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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

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 式場のスタッフに必要な物を届け、神無月 勇(かんなづき・いさみ)ミヒャエル・ホルシュタイン(みひゃえる・ほるしゅたいん)は空京エリアの庭園へ向かう。恋人を失った勇にとっては関係のないイベントだと思っていたが、以前パーティを組んだことのあるコトノハルオシンの挙式があるというので、何か手伝えないかとやってきた。……と、いうのも理由の1つだが、ミヒャエルに無理矢理引っ張られて来たというのも大きな理由だろう。
(……こんなところで、思い返すことになるなんてな)
 幸せそうな顔の溢れる会場に不釣り合いな思いを下げて来てしまい、式に参列するのも気が引けてくる。邸宅内で待たせてもらおうかと振り返れば、ミヒャエルが意味ありげな微笑を浮かべた。
「なんだ、参列しないの? 僕としては、その方がありがたいけどね」
「……いや、折角だし見て行くよ」
「そう? まぁお楽しみはとっておいてもいいけどね」
 なんとなく悪い予感がして、躊躇うことなく再び庭園へと歩き始める勇を止めもせず、さも残念そうに肩を竦めるミヒャエル。まるで、何かを楽しみにするように、邸宅の窓を見つめるのだった。
 実家がかなり大金持ちなコトノハの挙式。当然、愛娘の結婚式に黙っている親族ではなかった。どこよりも盛大にと様々な物が手配され、最早どこまでが式場の用意した物でどこからが私物なのかわからないが、彼女が満足のいく物が揃えられたことをルオシンも喜んでいるようだった。
 そのときの顔を思い出して笑うコトノハは、演出のために先に司祭の前で待つ。通常の西洋式とは逆の入場の仕方だが、これには意味があったようだ。一生に1度しかない娘の挙式、共にバージンロードを歩めないことを涙する父に微苦笑を浮かべながらも、彼にぴったりの方法で登場してほしかった。
(だって、ルオシンさんは私にとって――)
 白い薔薇をモチーフにしたドレスに身を包み、ブーケを握りしめて祈るように瞼を閉じる。あの登場はきっと彼に似合うに違いないと、凛々しい姿を想像すれば聞こえてくる参列者のどよめき。今すぐに駆け出したい気持ちを抑えて、コトノハはゆっくりと目を開いて振り返った。
「待たせた……コトノハを迎えに来た」
 朱色の髪を煌めかせ、白馬に乗って現れたルオシン。バージンロードの前で手綱を勇に手渡し、参列席にいるコトノハの親族へ頭を下げてコトノハの前に膝をついた。
「どんなときも、君を守ろう……我の命に代えてでも。我と共に、生きてもらえるだろうか」
「私はずっとルオシンさんを好きでいますから…………永遠に」
 そうして、2人の式は順調に進む。同じエリアでセンスアップを体験していたリカイン中原 鞆絵(なかはら・ともえ)も隅の方で見学させてもらっているが、薔薇がふんだんに使われたここは薔薇園のようで、そのなかで唯一の白薔薇として咲き誇る花嫁は薔薇の花嫁みたいだと思った。
 光精の指輪も交換し合い、夫婦だと認められたことに幸せを感じつつ、何かに気付いたのかコトノハはクスクスと笑う。
「今日のルオシンさんは本当の『剣の花婿』ですね……今後は『剣の旦那様』になるのかしら?」
「コトノハの好きに呼ぶといい、我はコトノハの花婿であり、コトノハの……旦那様、だろう?」
 自分で言うのは抵抗があったのか、珍しく照れた様子を見せる彼の腕へ抱きついた。たくさんのフラワーシャワーを浴びながらバージンロードを歩く2人。満夜ミハエルも少し混ざり、ちらりと隣を見ては気にしないように花を撒く。
 そうして、馬と交換するように用意された小型飛空艇に2人で乗り、色付き煙幕で空にLOVEの文字を描いてからブーケを高く放り投げる。この幸せが、みんなにも届くようにと願いを込めたブーケが弧を描く様子を眺めながら、しっかりとルオシンの背中に捕まって、披露宴も楽しんで貰えればいいなと思うのだった。
 そうして、馬を貸す役目も終わり用事のなくなった勇は早々に帰ろうとしていた。用事も終わって、式にも顔を出したのだから、これ以上こんな古傷を抉られるような場所にいたくないと馬小屋へ向かおうとする。
「なんだ、そんな顔をして。本番はまだまだこれからだろ?」
「本番……? そういえば、ケーキ入刀は派手にするからとは聞いてるけど……」
 もしそれを、彼女と出来たなら……叶いもしない願いにふけっていると、突然視界を塞がれてしまった。
「なっ……ミヒャエル! 一体何を……」
 文句を言い切る前に開けた視界。端にふわふわと揺れる白い布が見えて下を向けば、ウェディングドレスを着せられていた。
「いいか勇、結婚も良いが、一番重要なのは……『初夜』だ!」
「それで何故、私がこんな格好を……。ドレスは君の方が似合うじゃないか!」
 やれやれと肩を竦めるミヒャエルにムッと眉を寄せると、気にせず彼は話し始めた。
「似合うに合わないという容姿の問題じゃない、毎晩女役をしている方が着るのが道理だ」
「……毎晩しているなら、今更初夜の予行練習も何も……」
「甘い! これを失敗したら自信を無くし、心理的ストレスとなって不能になる可能性も有るんだぞ!」
 とても彼がそんな風になるとは思えないが、何やら熱弁し始めてしまったので帰ったら覚悟しなければいけないなと勇は遠くを見つめている。
「と、いうことでベッドは準備させた。でかいし枕もないし、楽しみやすそうだな?」
「え、今から!?」
 言われると思っていたミヒャエルは、勇に吸精幻夜をかける。この容姿は勇にとって過去の彼女と似ているらしいので、幻術にはかけやすかった。
「ふふっ、折角だしエロいのが大好きな明智も来ればいいのにね」
 結婚式などまだ儀式の入り口。本当の儀式は別にある――そんな人も、いるのかもしれない。