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【2024初夏】声を聞かせて

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【2024初夏】声を聞かせて
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11.決闘! オリュンポスVSダークサイズ

 シャンバラ大荒野。
 この広大な大地で、どれほど多くの英雄たちの死闘が繰り広げられたのだろう。
 それは英雄たちの叫びを聞きながら荒野を駆け抜けた風と、彼らの血を吸った土だけが知っている。
 そして今日もここで、新たな戦いが始まろうとしていたのだ。

「ふむ。ここか……」

 赤いマントをなびかせてダイソウ トウ(だいそう・とう)が歩いてくる。
 彼は懐から封書を出し、中にある紙を広げた。
 そこには、

果たし状!
フハハハハ! まあいいからここに来い!


 手紙の中で高笑いするこの送り主のめどは大体つくものの、

「一体、何奴」

 と、ダイソウはつぶやいてみた。

「フハハハハ! やはり来たなダイソウトウ!」

 手紙の中の文字同様に聞こえた高笑いの方にダイソウが目をやると、いつの間にスタンバイしたのか、腕を組んだその男が立っていた。
 そしてダイソウは悪人のお決まり台詞を吐く。

「何者……!」
「わが名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」
「うむ、知っている」
「知っているのに何者と聞くあたり、さすが悪を名乗るだけあるなダイソウトウ。とにかく、今日ここへ呼んだのは他でもない! とうっ!」

 ハデスは、自分が立っていた30センチほどの石の上から飛び降りた。
 そして彼は、いつものように中指でメガネをくいと上げ、

「ダイソウトウよ……正直俺は失望しているのだ。まさかダイソウトウともあろう者が、正義の味方になってしまうとは」

 いろいろあって成り行き上、現在正義の秘密結社を名乗っているダークサイズ。
 あくまで悪の秘密結社の道を突き進むオリュンポスは三行半を突き付け、そしてハデスは今日ここへダイソウを呼び出した理由を語り始める。

「オリュンポスとダークサイズの同盟が解消された今、我らは世界の覇権を争う敵同士なのだ。そろそろ我々も決着をつけねばなるまい!」

 ダイソウはそれを聞いてわずかに頷いて言う。

「うむ。仕方あるまい」

 彼は多くを語らずにハデスの言葉を受け入れた。
 ハデスは眼鏡越しに空を見上げ、

「ダイソウトウよ……思い出すな。共にパラミタ大陸征服のために奔走した日々を」
「うむ、いろいろなことがあったな」

 と、ダイソウも空を見上げ、オリュンポスとの共同戦線の日々を思い出そうとする。

「そうだ……うん、いろいろとあった」
「うむ……例えば……うむ、いろいろとな」
「ええと……いろいろな」

 双方とも具体的なことが思い出せていないが、そんなことはいいのだ。
 ハデスは気を取り直してダイソウを指さす。

「そういうわけでダイソウトウ! どの道我らがパラミタ大陸を賭けて戦うことは運命だったのだ。今こそ決着をつけようではないか!
「うむ、残念だが仕方がない。では、ゆくぞ」

 ハデスの言葉を受けて、ダイソウはいつもの格闘スタイルで戦闘態勢に入った。
 しかしハデスはバンと手を広げてダイソウを制す。

「ちょっと待てダイソウトウ。戦闘での勝負はなしだ」
「なぜだハデス」
「言うまでもあるまい。俺が負けるからだ!」

 ダイソウの謎の格闘能力を見越したハデスは、いきなり戦闘を拒否した。

「なるほど、一理ある」

 ダイソウもダイソウでなぜかハデスに納得し、

「では、何で勝負するというのだ」
「ダイソウトウよ、これはパラミタの未来を決定づける世紀の戦いだ。それには、アレしかないと思わぬか」
「まさか、アレか」
「そう、悪と悪との、男と男の戦い……」
『しりとり……!』

 残念ながらこの場にツッコミ役がいないため、二人がなぜこの勝負を望んだのかはさっぱりわからない。
 しかし二人ともしりとりという選択に大いに納得しているようだ。
 ダイソウは臨戦態勢を解除し、

「確かに……この戦いにはしりとりしかあるまい」

 なぜだ。なぜしりとりしかないんだ。

「そうだろうダイソウトウ。我らの戦いには、しりとりしかない!」

 だからなぜなんだ。
 ハデスはテンションを最大にあげて、勝負を開始した。

「フハハハハ! ゆくぞダイソウトウ! オリュンポスの『す』からスタートだ!」
「うむ、ハデスの『す』だな」
「なぜオリュンポスをハデスに変えたのかは分からんがその通りだ。さあダイソウトウ、答えてみろ!」

 ハデスがダイソウを指さし、ダイソウは早速『す』で始まる言葉を脳内検索した。

「す。『すめし』……!」

 ハデスは体をピクリと反応させて拳を握る。

「お、おのれ。『すし』と答えればいいのにあえて『すめし』と答える。食えぬ男よダイソウトウ! では、『しんぶん』!」

 ダイソウはそれを聞いてやはりピクリと反応し、考える。

(ハデス、それは『ん』で終わる言葉だぞ。勝負を捨てたか……)
「……『し』!」
「!」

 ハデスはコンマ数秒の間をあけて『しんぶんし』と答えたのだ。
 ダイソウの額には、動揺の汗が一筋流れる。

「フェイントとはやるなハデス」
「ククク……しりとりとは心理戦よ。今の精神ダメージで言葉が出にくくなっているはず! この勝負、もらった!」
「『しか』」
「すぐ出ただとー! くう、おのれダイソウトウ……!」

 なんだかよくわからないが、なんだかんだでダイソウが優位に立っているようだ。
 だが当然、ハデスも負けてはいない。

「か……『カメムシの香り』!」
「ぬうっ……」

 と、ダイソウはついつい、カメムシ独特のきつい臭いを想像し、眉をしかめた。

「今のは、情景を思い浮かばせてさらなる精神ダメージを図る、イメージダメージ……ハデスよ。いつの間にそのようなスキルを」
「上級しりとりスキルを使えずして、悪の組織が名乗れるか! さあダイソウトウ、『り』だ! 『り』で始まる言葉を言ってみろ!」

 シャンバラ大荒野という見はるかす広大な大地の、ほんの三メートルほどだけを使って行われている死闘。
 今この二人の間には、誰一人として割って入ることはできない。
 二人は瞬時に脳内にある言葉を総動員して戦う。

「り。『立派になったねハデスや』」
「うおおおおーっ、母親を思い出させるな! 『やっぱり母さんも孫の顔が見たいわ』」
「ぬっ、私の実家に踏み込むとは。『渡辺さんのとこ、お子さん二人目ですって』」
「ぐはあっ! 渡辺さんが誰かは知らんが言い知れぬプレッシャー! 『手取り50万はほしい』」
「くっ……『石蹴りながら一人で下校』」
「ぬおお、なんか急に切なそうな言葉を出してきおって。『ウリ坊』」
「かわいいな……『うら若き70代』」
「想像させるな!」

★☆★☆★

 こうして、ほぼ何でもありになってしまった二人のしりとりは、当然ながら勝負が決しないまま日没を迎えることとなった。
 頭脳を酷使した二人は息を荒くし、もはや立っているのがやっとの状態となっている。

「さ、さすがだなダイソウトウ」
「お前こそハデス」
「しりとりでは勝負がつかんか……勝負は持ち越しだ!」
「よかろう、いつでも受けて立つ。では」
『さらばだ……!』

 こうして、オリュンポスVSダークサイズの第一回頂上決戦が終了したわけだが、二人して背を向けて別れたものの、途中まで帰りの電車が同じだったため、電車でまた顔を合わせてしまい、

「おう……」
「おう……」

と、微妙な空気になりながら帰路についたことは、二人だけの秘密なのであった。