天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【2024VDWD】甘い幸福

リアクション公開中!

【2024VDWD】甘い幸福
【2024VDWD】甘い幸福 【2024VDWD】甘い幸福

リアクション


2.ブラヌに春!?

「こんにちは〜、繁盛してますか?」
 パラ実生の屋台に、単独の華が訪れた。
「ぼちぼち。でもなんかびみょーーーーーーな気分だな」
 訪れた女性――佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)にそう言い、ブラヌ・ラスダーは大きなため息をついた。
「寒い中お疲れ様です」
 くすっと微笑みながら、牡丹は水筒に入れてきた温かなコーヒーを注いで、ブラヌに差し出した。
「商品に手を出すわけにもいかないでしょうから……差入れです。コーヒー……大丈夫ですよね?」
「ああ、サンキュー! こっちに来いよ、ストーブあるぜ」
 ブラヌが牡丹を屋台の中へと呼ぶ。
 彼の足下には、機晶ストーブがあった。
「ありがとうございます。……それにしても、色々と怪しげな効果のある品物を売ってるんですね〜」
 内側に貼られている、販売物の効果について書かれた紙を見て、牡丹は眉を顰めた。
「ちょーっと魔法薬が入ってるけど、ちょっとだけだぜ。地球の漢方薬みたいなもん」
「ふふ……でも『自分を好きにさせる』って言う効果の品物がないのには関心しました」
 牡丹が笑みを浮かべながらそう言うと。
「自分で薬作れたら、そういうのも作ってたかもなー」
 屈託なくブラヌは笑った。
「それで、ブラヌさん自身は恋人は……あぁ、ここで商売をしているという事で全てを物語っていましたね……ごめんなさい」
「うー……。てゆーか、てめぇだって、こんなところに1人でくるからには、いないんだろ」
「ええ、まぁ、私も機械ばかりいじってたもので、色恋沙汰には全く縁がなかったんですよね〜……」
「……」
 並んでストーブに当たりながら、2人は少しの間沈黙した。
 夜景を楽しんでいる恋人達に声をかけるのの無粋と考えて。
 若葉分校生達ももう、大声をあげることはなくなった。
 空には宝石をちりばめたかのような星が、ちらちらと、美しく瞬いている。
「……ねぇ、ブラヌさん」
 牡丹が彼の名を呼ぶと、ブラヌは「ん?」と、牡丹に目を向けた。
「ブラヌさんっていつも女性と契約したがってましたけど、何でなんです?
 純粋に契約すれば強くなれるからですか? そてとも彼女が欲しいからなんですか?」
「両方。契約者になって、強くなりたいし、彼女もほしいし。契約者になったら、一生契約相手と付き合うことになるだろ? なら、一生好きでいられる娘がいいじゃん!」
「そうですか」
 遊びで付き合いたいというような、軽い気持ちじゃないんだなと牡丹は感じとって、彼女の顔に自然な微笑が浮かんだ。
「ブラヌさんと何度かイベント事をご一緒させて頂きましたけど、ブラヌさんって本当に一生懸命皆の為に頑張りますよね……まぁ、間違った方向へ頑張っちゃう時もありますけど」
「間違ってねぇって、パラ実的に! むしろパラ実生としては俺は優等生過ぎるくらいだぜ……ま、若葉分校生だしな」
 ブラヌの言葉に、牡丹は首を縦に振った。
「私、そういう風に一生懸命になれる人って素敵な人だと思います……ですので、もし迷惑でなければ……」
 牡丹は鞄の中から――星形に包装されたものを取り出して、ブラヌへ差し出した。
「これ……受け取っていただけますか?」
 そして、まっすぐブラヌを見つめる。
「……何?」
「チョコレートです」
「俺に……? あ、分校生あてか」
「ブラヌさんに、です」
 ブラヌは不思議そうな顔をしながら綺麗に包装されたチョコレートを受け取って、瞬きをしながら見つめる。
「それ、1人の女性を好きになる薬が入っているんですよ……効き目は人それぞれですが」
 ちょっと恥ずかしげに、照れ隠しの様に牡丹は言った。
「あ、あのさ……」
「はい……」
 2人は目を合せずに、お互い少し俯き、たどたどしくゆっくり話していく。
「ぎ、義理じゃないと思っていいのか?」
「……はい」
「お、俺が1人の……おまえのコト、好きになっても……迷惑じゃ、ないのか」
「迷惑だなんて、なぜ、そう思うのですか……。私の気持ちは、今、お話した通り、です」
 ごくりと唾を飲んで、ブラヌは立ち上がった。
「そ、それなら、牡丹、お、俺と結婚を前提に……アチッ!!」
 勢いよく立ち上がったブラヌは、ストーブの吹き出し口に触れてしまい慌てて飛び退いた。
「ブラヌさん、大丈夫ですか……!」
 牡丹はすぐに彼の手をとって、火傷の具合を確認する。
 肌に大きな変化はないようだった。
「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけで……ははははっ」
 きまり悪そうにブラヌが笑った途端。
「てめーら、なにいちゃつんてんだ〜!!」
「ブラヌー!! 抜け駆けはゆるさねぇぞォ!」
 クレープ屋をやっていたブラヌの悪友たちが飛び込んできて、ブラヌはもみくちゃにされたのだった。