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【未来シナリオ】大切な今日

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【未来シナリオ】大切な今日
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第1章 アレナ・ミセファヌス

 シャンバラ古王国時代、王国の最高権力者であり、国家神であったアムリアナ・シュヴァーラの血を利用して、作られた存在があった。
 アムリアナの因子を持ち、女王器である星剣と呼ばる光条兵器の守護者。十二星華。
 剣の花嫁である彼女達の存在は、黒歴史とされ記録には残っていなかった。
 彼女達12人の女性が作られた過程はぞれぞれであり、製作者も1人ではない。
 十二星華とすべく、作られた存在もあれば――。
 ここで眠る少女、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)のように、十二星華にするために改造された剣の花嫁もいた。

「それでは、アレナは元は……普通の剣の花嫁だったのですか?」
 アレナの恋人である大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が尋ねた相手。それは、アレナに封印術を教えたという、アレナの師匠だった。
「彼女は、剣の花嫁同士の人工授精で生まれた剣の花嫁じゃよ」
 剣の花嫁同士の子供は極めて出来難い。
 古代シャンバラでは、剣の花嫁同士の人工授精で新たな剣の花嫁を生み出す実験が行われていたとのことだ。
 普通の剣の花嫁には幼少期はないが、そうして生まれたアレナには幼少期があった。
 人と同じように成長し、10年ほど経った頃に。
 彼女は十二星華として改造され、同時に彼女の心の一部は封印された。
 守護する星剣の使い手……女王に従順であるように。
 強制的に成長をさせられて、それ以上の変化は起こらないように調整をされた。
 シャンバラの国家神の剣として、スペックとして、生き続けるために。
「本当の彼女の望みを聞くには、本当の心の解放が必要か。そのためには」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、腕を組み、鋭い眼差しをその場にいる者たちに向けた。
「彼女の精神の中に、行っていただく必要があります」
 答えたのは、医療魔術師の男性だった。
「あたし、行くよ」
 アレナの親友である秋月 葵(あきづき・あおい)は、アレナからのメールを見て、心配になりここに駆け付けた。
「眠っているアレナちゃんの心、起こしてあげたい」
「ああ、その決心がついたみたいだからな」
 アレナに兄の様に慕われている早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、パートナーのユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)と共にアレナを見つめた。
「今、メールのお返事をしに、伺いますね」
 ユニコルノはそっと、アレナに声をかけた。
 診療室のベッドの上で、アレナ・ミセファヌスは医療魔術師たちの手で眠らされていた。
 彼女を治療する薬も魔法も存在しない。
 彼女にかけられた封印は、内部から解くしかないそうだ。
 アレナからの知らせを受けて集まった恋人、友人達は、彼女の師匠、魔術師たちからの説明受けた後、アレナの心の中へと旅立った……。

○     ○     ○


「この精神の身体じゃ、スキルは使えないが……念じれば何でも生み出せる!」
 アレナの精神世界に入った途端、康之は噴射機を生み出した。
 アレナが拒絶するものじゃなければ、意思を具現化することが出来るようだ。
「一緒に来てくれるか、ダリル」
「ああ、想いは同じだ――アレナを助ける」
「おお!」
 康之とダリルは噴射機を用いて、アレナの心の中を進む。
 どこに向かえばいいのかは、心で感じ取っていた。
 アレナの心以外の力を感じる場所だ。
「アレナちゃんどこ〜」
 葵は無重力の空間を飛ぶように、その方向へと向かう。
「嫌な意思を感じる。アレナのものではない」
「ええ。行きましょう」
 呼雪とユニコルノもその存在の下に、急いだ。

「なんだこりゃ、バリアーのような扉が2つ……うおっ!」
 康之が到着した先に、黒い炎に包まれた扉と、電流が流れているような光が飛び散る扉があった。
 その一つ、黒い炎の方の扉から、重い波動が飛んできた。
「っ、あ……」
「これは……」
 波動を浴びた康之とダリルの身体が少し縮んだ。
「すげぇやな感じがする。多分これは、アイツだ……ズィギル。
 こっちの扉、任せてもいいか? アレナの心はあっちの扉の奥にいる気がする」
「そのようだな」
 ダリルは意思の力で、コーン状の盾を生み出した。
 放たれる波動を受ける、ではなく、その盾で逸らす。
「お前ならアレナの閉じ込められた心を開放することができる。俺はアレナを……彼女を助けたい。望むように生きて欲しい、と思う」
 康之を背に庇い、ダリルは振り向かずに言う。
「だから大谷地、アレナを頼んだ!」
「ああ、行ってくる! うおおおおおおーーーーっ!」
 康之はダリルを信じて、精神力を爆発させ噴射機の威力を上げる。
「はあっ!」
 ダリルは意識を集中させて、前方に鋭い錐を放った。
 衝撃は黒い炎の中へ消えていく。
 波動が一瞬止まり、再び放たれる。
「防御する瞬間、攻撃は止まるようだな」
 意思で作った盾で波動を逸らしながら、ダリルは康之の気配を探る。
 彼の気は既に感じられない。もう一つの扉の先に、向かったのだろう。

「アレナちゃん、どこ〜。アレナちゃ〜ん」
 名前を呼びながら、葵は扉の方へ飛んできた。
「……これかズィギルが遺していったもの……」
 黒い炎を纏った扉に、呼雪が鋭い目を向けた。
「呼雪、アレナさんはあちらです。行きましょう」
 ユニコルノは呼雪の剣として盾として、呼雪の前に立っていた。
 扉から放たれる波動を浴びて、ユニコルノの身体が小さくなる。
 呼雪は軽く目を伏せる。
(世界には救い切れない、取り残された痛みが数多あるんだな……)
「攻撃を受ける瞬間だけ、波動が止むようだ」
 既に10歳くらいの少年となってしまっているダリルが、攻撃を逸らしながら言った。
「あ……」
 呼雪を庇うことに専念していたユニコルノは、まともに波動を受けてしまい、小さな小さな機晶姫になってしまう。
(このままでは消えてしまう……でも、負けません)
 ユニコルノは消えそうになる意識を奮い立たせる。
「ズィギル……!」
 呼雪は意思の力で生み出した弓矢を番えズィギルの封印に撃ち込んだ。
 そして、ユニコルノを掴むと、光が飛び散る扉へと飛び込む。
「アレナちゃん、この先にいるの……? 今いくから……!」
 葵もぎゅっと目を閉じると、呼雪達に続く――。

 扉の先は、公園のような世界だった。
 花壇には沢山の花が咲いていて、辺りには遊具や玩具が用意されている。
「アレナ」
 遊具で遊んでいる小さな女の子に、康之は声をかけた。
 扉に飛び込んだ時に受けた衝撃の影響で、康之の外見も10歳くらに変わってしまっている。
「俺が誰だかわかるか?」
 目線を合わせて、小さなアレナに問いかけると、アレナは首を縦に振った。
「よし、それじゃ一緒に扉の外に行こう。アレナを迎えに来たんだ!」
「イヤ」
 アレナはすぐにそう答えて、遊具にしがみついた。
「どうして?」
「イヤだから。わたしは、ここにいるの。おそとにはいかない。ここでいっしょにあそぼ!」
「なんでここにいたいんだ?」
「わたしのいばしょはここなの、わたしはここにいるの」
 ここにいるアレナの心は、封印の力で隔離されてしまっている。
 外には……表には出たくなくなる空間が作られているようだ。
「アレナは俺のことを知ってるんだろ? 俺と遊びたいんだよな?」
 康之の言葉に、小さなアレナはこくんと頷いた。
「外には、もっとアレナの好きな人が沢山いるんだ。ここにいるよりずっと楽しいさ」
「イヤ、ここにいるの。ここはたのしいの。おそとはこわいからいったらだめなの!」
 大丈夫と、康之は微笑みかける。
「優子さん、アレナを大切に思ってるダチ。そんな人達がいるんだから、何があったって怖い事なんてない!」
「イヤ、おそとにつれていくんなら、でてって、イヤイヤイヤーッ!」
 まるでイヤイヤ期の子供の様に、アレナは抵抗を始めた。
「大丈夫だって」
 康之はそっと、アレナの頭に手を乗せた。
「俺だって、アレナと結婚して夫婦になって生涯かけてアレナを笑顔にしていくつもりだしな!」
「イヤ、イヤイヤイヤ、このままがいい。このままがいい!」
 外の世界に出ることと、大人になることへの抵抗があるように、康之は感じた。
「自分の中に閉じこもってたら、俺たちと遊べないんだぞ。家族ももてないんだ。
 家族が出来て、子供も生まれて、子供とも一緒に幸せを築いていくことはすげぇ幸せな事なんだぞ」
「イヤッ、ここでずっといまのまま、あそんでるほうがいい。おそとのせかいにもどらないで、わたしだけのこのせかいにいてっ!」
 小さなアレナは泣きながら康之に訴えた。
「外の世界では、俺にも沢山ダチがいるけれど、俺にはアレナが一番なんだ。家族ができたって、増えたって変わらない。子供ができたら『一番の子供』という存在が、互いに『増え』て、自分の幸せも同じく増える……それが家族なんだ」
 イヤーイヤーとただ泣いているアレナに、康之は意思の力で具現化した懐中時計を再現して見せた。
「ここにずっといたのに、君は俺の事を知っている。迎えにくるのを、本当は待っていたんじゃないかな?
 嫌なのは、植えつけられた気持ちだ。アレナは俺たちと一緒にいたい。そうだろ?」
 康之は懐中時計を持った手をアレナへと差し出した。
「俺は、ここで一緒に遊ぶことはできない。
 ……俺と一緒にこれからの未来を築いてくれるなら、時計と一緒に手を握ってくれないか?」
 アレナは遊具を掴みながら、じっと懐中時計を見つめる。
 この時計には見覚えがある。表のアレナが感じた想いが強かったから。外から流れてきた感情が、ここまで届いていたから……。
「やすゆき、さん……」
 アレナは小さな手を震わせながら、康之の手を両手で握りしめた。
 康之は彼女の手を握り返して、アレナを胸に抱いて扉へと歩き出す。

「アレナちゃん、行こう?」
 砂場で遊んでいる小さなアレナに、葵は手を差し出した。
「イヤ、ここでいしょにあそぶの!」
「んー、ここは居心地がいいのかもしれないけれど、外の世界も楽しいよ?」
「たのしくない。ここがいいー。そとにはわるいひとたくさんいるの!」
「悪い人、いないとは言えないけど……」
 扉の外にあるズィギルの封印も、アレナを害する存在だろうから。
「そうだね、外の世界は怖い事沢山あるから、不安だよね……でも、それよりももっと楽しいこともいっぱいあるし、アレナちゃんは知ってるはずだよ」
「ここのほうがいいーっ」
「そうかな? 毎日一人でおなじことをしてる方が楽しいかな? あたしは、アレナちゃんが1人でいるより、優子さんや好きな人と一緒にいる方が好きだってこと、知ってるよ」
 葵は意思の力で、魔法少女の衣装を具現化した。
「どんな時だって、魔法少女の葵ちゃんが、アレナちゃんを守ってあげるよ。
 すべての人々の愛と平和を守るのが私の使命だからね」
「しめい……」
「そう、優子隊長の右腕の葵ちゃんにどーん! と任せなさい」
 言って、葵はアレナにウィンクした。
「しめい……しめい、なの……わたしは、ここにいなきゃいけないの」
「アレナちゃん?」
「しめいのために、わたしはここにいるのー!」
 突然、小さなアレナは泣き出した。
「ああ、そっか。
 アレナちゃんは閉じ込められてるんだね。でもね、もう出ていいんだよ。
 外の世界で、楽しんでいいんだよ〜。行こう!」
「イヤ、ここにいるの」
「あたしは、アレナちゃんの閉じ込められてる心とも友達になりたいな♪ 嫌だっていっても、離さないよっ」
 葵はアレナの小さな心を抱きしめて、外へと向かい飛んでいく。

「アレナ、俺の事が分かるか?」
 呼雪は花を見ているアレナに声をかけた。
 アレナはじっと呼雪を見つめて、こくりと頷いた。
「ずっとひとりぼっちだったのか?」
 手を差し伸べて、呼雪は幼い姿のアレナを包み込むように抱きしめた。
「こゆき、さん」
 アレナはぎゅっと呼雪を抱きしめ返して、幸せそうな微笑を浮かべていた。
 抱きしめて、見つめて、頭を撫でて、それからまた抱きしめて。
 呼雪は幼いアレナが求めていること。
 甘えたいという感情を満たしていく。
「皆の事も覚えているか? アレナの大切な、大好きな人達。
 あの扉の向こうで、みんな待っているんだよ」
「イヤ、みんなつれてきて。わたしはそっちにはいかない」
 アレナはぎゅっと呼雪に抱き着いてきた。
「連れてくることは出来ないんだ。自分で行くしかないんだよ」
 優しく語りかけて、呼雪は自ら外に出ようとするのを待っていた。

「私は初め、あなたへの想いが何なのかよく分からなくて、それはそれでいいと思っていました」
 ユニコルノは出会った小さなアレナと手を繋いでいた。
「でも……先日仰って下さったでしょう?」
 アレナは不思議そうな顔をしている。
「アレナさんは優しいお姉さんで、可愛い妹で……そういう関係も素敵だなって」
「ユノ……さん」
 アレナの顔の不安が広がる。
 ユニコルノの手はアレナよりもずっと小さくて。
 体も透けていて、今にも消えそうな状態だったから。
「帰りましょう、皆様のところへ。今日はアレナさんがお姉さんです」
 赤子のような手で、ユニコルノはアレナの手をくいっと引っ張った。
「イヤ……イヤ……わたしのいばしょは、ここなの」
「ここは、アレナさんを縛っておくために、作られた場所です。本当の居場所はここじゃないんです。でも、それなら」
 ユニコルノは消えてしまいそうな意識を必死に保ちながら、言葉を続ける。
「お姉さんとして、私を皆のところに連れて行ってください」
「俺達はここでは生きられないんだ。だから、一緒に行こう」
 もう一人のアレナに呼雪が語りかける。
「ユノさん、きえちゃう……だめ。みんなのところにつれていく」
 ユニコルノと手を繋いだアレナが立ち上がり、小さなユニコルノを抱きあげて歩き出す。
「そとならいっしょにいられる? そとにいってもおこられない?」
「誰も怒らない、皆待ってる。アレナが望むのなら。キミを包み込んでくれる人は、沢山いるよ」
 呼雪はアレナの頭を撫でて、優しく微笑みかける。
「ホント? ホント? ホント?」
 何度も聞き返すアレナに、微笑み続けながら呼雪は何度も頷いて、抱きしめてあげる。
「ひとりじゃ、いけない。いっしょにいって……っ」
「ああ、いっしょに行こう」
 そして、一緒に立ち上がって、呼雪とアレナは扉へと歩きはじめた。