣いていたら、慰めたいとも。
 でも、今は優しい言葉はかけなかった。
「少し休憩しよう」
 ノーンが震えているナオの手を取って、その場から背を向けさせて座らせた。
 そして、持っていたペッドボトルのお茶を彼に渡した。
「ありがとうございます」
 何度も瞬きをして涙を押さえて、ナオはお茶を飲んだ。
「相手を思う気持ちも大事だが、支える方がそれに溺れて動揺しては本末転倒だぞ」
 ノーンのその言葉に、「そうですね」と、ナオは瞳を潤ませながら答えた。
「あのですね、俺……まだ将来の夢とまではっきりではないですけど」
 隣に座ったかつみに、ナオは目を向けた。
「できれば、かつみさん達が俺にしてくれたみたいに、辛い思いの人を支えられる、できれば笑顔にできる。
 そんな事ができる人になりたいんです」
「……そうか」
 とだけかつみは答えて、自分も持ってきたお茶でのどを潤した。
(今まではナオが泣いていたら、なぐさめればいいと思っていたけど、ナオだって独り立ちするんだ)
 これからは守るだけじゃなくて、時には厳しいこともあえて言わないといけない。
 彼が自立するのなら――。
 そう思い、口に出したい慰めの言葉や、優しい言葉をお茶と一緒に飲み込んでいく。
(俺はその時ちゃんとナオに言ってやれるのか、 言える程の人間になれるだろうか。
 今はすぐには思いつかないけど……)
 息をつくと、穏やかな目でかつみはナオを見つめる。
「…………家に帰ったら、泣いていいから。今は作業がんばろう、な」
「一番つらいのは当事者やその家族・友人達だ、ここで泣くより、亡くなった人達を早くうちに帰してやろう」
 かつみとノーンの言葉に、ナオはこくんと強く頷いた。
 こうしている間にも、遺品も遺体も沢山運ばれてきている。
 うんともう一度強く頷いて、ナオは作業に戻る。
 精神力を使い果たし、サイコメトリが使えなくなっても、体を休ませ回復させながら、遺体に目を向けて「もう帰れますよ」と、人々に優しく声をかけていく。
 そんな彼の近くで気遣いながら、かつみとノーンも、行方不明者のリストと照らし合わせ、身元の判明に努めていくのだった。