リアクション
「テメー何のんびりしてやがんだよ。結和ちゃんが待ちくたびれちまうだろが」 ◆ 一方、新婦控え室には、ルーシェン・イルミネス(るーしぇん・いるみねす)が結和を迎えにきていた。 「わあ……」 真っ白なドレスを着た結和の姿を見て、ルーシェンは感嘆の声を上げる。 「どうかな、似合うかな?」 「うん、凄く似合うよ!」 結和とルーシェンは軽く話をしていたのだが、結和はルーシェンの表情にうっすらと陰りが見えることに気付いていた。 「……ねぇ、るーちゃん」 結和は、時折ルーシェンの不安を感じ取ることがあった。 ルーシェンは、アリスだ。寂しさから生まれた存在だ。 結和は、ルーシェンが、ルーシェン自身が消えてしまうのではないかと思っていると……そんな気がしていた。 実際、ルーシェンはコルセスカの強すぎた自責の念が癒えてくるに従って、自分が遠からず消滅するのではないか、という想いを抱いていたのは確かだった。 「ね、るーちゃん。私、とっても幸せよ」 結和は、それを直接ルーシェンに聞いたことはなかった。 「だから、るーちゃんも私と同じくらい幸せにならないとダメよ?」 そう結和が微笑みかけると、ルーシェンの瞳の奥に不安がちらついた。 「ほら。……見逃したりしないわよ」 「完璧に隠してたつもりだったんだけど……結和ちゃんにはかなわないな……」 小さく呟くルーシェンの手を結和がぎゅっと握った。お互いに目が合えば、自然と結和の表情は笑顔になる。 「大丈夫、るーちゃんにもきっと幸せな未来があるよ。私もコルセスカさんも、それを願っているから」 結和は信じている。絶対にルーシェンは消えたりしない。幸せな未来を、生きていくのだから。 ルーシェンの存在を言葉で繋ぎ止めるように、結和は言葉を紡ぐ。 (……あたしが消えちゃう日がきても、こうやってあたしの存在を願ってくれる素敵な友達がいてくれたから、あたしは生まれてきてホントによかった) 結和の言葉を聞くうちに、ルーシェンは笑顔になっていった。けれど、まだ瞳の裏には、少しの不安が残っている。 (知ってるでしょ、るーちゃん。私は魔法使いなのよ) 願いを、想いを、かたちにする。その力は時に、世界を変える程の力がある。そう、結和は知っていた。 消えそうな命を、存在を繋ぎ止めたことすらある。だから、 「私たちの子供と、るーちゃんの子供が結婚とかしたら、面白いのにね?」 それは、結和とルーシェンの未来の約束。 幸せな未来の、約束だった。 「結和ちゃんが言うとそうなる気がするね。きっとそうなるよ」 そう答えるルーシェンの目に、もう結和は不安を読み取ることはなかった。 「さ、コルが待ってるよ? いこ!」 ルーシェンがそう言うのと同時に、控え室の扉をノックする音がした。 そんな、結婚直前の一時。 |
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