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【2024】ヴァイシャリーの夜の華

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【2024】ヴァイシャリーの夜の華

リアクション

「大丈夫か? エレベーター使わせてもらえるってことだけど、やっぱり抱っこしていこうか」
 駐車場に小型飛空艇をとめて、金元 シャウラ(かねもと・しゃうら)は、身重の妻、金元 ななな(かねもと・ななな)を気遣いながら、屋上へ向っていた。
「大丈夫だよー。お腹膨れすぎてるのは、食べ過ぎたからだしね!」
 言って、なななは自分のお腹を摩った。
 彼女のお腹の中には、シャウラとなななの赤ちゃんがいる。
「え? そうなのか??」
「ふふふっ、そうそう。だって、ゼーさん朝からずっと出かけてから、ホテルの朝食バイキングに、ランチバイキング、デザートバイキングと、ななな、この子と一緒に思い切り楽しんじゃったんだ♪」
 そうなのだー。たべたのだーと、宇宙刑事ポムクル達もなななの周りではしゃいでいる。
「そ、そうか……」
 シャウラとなななは前日からヴァイシャリーに滞在しており、身重のなななをホテルに残し、シャウラは花火の準備を手伝っていたのだ。
「明日は一緒に楽しもうね」
「ああ、花火を観た後、もう1泊してゆっくりして帰ろうな。
 お腹に負担がかかるほどの、食べ過ぎはダメだぞ?」
「うん。最近、食べても食べてもすぐお腹空くんだよねー」
 なななは自分のお腹に手を当てて、膨れたお腹を見ながら語りかける。
「食いしん坊さんはなななじゃなくて、キミかな?」
 問いかけに答えるように、ぽんぽんとなななのお腹が揺れた。
「よこせー、くいもんをよこせー。って言ってるようだな」
「わかった、ゼーさん用に用意してきた手作り弁当をあとであげよう」
 宿泊中のホテルでは、自炊も可能だった。
 なななはシャウラ用にお弁当を作ってきてくれたようだ。
「ああっ、それはダメ、なななの弁当は俺のものだー。……いや、なななには安全なものを食べて欲しいし。よし、分かった。俺が食べさせてやる」
「おー、よかったね。今日はパパがご飯食べさせてくれるって〜」
 ななながお腹をなでなですると、またポンポンと反応があった。
「元気いいなー」
「うん、なななとゼーさんの子だからね」
 笑い合って、2人はゆっくり屋上へと歩いて行く。

 予め事情を話してあったこともあり、シャウラ達は少し広めのふかふかの座布団がある席へ案内された。
 2人の周りを、宇宙刑事ポムクル達が取り囲む形で座って、なななが用意してきたサンドイッチを食べながら、花火を観賞していく。
 花火があがるたびに、なななは目を輝かせ、宇宙刑事ポムクル達は楽しそうに踊る。
 シャウラは花火と、なななの瞳の輝き、両方の観賞を楽しむ。
 そして後半に差し掛かり……。
「あ……」
 楽しそうだったなななの顔が、驚きの表情へと変わった。
 浮かび上がった光が文字を作っていた。
 大きなハートマークの中に、浮かんでいたのは『ななな』『ILOVEYOU』の文字。
「……へへへ、ゼーさんこの準備の為に、いなかったんだね。
 ヴァイシャリーの女の子と会ってたのかなって、ちょっと不安になってたよ」
「俺がなななしか見てないこと、知ってるだろ」
「うんうん、わかってる! でもちお腹に赤ちゃんがいる時って、心が不安定になるんだよ。
 なななのために、ゼーさんが頑張ってくれて……ななな、とっても嬉しいよ」
 なななは感動で、目に涙をためていた。
 シャウラはなななを抱き寄せて、自分の肩にもたれさせる。
「俺は笑ってるなななが凄く好きだけど、辛い時や不安な時はちゃんと言ってくれよな。身体だって、ホントはしんどいだろ? 俺の肩はなななのためにあるんだから、疲れたら、いや、疲れてなくても寄りかかって良いんだよ」
「うん、ありがと、ゼーさん」

 パパン、パン、パパン

 美しい花火を共に眺めて。
 それから、しばし見つめ合う。
「来年も再来年もずっとずっと家族で花火が見れると良いな。
 新世界になってもそれは変わらないさ」
 それから、シャウラはなななのお腹にそっと手を当てた。
「元気で丈夫な良い子を、沢山産んでくれよ……」
「もちろん!」
 なななが輝く笑みを見せた。
「早く生まれておいで、パパもママもユーシスもナオキもポムクル達も待っているんだから……」
 シャウラがなななのお腹にそう語りかけると、またポンポンポンと中の子供が元気に反応した。


「きれい……」
 次々とあがっていく花火を、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は花火の方向とは反対の、人の姿が少ない場所で観ていた。
「綺麗な花火ヨネ」
 空が光った途端に、間近に浮かび上がった存在に、雅羅はびくっとした。
「ご一緒してイイカシラ?」
 そう言って、ポップコーンとコーラを差し出してきたのは、キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)だ。
「ええと……」
 戸惑いつつ受け取った雅羅の横に立って、手すりに寄り掛かってキャンディスは空を見上げる。

 パン、パン、パーン

 そして、綺麗な花が咲く夜空をゆるゆるの格好でゆるりと見ながら雅羅に話しかける。
「肩から力を抜いて楽しむ時は楽しみマショウ」
「楽しんでるわ。ただ他の楽しんでる皆に迷惑はかけたくないから、念のため、ね」
 災厄体質の彼女は、何事も起きないよう祈りながら、1人でこっそり楽しんでいたのだ。
「いざというときは、ミーの着ぐるみは丈夫ダカラ弾除けにしてもイイワヨ」
 キャンディスがそう言うと、雅羅はくすりと笑みを浮かべた。
「火だるまになったあなたが、皆の中に突撃していく様子が思い浮かんだわ」
「ネガティブ、よくないワヨ!」
「そうね……」

 ドーン、パン、パン、パン

 それから2人は手すりに寄り掛かり、ポップコーンを食べ、コーラを飲みながら少しの間花火を静かに眺めていた。
「トコロデ雅羅さん、ろくりんピックに選手参加するつもりはないカシラ?」
「え?」
「射撃競技が得意と聞いているワヨ。カメラ映りも良いから間違いなく脚光を浴びるワヨ」
「得意といっても、ろくりんピックに出れるほどじゃ……」
「もし泳げるのならシンクロナイズドスイミングの選手も募集中ヨ。
 若葉分校に競技用のプールができるので興味があったら見てくるとイイワヨ」
 キャンディスは熱心に誘うが、雅羅は首を横に振った。
「楽しいお祭りの映像が、事件の映像になったら申し訳ないわ。ろくりんピックが開かれるのなら、なんらかの形で協力したいけれど、選手はちょっとね」
「大丈夫、ろくりんピックは国家行事ヨ、大会中の雅羅さんの安全はお上が護ってくれるワヨ」
「私本人だけのことじゃすまないのよ。私が乗った乗り物が事故に遭うってこと、何度もあったし。
 選手になることでろくりんピック自体が災厄に襲われたら大変なことになるわ」
「雅羅さんの所属している蒼空学園は雅羅さんの入学前と入学後で学園に降りかかった災厄の数に大差ないというレポートがあるワヨ」
 キャンディスはハンドヘルドコンピューターを取り出して、蒼空学園で発生した事件や事故のデータを彼女に見せた。
「うーん……。私の周りではいろいろあったけど……」
「むしろ、雅羅さんが入学してからは蒼学の校長は死亡退職してないノヨ」
 キャンディスは悩み顔の雅羅にそう耳打ちした。
 当時蒼空学園の校長だった人物が、先のろくりんピックで暗殺されたが……その時、雅羅はまだ蒼空学園に入学していなかった。
「そっか……なんだか、このデータ見て少し安心したわ。
 私が蒼空学園の不幸を貰っている代わりに、学園に幸福も訪れているんだったら、いいのにね」
「そうかもしれないワヨ! 雅羅さんの協力があれば、ろくりんピックも成功間違いないワネ! ……以前のような事件もきっと起きないワヨ」
 キャンディスがそう言うと、雅羅は弱く微笑んだ。
「んー……考えては、見るわね」

 パン、パンパン、パン

「ああ、すごく綺麗……。ろくりんピックであがる花火は、皆と観れたらいいな」
 小さく、雅羅はそう呟いた。
 その隣で、キャンディスは雅羅の名前を、自作のろくりんピック選手名簿に入れていた。