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リアクション
何度目かの
空京のロイヤルガードの宿舎の一室。
今日はここが、2人の試合場だった。
「久しぶりに勝ちたい気分」
吸血鬼のゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)の目がギラリと光った。
「負けないよー。そろそろ願い事尽きてきたけど」
「だったら、たまには負けとけよ」
「手を抜いたら、相手に失礼だからね。今回も真剣にいくよー!」
ゼスタと対峙しているのは、魔女のリン・リーファ(りん・りーふぁ)。
2人が出会ってもう随分と月日が流れたというのに、お互いにほぼ外見は変わってなかった。
リンから対戦を持ちかけた、チェスの勝負も既に数えきれないほど行っている。
リンの勝率は80%だ。
チェスの勉強をしているリンは腕を上げており、最近では3本勝負で全勝出来ることも多かった。
今回の1本目もリンの勝利だった。
この2本目も、そろそろ決着がつきそうだ。
「リンチャンつえーよ」
「ふふん、そろそろハンデが必要かな」
「いや、時間がとれるようになったし、俺も本気でチェスの勉強してみるかー」
「だよね、ぜすたん総長さんの息子になったから、やばい仕事減ったもんねー」
「息子じゃねーよ!」
ゼスタが大声でつっこんだ。
「あれ? 息子じゃなかったっけ」
リンが悪戯気に笑う。
ゼスタは今、空京のロイヤルガードの宿舎で暮らしている。
パートナーの神楽崎優子と同室ではなく、隣の部屋だ。
「兄妹だ。俺が兄で優子が妹」
ちょっと誇らしげに言う。
彼はもう、優子を神楽崎とは呼ばなくなった。
……彼も、神楽崎家の一員となったから。
交渉を重ね(駄々をこねてとも言う)ゼスタは、優子の兄として神楽崎家の籍に入ったのだった。
「産まれた順なら、水仙のあの子の方が上なのにねー」
「剣の花嫁のアレナは、優子と出会った時が誕生日ともいえるからな」
「という持論を押し付けて、長男の座に収まったんだよねー」
「うるさい……チェックメイト!」
「いや、全然チェックメイトじゃないしー」
「ああっ」
さらりと躱され、逆にゼスタは窮地に追い込まれた。
(そーいえば昔、旅に出るから一緒に来てって言ったこともあったっけ)
チェス盤を見ながら考え込んでいるゼスタを、リンはじーっと見つめる。
(しがらみはまだあるのかな? もうそんな心配必要ないかなどうなのかな)
「……なんだ? 俺に見とれてんのか」
リンの視線に気づいて、ゼスタがにやりと笑みを浮かべた。
「うん」
にっこりとリンは微笑む。
「ったくお前は……。今回の勝利の願いは『ゼスタさん血を貰ってください』でいいからな」
「ははは、もう諦めてるんだー」
「だってお前、もういつでも勝てる状態だろ」
「そうだねー。チェックメイト!」
「はいはい負け負け」
ゼスタは軽くふて腐れながら、息をついて、呟く。
「でもまー、今日はいいんだよ。もう少し時間が必要だから」
「時間?」
「表の仕事ももう少しで整理がつくから……」
ゼスタが真剣みを帯びた目で、リンを見る。
「そしたら、リンに『お願い』したいことがある」
チェスの勝負で負けたら、勝った方の願いを聞く。
大抵、そのルールで、リンとゼスタは勝負している。
「その前に、今回のお願いは〜」
リンは話をはぐらかしたくなった。
真剣に言われると、うんとは言えない性分なのだ。
「夕飯! スイーツ食べに行こう、ぜすたんの奢りで」
「スイーツが夕飯か。乗った!」
チェスセットを残したまま、2人は空京の街へと出る。
手を繋いだりもせず、肩を抱いたりもせず。
だけれど屈託なく、子供のような笑みを浮かべながら、意味もなく小突き合ってじゃあれあったりして。
一緒に過ごす時間を、今も変わらず、これからも変わらず満喫するのだ。
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