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リアクション
1.若葉分校生のバレンタイン
大荒野の外れ。ヴァイシャリー湖近くに存在する丘に、屋台が設けられていた。
バレンタインの今日。この場所の屋台で飲食物を販売しているのは、モヒカンやリーゼント、スキンヘッドの青少年――若葉分校のパラ実生だ。
「ヒャッハー! 売って売って売りまくれェ!」
若葉分校の番長吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が大声を上げた。
「へーい……クレープはいかがっすかー。でぇとといったらクレープっすよぉ〜」
しかしなんだか、分校生達はあまりやる気がなさそうだった。
それもそうだ。この穴場のデートスポットに現れる者と言ったら、カップルにアベックに恋人同士ばかりなのだ。
バレンタインだというのに! ここで屋台を開いている面々は相手のいない寂しい男ばかり……。
「あー……空しいぜ」
「そう言うな! ガッツリ稼いで分校増築や、増築祝いパーティを行う資金にするんだ! 女の子を沢山呼ぶぞ!」
飲み物やの屋台の前で、元気に指揮をとっているのは、若葉分校の庶務であるブラヌ・ラスダーだ
「おー、そうだなぁ。やるか……」
少しやる気を出して、訪れる人々に呼びかけていく分校生達の姿を、ぐへへ、ぐふふと頷きながら、竜司は見守っていた。
「言いだしっぺのオレが一人でモンスター退治とか力仕事のバイトして建設費を稼ごうと思ってたが、そんな必要無かったみてえだな」
増築を提案したのは竜司だった。既に、総長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)にも話を通してあり、優子が百合園女学院を卒業した後の、4月に若葉分校の増築は行われる予定だった。
(オレは若葉分校という一家の大黒柱だ。だから、一人で金を稼いで来ねえとと思ってたが、家族なんだから舎弟たちに頼って良かったんだよなァ、舎弟たちに大事な事を教わったぜェ)
竜司はぐふふぐへへと怪し……いやにこにこ笑みを浮かべっぱなしだった。
「よし、そろそろ優子が来る時間だ。てめぇら、しっかり働けよォ」
「うぃーっす」
「へーい」
優子の名を聞いたせいか分校生達はまた少しやる気を出して、訪れる人々に声をかけていく。
「優子はこの一家のおっかさんみたいなもんだからよ、子どもらの成長っぷりを見たいだろう」
うんうん頷きながら、竜司は優子を迎えに行った。
そう、今日はバレンタインデー。
自分の伴侶ともいえる存在の(竜司妄想)、神楽崎優子は何を差し置いても、自分に会いたいだろう(竜司妄想)、渡したいものもあるだろうから(竜司妄想)、彼女が抜け出しやすいように、竜司の方から声をかけてあげたのだ。
……というわけで。
「待たせたな」
「オレも今来たところだぜェ! どうだ、優子も売り子をやってみねェか?」
飛空艇で訪れた優子を連れて、竜司は再び丘の上に登って、働いている若葉分校生達の姿を見せた。
「売り子か……そういえば、売り子はほとんどやったことがない。接客は得意じゃないんだ。……営業や事務も向かないと思うが」
苦笑しながら優子は答えて。
持ってきたものを竜司に差し出した。
「ハッピーバレンタイン。分校の皆で食べてくれ」
それは缶に入った、チョコレートの詰め合わせだった。
「ああ、やっぱりそうか。わかってるぜェ。てめぇの気持ち、受け取っておくぜ、ぐへへ」
竜司は優子からの(分校への)チョコレートを受け取った後、自分も用意してあったものを取り出した。
「オレのサイン入りだ! 帰ってからアレナと一緒に食うといいぜェ」
それは屋台で販売されている缶入りのお菓子だった。缶にはマジックでサインを入れてあり、プレゼント用に包装紙をぐるぐる巻いて、リボンをぐるぐる巻いてある。
「ありがとう」
優子は笑みを浮かべながら両手で受け取った。
「卒業したらアレナと住むんだよなァ? もう一緒に暮らしてんのか?」
「今は月に何度か一緒にいる程度だけど、卒業後はヴァイシャリーより、空京の宿舎で過ごすことが増えると思う」
「そうか。なんなら、増築ついでに分校にも部屋作って住むっていうのはどうだァ?」
竜司がそう言うと、優子は少し驚いた顔をした。
「なんてな!」
「……ま、場合によってはここにも宿舎があってもいいよな。竜司が(皆を)護ってくれるのなら」
優子は空を見上げながら、小さな声でそう言った。
(オレに守って欲しいだとォ! 可愛いこといいやがって……)
竜司は優子を守り、アレナを守り、舎弟達を守り築いていく未来を妄想していた。
日が落ちて、空に星が輝き始めていく。
訪れた恋人達は、身を寄せ合って空を眺めていた。
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