蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

リアクション


■■■Aリアクション


第1章 スクランブル!


 樹海の中に、槌音が響く。
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)とパートナーの守護天使リース・バーロット(りーす・ばーろっと)デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)とパートナーの機晶姫ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)は、鏖殺寺院の襲撃で傷んだバリケードの修復と、障害物の増設作業を行っていた。
 「これって、本来は工兵の仕事だよなぁ……」
 面倒くさそうにぶつぶつ言いながら、デゼルは担いできた丸太を地面に放った。
 (うーん、ちょっと煮詰まってるっていうか、ヤケクソ気味かなあ)
 ルケトはパートナーの態度や動作からそんな感じを受けたが、本人がそんなことを言いながらも陣地構築作業をやめようとしないので、何も言わずにデゼルを手伝っている。
 「デゼル殿、気が進まないなら他のことに回っても構いませんよ。こちらは、林教官から指揮を許可された人員でも何とかなりますから」
 先を尖らせた短い杭を壕と壕の間の隙間に打ち込みながら、小次郎が言う。彼は、前回の鏖殺寺院の攻撃に火炎瓶が使われていたことから、今回はバイクなどの乗り物を持ち出して来る可能性もあるのではないかと考え、その対策として、このような杭の設置を始めたのだった。
 「……いや、一回手をつけたことを途中で放り出すのも嫌なんでな。これも、味方を守るってことではあるかなと思うし」
 むっつりと言いながら、デゼルは細い丸太を壕と壕の間に並べる。こちらは、凹凸を作って『黒面』の足場をなくす作戦だ。本当は釘を打ち付けた板でも置ければと思っていたのだが、丸太を板にするのも手間がかかるし、大量の釘を補給してもらうのも大変だし、ということで丸太に変更した。こちらも短めに切った丸太は、上に乗るとコロコロと転がって、足元を不安定にさせる。
 「本人がああ言ってることだし、敵が来るまでは手伝いますよ」
 ルケトが苦笑しながらフォローする。
 「別に、つきあう必要なないんだぜ?」
 デゼルはルケトを見る。
 「つきあってるんじゃない、デゼルだけにやらせるとだんだん仕事がぞんざいになって行くから放っておけないだけ!」
 壕の中に落ちた丸太を拾い上げながら、ルケトは言い返す。
 「……ルケト殿」
 さすがに言い過ぎでは、と口を挟みかけた小次郎を、にっこり笑ってリースが止めた。
 「あれが、あのお二人のコミュニケーションなのですわ。そっとしておいて差し上げましょう?」
 その時、日差しが翳った。見上げた小次郎とリースの目に映ったのは、飛行機の形をしたものだった。が、
 「あんな機体、教導団の所属機にはありませんでしたよね?」
 「それに、何か……何かがおかしいような?」
 二人は顔を見合わせて、首を傾げた。

 小次郎とリースが感じた違和感の「正体」を正確にとらえていたのは、やはり航空科だった。
 『そこの所属不明機! 樹海上空から退去して下さい!』
 セスナのコクピットから呼びかけている早瀬 咲希(はやせ・さき)は、そう言いながら、相手が実は飛行機ではないらしいことに気付いていた。形は飛行機だが、エンジンの音がしないし、飛行のスピードが普通の飛行機と比べて異常に遅い。そして、何より奇妙だったのが、機体の中にパイロットが乗っているのではなく、機体の外側に搭乗者がしがみついているということだった。
 「何なのかしらね、あれ……」
 飛行機ではない、だとしたら正体は何なのか。それはまだ咲希にも判らなかったが、退去勧告に従わなければ敵、というのはとりあえずはっきりしている。咲希はパートナーのドラゴニュートギルバート・グラフトン(ぎるばーと・ぐらふとん)を無線で呼んだ。しかし、その間にも謎の飛行物体は遺跡に向かって高度を下げて行く。
 『あのスピードなら攻撃すれば当たるでしょう。どうします、攻撃しますか?』
 飛んできたセスナから、ギルバートが訊ねて来る。咲希はきっぱりと言った。
 「仕方ないわ、攻撃しましょう」
 飛行物体に機銃掃射を浴びせる。しかし、飛行物体は空中で小さくジャンプするような、普通の飛行機にはありえない動きで攻撃を避けた。
 「どういうこと!?」
 咲希は目を疑った。
 『落ち着いて下さい。私は上を押さえます』
 ギルバートが飛行物体の上空に回る。咲希はもう一度、なお高度を下げる飛行物体に狙いを定め、撃った。今度は攻撃が当たり、飛行物体は身悶えるような……まるで生きているかのような何とも気持ちが悪い動きをしながら失速した。
 「落ちて来る!」
 「頼むから、せっかく作った障害物の上に落ちないで下さいよッ……!」
 デゼルと小次郎、そして作業を手伝っていた生徒たちは、はらはらしながら飛行物体の行方を見守った。飛行物体は遺跡前の障害物地帯に向かって降りて来たが、結局降り切れずに樹海に突っ込み、動かなくなった。
 「何人か、銃を持ってついて来い!」
 槍を片手に、現地指揮官の歩兵科教官林 偉(りん い)がバリケードを乗り越える。数名の生徒が、銃を持ってそれに続く。デゼルや小次郎も駆けつけてみると、飛行物体は樹海の木をなぎ倒して墜落しており、男が一人、近くの木に引っかかっていた。林は生徒たちに、男に向けて銃を構えさせると、慎重に男の様子を観察した。着ているツナギのあちこちに血らしき黒い染みができており、どうやら負傷しているらしい。
 「おーい、誰か軽く治癒してやれ。完治させなくていいぞ。命に別状がなくなりゃそれでいい」
 林は、集まった生徒たちに声をかけた。
 「はい!」
 リースが駆け寄って、ヒールをかける。
 「退去勧告に従わないからこういうことになるんだ。さて、どこの者だかきりきり吐いてもらおうか」
 木に引っかかった男を降ろさないまま、林は訊ねる。意識を取り戻した男は、波羅蜜多実業高等学校のテクノ・マギナ(てくの・まぎな)、乗ってきた飛行物体はパートナーのヴァルキリーエー テン(えー・てん)だと言った。
 「ここで義勇兵を募集してるって聞いて、手伝いに来てやったんだよ! ここから降ろせ!」
 「今更そんなことを言って、信用出来ると思うか!?」
 木の上でもがきながら怒鳴るテクノに、林は怒鳴り返した。
 「教官、後は私たちが。……あなたがたを、不審者として拘束します」
 妲己が申し出た。査問委員たちがテクノとテンを拘束する。
 「だから、手伝いに来たって言ってんだろうが!」
 テクノは暴れたが、妲己はぴしゃりと言った。
 「その言い分が信用出来なくなるような行動をしたのは、他でもないあなた自身でしょう。大人しくなさい。これ以上抵抗するようなら、実力をもって大人しくさせますよ?」
 妲己は手をかざした。その手の周囲にキラキラと氷の結晶が舞うのを見て、テクノはさすがに口を噤む。
 その後の査問委員と憲兵科の取調べにも、テクノは教導団に協力しに来たのだと言い続けた。しかし結局、最後まで信用してもらえず、彼とテンは解放されなかった。