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【2024初夏】声を聞かせて

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【2024初夏】声を聞かせて
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7.大切な記念日

 6月6日。
 その日は、リア・レオニス(りあ・れおにす)にとって大切な日だった。
 大切な人が誕生した、大切な記念日。
 ……生まれ方は関係ない。その日が大切な記念日だということに違いはないのだ。
 リアの大切な人とは、勿論、吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)
 女王として、シャンバラを支えてくれていた娘だ。
 彼女は今もまだ、シャンバラ宮殿の病室で誰とも面会できず、過ごしていた。
 主治医と相談して、少しの時間だけ、リアはアイシャとテレビ電話で話しをする許可を得ていた。
 通された応接室のモニターとカメラの前で、リアは待っている。
 少しして、モニターに映像が映った。
 カメラが向けられた先――ベッドの上にアイシャはいた。
 病室にあるモニターに自分の姿が映ったのだろう。辛そうなアイシャの表情が少し和らいだ。
「お誕生日おめでとう!」
 リアは背に隠していた花束を突然、カメラの前に出した。
 アイシャがちょっと目を大きくして、微笑を浮かべる。
 花束を傍らに置くと、続いてリアは手作りのロールケーキと、カモミールティーを取り出した。
「そちらにも、届いてるかな?」
「ええ」
 アイシャはか細い声で返事をした。
 彼女のベッドの上部が少し上がり、設置されたテーブルの上に、看護師の侍女が、リアが作ってきたロールケーキとカモミールティーを少しだけ置いた。
「いただくわ」
「無理はしないで、アイシャ。ローマン種のティーだよ。香りだけでも楽しめるんじゃないかな」
 リアの言葉に、アイシャは穏やかな顔でこくりと頷く。
「ちょうど花の時期だから、花畑では一面に咲いていたよ」
 言って、プロジェクターで部屋に花畑を映し出した。
 リアがそっとカップを自分の口に運ぶと、アイシャもカップを自分の口に運んだ。
 花畑の中で、一緒にお茶を楽しんでいるような感覚――2人はとても久しぶりの感覚を覚える。
「女の人にどんなプレゼントをあげたらいいのか良く判らなくてさ」
 リアが取り出したのは、天使の翼がついた卵の形のアクセサリー入れだった。
 台座の下のねじを回して、卵を開けると――。
「やさしい、音」
「ああ『愛の夢』だよ」
 優しいオルゴールが流れた。
「プレゼントは、これ」
 リアが用意したプレゼントは、もう一つ。
 アクセサリー入れの中には、誕生石のムーンストーンのペンダントが入っていた。
 宝石言葉の一つは『純粋な恋』。
「ありがとう、リア」
 アイシャは嬉しそうに微笑んだ。
「誕生日、覚えていてくれたこと、も。こうして、私の事を気にかけてくれていることも。
 そして、ロイヤルガードとして、シャンバラを守ってくれていることも」
「アイシャが守った世界だから。アイシャと生きていく、大切な世界だから」
 リアはそっと手を伸ばした。
 触れることが出来ないことはわかっていたが、カメラに手を伸ばして両手で包み込んだ。
「大好きなアイシャ。
 生まれてきてくれて、ありがとう……」
 心からの気持ちを、大切な人の顔を見ながら伝える。
 こうして話が出来ることを、幸せに思いながら――。
「ありがとう。私のことを想ってくれて……ありがとう。
 今も世界は大変な状況なのに……私、何もできなくて……ごめん、なさい」
 そろそろお休みになってくださいと、侍女がベッドを下ろした。
「お休み、アイシャ。来年も再来年も一緒に誕生日を祝おう」
 リアの言葉に微笑んで目を閉じ、アイシャは眠りに落ちていく。
 来年もきっと――この世界で、アイシャの誕生日を祝える。
 彼女に直接渡せる日が来る。
 そう信じながら、リアは彼女へのプレゼントと花を篭の中に入れた。
 そして、眠る彼女に届けてもらうのだった。