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刹那の攻防


 ウィッチクラフトライフルの銃口から発射された攻撃は、嵐の儀式で呼び出された嵐によって拡散する。
「ダメージが無いってわけじゃないんだろうけど」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が操るフィーニクスと、富永 佐那(とみなが・さな)(ジナイーダ・佐那・フラギノヴナ・富永・ヴァトーツィナ)とエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が操るザーヴィスチの距離はぐんぐん縮まっていく。
「どうする?」
 ザーヴィスチは出会ってから今まで、一撃も射撃攻撃を繰り出していない。近接特化のイコンなのだろう。既に互いに覚醒をしているために性能差は許容範囲ではあるが、
「相手のペースに合わせるわけにはいきませんわね」
 接近を許さぬように射撃の手を休めず、距離を開けようと努力するが、根本の機動力に大きな差があるために間合いはどんどん縮まっていく。
「逃げ回ってるだけじゃ勝てないよ」
 ジナイーダは着実に獲物を追い詰める。ただ真っ直ぐ進んでいるように見えて、非常に丁寧に相手を誘導していった。
「あ」
 小さくない衝撃を伴って、フィーニクスが静止する。その背中は、真っ二つになった戦艦乙の残骸に密着していた。
「追い詰められたな」
「追い詰めましたわね」
 それぞれのサブパイロットが、立場は違えど全く同じ意味の言葉を口にする。
 ザーヴィスチは身を守っていた嵐を解除する。だが、エリシア達に射撃の選択肢は無かった。不用意な動きをすれば、一撃でやられる姿がありありと浮かぶ。
「いちかばちか、ですわね」
 ザーヴィスチはすぐさま攻撃を仕掛けてきたりせず、一歩の間合いを保っている。こっちの出方を窺っているようだ。
 であれば、見せてやろうではないか。
 フィーニクスはその場で変形し、{ICN0004257#フィーニクス飛行形態}になると、突撃用の衝角ドージェの鉄拳を向けて突っ込んだ。
 ここでジナイーダは、僅かな時間の読みを要求される。変形して突っ込んでくるのは、退避のための虚なのか、あるいは突貫攻撃という実なのかという二択だ。
 答えを出すのにある猶予は数秒にも満たない。合理的な思考で答えを出すにはあまりにも短い。だが、歴戦のイコンパイロットはあてずっぽうで行動を選択したりはしなかった。
 ザーヴィスチはほんの僅かに、回避行動をするかのような体捌きを行った。するとどうだろう、フィーニクスは開いた退路ではなく、ザーヴィスチに狙いを僅かに微修正した。
「狙いはわかったよ!」
 ならば取るべき手段は迎撃だ。相手は真っ直ぐ突っ込んでくる。可変機の速度といえども、近接格闘機の間合いはそんな生易しくは無い。
「敵機襲来ですわ!」
 だがここで、思わぬ異変。この土壇場になって、新たな敵影が接近してきたのだ。
「どこ!?」
「これは、直上、まうえですわ!」

 残り五分の少し前から、大会の会場は覚醒したイコンで溢れかえっていた。イコンの性能を引き上げる代償に大幅な活動時間の低下は、時間制限が決まっているこの大会ではマイナス要素にはなりえないのである。
 覚醒の手段を用意してこなかった鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)アレックス・マッケンジー(あれっくす・まっけんじー)シュヴェルツェ シュヴェルトには、いささか厳しい戦場なのは否めなかった。
 とはいえ、単純な性能のみが全てを決める程、戦いは単純なものではないし、二人はこの程度の状況は十分に想定の範囲内。
「五分は、思いのほか短いものだね」
「困りましたね」
 {ICN0004744#シュヴェルツェ イルズィオン}形態で気配を消し、不意打ちを主要な戦術に据えていた二人には性能よりも、くじ運と制限時間が大きな重石となっていた。
 し止めるべき獲物が遠い。それが最大の問題であり、では残り時間を考慮して全力で移動すれば、不意打ちを行うという本分を見失う。
 いや、正確には周囲に乱入機はあるし、彼らと戦っている大会参加者もいる。
「しかし、五分ですか」
 乱入機が参加者と五分に近い数があるという状況と、両者共にパイロットとしての技量が高い現状は、恐らく主催者の予想を覆す状況なのだろうと考えられた。
 本来この五分は、僅かな時間で乱入機を発見、他の参加者よりも早く撃墜してポイントを得るという争奪戦でありボーナスであって、基本的には通常機や強敵機、戦艦などとの戦いがメインに据えられていたはずだ。
 参加者は強敵である乱入機を相手にして高得点を狙うか、最後までポイントを稼ぎ続けていくか、この選択から状況に合わせて判断し優勝を競う。戦況や自分の得点、残り時間を加味して考えた行動は、本当の戦争とは違うだろうが、それはそれで知略と戦術なのである。
 現実は、大量の乱入機によって多くの参加者が戦闘に引きずり込まれている。こうなると、乱入機の150点の価値が変わってくる。逆転のポイントから、優勝への通過点になっているのだ。
「多少はリスクを背負う必要がありますね」
「時間もあまりないのだし、仕方ない、か」

 シュヴェルツェ シュヴェルトはザーヴィスチの真上にワープ移動で出現した。
 ザーヴィスチは一瞬で嵐の儀式を展開。暴風、だが直上には効果が薄い。
「なんてタイミングよ」
 当然、ジイナーダはこのタイミングが偶然ではなく、狙って行われた事ぐらいは理解できる。
 嵐の儀式の次に展開されたのは、シュバルトのノイズ・グレネードとコロージョン・グレネード、これが嵐の儀式によってその場の三機全ての影響する。
 だがもはやお互い手を伸ばせば触れられる距離、銃剣付きビームアサルトライフルの近接射撃を、ザーヴィスチは蹴り上げた脚部の新式ダブルビームサーベルで銃剣と克ち合わせてそらす。
「これで、おしまいですわ!」
 嵐の中を、突っ切るフィーニクスは減速も回避行動も無い。元より覚悟の捨て身の突貫。この状況は、エリシアにとっては援護ではあっても邪魔にはならないのだ。
「させ、ないんっ、だから!」
 直撃。ではない、ドージェの鉄拳が接着した瞬間、ザーヴィスチはその場で嵐に乗るように回転する。前面装甲が砕け散りながらも、この突撃の勢いを僅かに、横にずらす。
「見事ですが……それが命取りです!!」
 エリシアの突貫は文字通り必殺の一撃、回避ないし防御は必須だった。そのために、逸らされていた銃剣付きビームアサルトライフルにかかっていた力が消えたのだ。
 銃撃ではなく、銃剣を突き立てる。機体のパワーと重量の乗った一撃、だが、アサルトライフルはその半分から先を失う。大型超高周波ブレードが切り落としたのだ。
「でも、まだ!」
 エリシアのフィーニクスが機体の側面をぶつけようと機体を傾かせする。
「ここで逃げるわけには、いきませんよね」
 獲物は失ってもまだ機体があると、貴仁はそのままシュヴェルトを突貫させた。
 もはや技でもなんでもないのだが、もはや満身創痍であるザーヴィスチ相手だからこそ、どちらも撃墜を無理やりにしても敢行したのだ。
 三機はもつれるようにその場に倒れると砂埃が舞い上がり、それが晴れた時点で三機共に戦闘続行不能の表示されていた。
「なんでよ、まだ動けるんだから」
「これ以上の損傷は修理では済みませんわ」
 ザーヴィスチは完全に破壊されたわけではないが、エレナの言うぐらいにはかなりボロボロになっていた。動けたとしても、満足な戦闘は難しいだろう。
「あと一歩、足りなかったですわね」
「ま、勝負は時の運もありますからね」
 上下さかさまのコックピットで、エリシアと陽太は、それでもやや楽しそうにしていた。
「まさかあの状況でこちらの機体にトドメを刺しに来るとは、信じられないのだよ」
「性能差が全てではないって事ですね」
 ただ落下した程度なら、戦闘続行不能になどなったりはしない。衝突の瞬間、既に密着の間合いでありながらコンパクトな蹴りを繰り出し、シュヴェルトの下腹部を新式ダブルビームサーベルが貫いていたのだ。
 だが、とりあえずシュヴェルトは、乱入機撃墜の150点を確かに獲得していたのだった。