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リアクション
深夜。とある結婚式場の裏口が静かに開いて、音を立てずに閉まった。
顔を隠すようにして控え室に転がり込んだのは、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)。
アイドルであるさゆみとアデリーヌは、芸能マスコミに気付かれないように挙式をする。
水面下で挙式を行わせてくれるこの式場に入るまでも、入ってからも、さゆみの心臓は高鳴っていた。
「夢みたい……まだドキドキしてるわ」
少し気持ちが落ち着いてきたさゆみとアデリーヌには、衣装選びという大仕事が残っている。
「どうしよう……どれがいいかしら」
「どれも素敵ですね」
今日は、一生のうちで最も大切なイベント。模擬結婚式ではなく、最愛の人と結ばれる、本当の結婚式。
だからこそ、さゆみもアデリーヌも、必死だった。
少しでも綺麗な自分を見てほしい。その想いから、さゆみたちは時間をかけてドレスを選んだ。
散々悩んだ後にさゆみが選んだのは、プリンセスラインのドレスだった。白い生地だが、光に当たると仄かに赤が混じる。
さゆみ以上に悩んだアデリーヌのドレスは、白地が光を受けて微かに青く見えるAラインのドレスになった。
結婚式が始まると、さゆみもアデリーヌも緊張より幸せが勝った。
「嬉しい時も、哀しい時も、辛い時も、素敵な瞬間も、すべてアディと分かち合って、全ての時間をふたりで様々に彩っていくことを誓います」
「嬉しい時も、哀しい時も、辛い時も、素敵な瞬間も、すべてさゆみと分かち合って、全ての時間をふたりで様々に彩っていくことを誓います」
さゆみとアデリーヌは、想いをこめて誓いの言葉を交わす。
お互いの薬指に指輪を嵌め、それから互いの小指に誓いの糸を結びつけた。
誓いの糸は、さゆみとアデリーヌの想いを代弁するように、美しい赤に染まった。
運命の赤い糸。そう信じられるほどに、綺麗な赤だった。
「アディ……」
さゆみとアデリーヌの間にある寿命は、変わらない。
それでも、だからこそ、さゆみはアデリーヌと共に生きることを選んだ。
それがせめて、最愛の人よりも短い命しか持たないさゆみにできる、最大限の愛の証。
「さゆみ」
名前を呼ぶ以外に、もう言葉にすることはない。お互いの気持ちを確かめ合うように、二人は誓いの口付けをかわした。
(この瞬間のままで静止して、永遠に続けばいいのに……)
涙を流すさゆみを、アデリーヌは優しく抱きしめた。さゆみの心の不安を、少しでもなくせればいい。そう思いながら。
「私たち、ずっと一緒よ……」
二人の小指の糸は、二人の心を読み取ったかのように七色に変化していった。どの色も美しく、鮮やかで、艶やかで……。
さゆみとアデリーヌは誓い合う。この色鮮やかな誓いの糸のように、これからも彩り豊かに生きていたいと。