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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

リアクション

 前に出ようとする敦を巨体で隠し、背後の意識のしっかりしている配下の中に押し込むラルク。
「待つっス……むぐっ」
 突然後ろから口をふさがれ、混乱しかけた敦に押し殺した声が「あたしだ」と囁く。
 聞き覚えのある声は羽高 魅世瑠(はだか・みせる)のものだった。
 抵抗をやめた敦から手を離し、魅世瑠は彼の手を引きながら早口に言った。
「ラルクもわかってる。あたし達が必ずキミを董卓のところへ連れて行く」
「火口さんはあくまで董卓さんと和解するべきだと思います。齟齬があるならまず話し合いで解決するべきだと考えます。そのための血路を開くのははラズ達が引き継ぎました」
 いつも片言で素朴な言い方のラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)から、すらすらと知的な言葉が発されたことに、魅世瑠達は唖然とした。
「いや、驚くことはないんだ。今はこれが正しいんだ」
「そう、そうでしたわ。わたくしとしたことが、うっかりしてました」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)がそろって手を打つ。
 魅世瑠達はクイーン・ヴァン・ガードならぬ『火口・ヴァン・ガード』を結成した。その効果でのラズの変化だ。
 その効果を得たラズが推理するには……。
「石化の戦士は、必ず付近に現れます。例えば、決戦のために後方にいるフローレンスの部隊とか……」
 まさにその瞬間、石化の戦士マッシュがシャノンと共にテレポートしてきた。
 フローレンスが部隊に駆け戻り、指示を出す。
「そいつを潰せー!」
 隊員達も火口・ヴァン・ガードとしてあらゆる能力強化をはたしている。
 それにいち早く気づいたシャノンは、急いで他の場所へ跳んだ。
「モタモタしてる暇はねぇ。行くぜ」
 魅世瑠が言葉にアルダトとラズも自分の部隊へ駆けた。
 敦は魅世瑠の隊に紛れた。

 アルダト率いる第三分隊は先鋒強行偵察部隊として、城門前の最後の敵勢の壁のもっとも突破しやすい箇所へ突撃した。
「これでは偵察の部分は省略ですわね」
 クスクス笑っていると、上空のドラゴンが一体滑空してきた。
 アルダトはそれを挑戦的な目で迎える。
「ジャタの森の夢の民の力、思い知るとよいのですわ」
 そしてアルダトは一千の兵にドラゴンへ魔法攻撃の命を下した。
 ラズの第二分隊はアルダトのあけた穴をさらに大きくするべく、野性の蹂躙で呼び寄せた獣の群れと共に駆けた。
 途中、ドラゴンの火炎を喰らおうとも、凶暴な爪で薙ぎ払われようとも怯まず突き進んだ。
「キミは──」
 進軍の機を待つ魅世瑠が敦にそっと声をかけた。
「董卓と刺し違えてでも止める、なんて物騒なこと考えてる?」
 もし、そんな悲しいことを考えているなら、魅世瑠は敦を一喝するつもりでいた。
 しかし、返ってきたのは嬉しい裏切りの言葉だった。
「そんなことはしないっス。これでも董卓のことは気に入ってるんス。ただ、責任を取りたいだけっスよ。あの槍を……」
「最後までその気持ちでいろよ。全世界が裏切っても、お前だけは裏切るな。パートナーなんだからさ」
「いいコト言うっスね」
 束の間、空気が和らいだ。
「一気に城内も駆け抜けるぜ! 董卓を玉座から引きずり出してやる!」
 フローレンスが駆け出した後に、魅世瑠の本隊も動き出す。
 この本隊にはソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)達も加わっていた。
 そのソアの前に急降下してきたドラゴンが大きく口を開いた。
「ご主人──!」
 小さく叫んだ雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は、とっさに敦の襟首を掴みソアの前に躍り出た。
 グッと敦を盾のように突き出す。
「アツシバリアー!」
「マジかよ!」
 叫びつつも、ドラゴンを槍で真っ二つにする。
 ベアは敦を下ろすと、出てもいない額の汗をぬぐい、爽やかな笑顔で言った。
「よし、行ける!」
「アホかぁ!」
 魅世瑠のチョップがベアの後頭部に決まった。
「守るべきやつを先頭に出してどうするっ」
「何だよ〜。誅殺槍相手なら有効だろ?」
 睨み合う二人にソアが「あっ」と声を上げる。
「部隊が離れちゃいますよっ。火口さんを守りながら進むんですよね?」
 魅世瑠は前のフローレンスと余計な隙間ができないよう、急いで本隊を進めた。
 敦が魅世瑠に言った。
「ベアの言うことももっともっスね」
「キミねぇ。攻撃は誅殺槍の力を受けた者達だけじゃないんだよ」
「あっ」
「わかったら、黙ってついてきな」
 自分のうかつさに肩を落とす敦にソアがやさしく言った。
「火口さんが考えるのは、董卓さんとのことだけでいいんです。それまでは私達の仕事ですよ。ミツエさんも待ってるはずです」
「……ありがとう」
 そんな二人の会話を、光学迷彩で姿を消し、万が一懐に迫った敵が現れた時のために備えているジンギス・カーン(じんぎす・かーん)は、緊張しながら聞いていた。