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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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第2章 囮作戦

 鏖殺寺院の手の者とみられる黒ずくめの敵『黒面』。かれらを遺跡から引き剥がすために、林偉は偽の発見物輸送隊を仕立て、『黒面』をおびき出す作戦に出た。『黒面』に襲撃される可能性が高い危険な役目だが、教導団からはフリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)とパートナーのサーデヴァル・ジレスン(さーでばる・じれすん)、そしてソフィア・シュンクレティ(そふぃあ・しゅんくれてぃ)、義勇隊からは国頭 武尊(くにがみ・たける)とそのパートナーの剣の花嫁シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)猫井 又吉(ねこい・またきち)あーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)とそのパートナーの剣の花嫁アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)、英霊一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)清泉 北都(いずみ・ほくと)とそのパートナーの守護天使クナイ・アヤシ(くない・あやし)菅野 葉月(すがの・はづき)とそのパートナーの魔女ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)とそのパートナーの機晶姫シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)、ドラゴニュートランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)が名乗りを上げた。さらに、
 「教導団の生徒がヴァンジヤードさんとジレスンさんだけでは、少し大変かも知れませんね。査問委員会から何人か同行させましょうか」
 妲己の申し出で、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)をはじめ、数人の査問委員が加わることになった。
 「本気で脱走や反乱を企んでいる者がいるとすれば、監視の厳しい最初の頃ではなく、ある程度時間が経って監視の目が緩む頃合いを狙うのではないかと思います。そのようなことのないよう、厳重に監視しておきます」
 妲己の前で、ゆかりは姿勢を正して言う。
 「そうですね……この場合、脱走はあまり気にしなくても良いでしょう。樹海の中で徒歩、しかも地図を持たないとなれば、よほど樹海の外縁に近いところで脱走しなければ迷うだけでしょうし、もう一度ここへ戻ることも難しいでしょうから。教導団の生徒に危害が及ぶことがないように、それだけ気を配ってください」
 妲己は柔らかな声でゆかりを諭し、肩に手を置いた。
 「……もちろん、あなた自身も怪我などないように。退くことは恥ではありませんよ」
 「はい。お心遣いありがとうございます」
 ゆかりはうなずいた。
 一方、出発の前の打ち合わせで、武尊は林に閃光弾を支給して欲しいと申し出て揉めていた。
 「だーかーらっ、目潰しくらい食らわせて足を止めなきゃ、あいつを倒すことは出来ねえって言ってんだろ! 教官だって、何とかして足止めないとみてえな事は言ってたじゃねえか。使うタイミングはちゃんと教導団にも教えるって!」
 「確かに閃光弾はここにもあるが、まだそんなものを自由に使わせるほどお前たちを信用しとらん言っとるだろうが!」
 既に怒鳴りあいになっているが、双方一歩も譲らない。実はこの二人、案外似たところがあるのかも知れない。
 (やっぱり、すぐには信用してもらえない、かぁ。裏切ったら樹海の中に置き去りってポジションだよね……。まあ、僕は裏切るつもりはないけど)
 言い合う林と武尊を見て、北都はクナイに囁いた。
 「……まあまあ」
 見かねて、サーデヴァルが二人の間に割って入った。
 「教官、義勇隊に閃光弾を持たせることが問題なんですよね? だったら、私が持ちますよ。何か目潰しになるものが欲しいと考えてましたから、ちょうどいいです。……使う時に合図をすれば、別に君が自分で使わなくてもいいだろう?」
 林と武尊を見比べる。
 「ジレスンや査問委員が持つんならいいだろう。ただし、味方の目まで潰さんように、慎重に使えよ?」
 「……まあ、仕方ねえか」
 林は腕を組んでうなずき、武尊は肩を竦めたが、とりあえず言い合いはおさまった。他の生徒たちはほっと胸を撫で下ろす。
 「ワタシからも、提案があるのですが。その名も、『囮段ボール作戦』です」
 筐子が手を挙げた。
 「運ぶ荷物の中身は空でなくても良いですよね? だったら、びっくり箱に改造して敵を驚かせてはどうでしょう? 後は、ワタシが段ボールの中に潜んでおくとか、敵がびっくり箱に驚いている隙に、パートナーの防師を敵に紛れさせて、様子を探らせるとか……」
 「まあ、箱に仕掛けをするのは問題がないとして、お前が入っているダンボールは誰が運ぶんだ? 道はないから人力で運ぶしかないぞ?」
 「私が運びます」
 林の問いに、アイリスが手を挙げる。
 「それならまあいいか……。ただし、パートナーを敵に紛れさせるのは許可出来ん」
 林は厳しい表情で筐子と防師を見下ろした。
 「えっ、何でですか? 敵の様子を探るには良い方法だと思ったんですけど」
 「お前たちが敵と内通しないという保証は?」
 「えーっと……」
 筐子は返答に詰まった。前回の襲撃後に義勇隊に加わった筐子には、まだまったく実績はない。しかも、
 「あーる華野 筐子。本校から要注意人物として通達が来てるんだがな?」
 「あー……遺跡やそこから出て来たものを他校生にも自由に調査させるべきだと交渉に行った件、ですね……」
 林に言われて、筐子は俯く。
 「まあ、自由に調査させろと主張する人間が、すなわち鏖殺寺院に味方する人間とは俺も思わん。だが、他の他校生より注意すべきだとは思っている。その小さい奴は監視対象にさせてもらうからな」
 「はい……」
 林の言葉に、筐子はしおしおと頷いた。
 「……他に意見は?」
 林は生徒たちを見回した。
 「とにかく、荷物をダミーだと思わずに、全力で守るべきだと思います。そうすれば、敵も本物だと思ってくれるのでは」
 「賛成でございます。必死で戦えば戦うほど、敵を欺くことが出来るはずですので頑張りましょう」
 葉月の意見に、クナイがうなずく。
 「出来れば、『黒面』どもを捕まえて尋問したいところであるな」
 フリッツが顎に手をやって唸る。
 「あれを生け捕りにするのは骨だと思いますが……」
 そう言いつつ、アルコリアは逆に殺る気まんまんのようだ。
 「しかし、敵の情報は必要であろう? 一応、色々と策は考えてあるので、試してみようと思う。……いかがでしょうか、林教官?」
 「お前たちの第一の目的は、敵の戦力を分散させて削ぐことだ。確かに敵の情報は不足しているが、捕獲されることにこだわって逃げられんようにな」
 フリッツの問いに、林はそう答えた。
 「了解しました」
 フリッツは敬礼を返す。