リアクション
「ん〜……更科太郎先生が何か探してるみたいだなぁ」 ※ ※ ※ ほぼ同時刻。 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)、佐野 悠里(さの・ゆうり)親子、それにレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の4人もまた、犯人を捜して町を歩いていた。 ピヨ1号2号3号をおともに愛娘と2人手をつないでお散歩していた途中で、ルーシェリアはジャイアントビッグピヨからの連絡を受け取ったのだ。――正確には、受け取ったのはピヨ1号2号3号たちだけど。 「大変! ママ、更科先生が大変なことになってる!」 「本当ですねぇ〜」 「更科先生にはこれまでいろいろとお世話になってきてるもん! この子たちだってくれたし! 今度は悠里たちが更科先生に手を貸す番だよ!」 「そうですねぇ〜」 悠里の切羽詰まった気持ちが表れている声に対し、ルーシェリアはのほほんと返しているように聞こえるが、これは彼女独特のしゃべり方であって、決してその気がないわけではない。むしろ反対。 「普段からピヨたちにはお世話になってるですし、その生みの親と言える(?)更科先生のピンチとなれば、これはもうお手伝いしないわけにはいかないですぅ。 悠里ちゃん、一緒に探してくれますかぁ?」 母からの言葉に、悠里は元気よく「うんっ!」とうなずく。 「ありがとうございます〜」 頼もしい娘の姿が見られたことがうれしくて、ルーシェリアはにっこり笑った。 「それでママ、何をしよう?」 「とにかく犯人の手がかりを掴まないとなので、聞き込みをしましょう〜」 そうして悠里と2人、オレンジとイエローのぴよぐるみ姿で探索を行っていたところ、やはり同じくジャイアントビッグピヨから事情を聞いたピヨを連れたレティシア、ミスティの2人と行き合わせたというわけだった。 同じ目的なら一緒に動いた方がいいと、4人が意気投合したところで、ジャイアントビッグピヨから追加情報が入った。 「盗られたというのは、タブレットだったのですかぁ」 悠里の頭の上でぽよんぽよんトランポリンのように飛び跳ねている、赤いリボンをつけたオレンジ色のピヨ1号からの伝達に、レティシアが言う。 ちなみにレティシアも麗茶牧場の桃色のぴよぐるみを着ているので、ぴよぐるみ姿の3人がぽてぽて歩く姿は、後ろから見るとカラフルな卵がゆらゆら揺れながら歩いているという、なんともシュールな光景である。 1人だけ普通の格好をしたミスティは、その光景に複雑な表情をしながらも黙って後ろをついて歩く。 「ひどい! 更科先生から絵を描く道具を奪うなんて! 絵を描くことは先生にとって、すっごく大切なことなのに!」 「そうですねぇ〜。そんなことをする人は、ぎったんぎったんにしてやりましょうねぇ〜」 「うんっ! そうする!」 どうやら悠里は本気で腹を立てきっているようだ。 「絶対、絶対そうしてやるんだからっ!」 奮起し、いても立ってもいられないというように駆け出す。 「あ、悠里ちゃん。いきなり走ったりすると危ないですよぅ」 レティシアが注意を喚起するが、少しばかり遅かった。 角を曲がった直後、悠里は反対側から歩いてきていた者とぶつかって、ぴよぐるみを着ていたせいでぼよーんとはじき飛ばされる。 そしてこれまたぴよぐるみを着ていたせいで、ぼいんぼいんと地面を跳ねて転がった。 「悠里ちゃん!」 ルーシェリアはあわてて地面にひっくり返って手足をじたばたさせている悠里のもとへ駆け寄る。 「すみません、大丈夫ですか?」 ルーシェリアと同じくらい、あせってあわてている声が、角の方からした。 見れば、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)とそのパートナーの常闇 夜月(とこやみ・よづき)だった。 おそらく貴仁とぶつかったのだろう。貴仁は心配そうにひっくり返った悠里を見ていて、自分もそばに膝をつくべきか思案しているようだ。 反して夜月はいかにも他人事という顔でけろりとしている。 そしてその頭や肩の上では、1匹のオレンジ色したピヨと、黄色のピヨ6匹がいて、やはり夜月たちと同じようにぴよぐるみを着てピヨになっている2人を興味津々顔で見ていた。 「悠里ちゃん?」 「うん。全然へーき。どこもなんともないよっ」 ルーシェリアに引っ張り起こされた悠里は笑顔で言う。本当に何ともなさそうだ。これもぴよぐるみを着ていたおかげだろう。 そして貴仁を見て、ぺこりと頭を下げた。 「いきなり飛び出しちゃったりしてごめんなさい」 「……いえ。おけががないようでほっとしました」 悠里の様子に、貴仁もようやく安堵する。 「あのぅ。 もしやあなたも、更科先生の失せ物探しをされてるんですかぁ?」 少し離れたところから全体を見ていたレティシアが、夜月の連れているピヨたちを見て訊いた。 「ええ、まあ。 ということは、あなたたちもですか?」 訊き返してはいたが、返答は貴仁も分かっていた。 3人のぴよぐるみの格好、それにそれぞれがピヨを連れているのを見れば一目瞭然だ。 目的が同じと知って、レティシアはルーシェリアにしたように同行を申し出、貴仁は快く了承した。 「聞き込みをそれなりにすれば、犯人はすぐ見つかるでしょう」 「そうですねぇ〜」 貴仁の言葉に、レティシアもうなずく。 しかし貴仁の狙いは、さらにそこから先にあった。 ジャイアントビッグピヨから最初の連絡が来たときは純粋に、更科太郎のために探索を始めた貴仁だったが、盗まれたのがタブレットだと知ってから、ちょっとよこしまな考えが忍び入ったのだ。 (犯人から回収できたら、数日(無断で)お借りしましょうかね。なに、ほんの数日ですよ。最後にはちゃんと先生にお返しします。 なんだったら、その場でこの改造HCである常世思金【MODE魔障壁】につないで、使ってみてもいいですね) そのためには、他の者に見つけられ、更科家へ運ばれる前に手に入れなくては。 ここで彼らと一緒に行動するのは、彼らの行動を見張る分にもちょうどいい。 「それにしても、ひどいやつもいたものですね。いくらタブレットがほしいからって、ひとの物を盗むのは犯罪です(でも俺はちゃんと最後には返しますし、更科先生から盗むわけでなく、強盗犯から盗むわけですから。こらしめる相手は犯人なので、俺はなんにも悪くないですね)」 にっこり。 腹黒貴仁は罪悪感のかけらもなく、笑顔でレティシアたちと会話しながら歩いて行く。 それをうすうす感じ取っているのは夜月だけだ。 (まったく……貴仁様ったら、何かよからぬことを考えているみたいですね……。 まあでも、タブレットを探すのと、犯人を探すのが先決ですわよね。それがなければ何も始まりませんし) ため息をつく夜月に、心配そうにピヨがじっと見つめる。 ちなみにリーダー格のオレンジ色のピヨが【夜月専用カラーピヨ】、ほかの黄色のピヨたちは【1Pカラーピヨ】【2Pカラーピヨ】【3Pカラーピヨ】【4Pカラーピヨ】【5Pカラーピヨ】【6Pカラーピヨ】と呼ばれている。同じピヨだが、微妙に浮かべる表情や縛っているゴムのカラーが違っていて、見分けるのは簡単だ。 「心配してくれるのですね。では、もしも貴仁様が何かしでかしそうになりましたら、よろしくお願いしますね」 「ピイッ!」 夜月からのお願いに、ピヨたちは勇ましく手に持った携帯用ゲーム機を掲げる。 彼らの使える技は【ゲームをして遊ぶ】からの【他のピヨを巻き込んでの順番のことで喧嘩】なので、この事態に具体的に何ができるかまったく想像がつかないのだが。 夜月は「任せて!」というふうに胸を張るピヨたちのかわいらしさに「ふふっ」と笑う。 そして少しだけ安堵して、ピヨたちとともに貴仁たちの後ろについて歩き出した。 その一連の様子を、見守っていたのがミスティである。 レティシアの見守り役がすっかり板について、影が薄くなったというか存在感が希薄というか。 そのおかげでだれにも意識されることなく、それぞれの表情やら仕草やらを観察できていたミスティは、なんとなく、貴仁のうさんくささにも気づけていた。 「レティったら、あんなに簡単に信用して……。 本当に、フォローする身にもなってほしいわよ。 かといって、レティもピヨたちも放ってはおけないですし。陰ながらみんなのフォローをしていきますよ……」 ――はぁ……。 ため息をつき、首を振りつつミスティは一番後ろをひっそりと歩いて行ったのだった。 |
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