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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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 特火点のごとき働きを見せていた氷柱が倒れ、エリアの中に一筋の道が出来上がる。
 ここに来て生徒たちはようやく、メイルーンに至る進撃路を確保したのである。
 
 生徒たちとメイルーンの戦いは、次の段階に移行していく。
 立ちはだかる“要塞”メイルーンを陥落させることが、果たして出来るだろうか――。

 清泉 北都(いずみ・ほくと)ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)がエリア【F】に到着した時、生徒たちはメイルーンに肉薄出来る道を一本、確保していた。生徒たちはそこからメイルーンに至ろうとするが、当然、メイルーンからの攻撃もその進撃路に集中する。
(うん、おおよそは把握出来た。……『敵の首を取る』ような真似は、僕のガラじゃないしねぇ。となると、するべきことは……)
 氷龍を倒そうとする人達の被害を減らすように立ち回り、彼らが攻撃に集中出来るようにする。自分の行動方針をそのように定めた北都が、ソーマに声をかけられる。
「北都、俺はどう動けばいい? 俺は北都の声に従うぞ」
「ソーマは炎の魔法で、飛んでくる氷柱を打ち消して。僕が声をかけたものから優先的に。あと、道の傍の氷柱も、無理のない範囲でいいから崩しちゃって。これも同様に」
「ん? 飛んでくるのは分かるが、飛んでこねえのもなのか?」
 北都が示した氷柱は、それまで散々生徒たちを苦しめてきた、氷塊を生み出す氷柱ではなく、ただ障害物として立っているだけのものであった。
「大丈夫、ちゃんと意味はあるよ。ただその時は、倒す方向に注意がいるから、正確にお願いね」
「ま、北都が大丈夫だって言うなら、大丈夫だな! 俺に任せておけ!」
 納得の表情を浮かべたソーマを連れて、北都が進撃路へ足を踏み入れていく。早速出迎えとばかりに天井から氷柱が落ち、メイルーンを構成する氷柱から氷の塊が生み出され、生徒たちへ向けられる。
「左、来ます! ソーマ、右をお願いするよ」
「よっしゃ! これでも食らっとけ!」
 飛んできた氷塊の軌道をいち早く見極め、危険が及ぶと判断した北都が生徒たちへ注意を飛ばす。遮蔽物が近い左サイドはそこに隠れてやり過ごし、比較的拓けている右サイドはソーマが炎の嵐を生み出して氷塊を小さくすることで、生徒たちに直撃する可能性を小さくする。
(流石にこの量、僕たちだけでは落としきれない。それなら、回避出来るだけのスペースを作る……!)
 利用出来そうな氷柱にアタリをつけた北都の、鋼糸のような振る舞いを見せる蜘蛛の糸が煌き、氷柱に切れ込みを作る。
「ソーマ、これに炎、お願い。今の位置から真っ直ぐでいいよ」
「ちょっと待ってな……よし、行くぜ!」
 北都の指示を受けて、ソーマが炎の嵐を氷柱にぶつける。衝撃と融解で脆くなった氷柱が倒れ、横倒しになる。次に生徒たちは、飛んできた氷塊に対してその氷柱の影に飛び込むことで、直撃を免れることが出来た。

「う〜ん、おっきな岩を相手にしてるみたいだよ〜。ホントに倒せるのかな〜?」
 向かっては散らされ、向かっては散らされる生徒たちが、後方にいたリンネの目にも頻繁に飛び込んでくる。繰り返される同じ光景は、ポジティブにまっしぐらのリンネをして、不安にさせるものであった。
「あら、そのような弱気な言葉を聞くことになるとは、思いもしなかったわ。それだけでもここに来た甲斐があるかしらね」
 そこに現れた人影を見て、リンネが驚いたような声をあげる。
「あれ? アリシアちゃんどうしてここに? 確か用事があるからとか――」
「そんな話は後で良くない? 今は人手が必要なんでしょ、手伝ってあげるわ」
 告げたアリシア・ミスティフォッグ(ありしあ・みすてぃふぉっぐ)の背後には、小鳥遊 律(たかなし・りつ)クルーエル・ウォルシンガム(くるーえる・うぉるしんがむ)ネクロノミコン 断章の詠(ねくろのみこん・ふらぐめんと)の姿があった。
「さあ、やるわよあんた達! ブレスはヤバいから逃げなさい! 全員集中攻撃で牙城を崩すわよ!」
 パートナーに指示を下し、自らも出撃せんと背を向けたところで、リンネの感謝する言葉が耳に届く。
「ありがと、アリシアちゃんっ」
「……別に、氷龍に興味があったからよ。ワルプルギスの連中に恩を売っとくのも悪くないしね」
 背を向けたままアリシアが答えて、今度こそメイルーンへ向けて出撃する。
「ネフラ、戦況のほどは?」
「良く言って一進一退、かな。……いけない、ブレスが来るよ」
 ネフラの視界に、メイルーンの口が開き奥から光が漏れるのが見える。生徒たちが遮蔽物に飛び込んだ直後、薙ぎ払うかのような冷気放射が見舞われ、通過した後がくっきりと残っていた。幸い、今回の攻撃による被害は皆無であった。
「いやー、それにしてもでかいっすねー。見てるだけで首が痛くなるっすよー」
「……参ります。行かれなくてよろしいのですか?」
「ああ、待つっすよー。どこ狙うっすか?」
「アリシア様のご指示は、一点集中です。狙うならば、あの辺りかと」
 メイルーンを構成している氷柱の一つを指して、律が告げる。
「敵の本体は上部と推測されますが、あれらを崩すことで上部への集中攻撃が可能になるかと」
「了解っす! 腕が鳴りますね〜!」
 二人確認を取って頷き合い、攻撃が止んだ瞬間を狙って飛び出す。肉薄しての交互に放たれる爆炎が氷柱を包み込み、数回に渡る攻撃で氷柱には大きな亀裂が走った。
「これで終わりよ! バラバラになっちゃいなさい!」
 アリシアの掲げた杖の先に炎が生まれ、それは砲弾のように山なりの軌道を描いて、亀裂の入った氷柱を直撃する。衝撃に耐えきれず氷柱が砕け、メイルーンの目、および口の位置が下にずれる。まだ、生徒たちが集中攻撃を行えるには高さがあるが、徐々にその瞬間が近付いているようにも思える。
「次、行くわよ! このくらいでへこたれるあんた達じゃないわよね?」
 アリシアの問いに、律とクルーエル、ネフラがそれぞれ得意とする攻撃を放つことで答える。
(……うん! みんなで頑張れば、きっと倒せる! 弱気になっちゃダメ! リンネちゃんが、みんなの先頭に立たないと!)
 顔を上げたリンネの表情に、不安の色はすっかり消え失せていた。リンネの口が詠唱の言葉を紡ぎ、両手にそれぞれ炎が浮かび上がる。それを一つに合わせ、巨大な球体を作り上げ、メイルーンへ放つ。
 
「ファイア・イクスプロージョン!」

 火球が氷柱に直撃し、それまでの攻撃で弱っていた氷柱が一気に崩れ、また少しメイルーンの本体が近くなったように見えた。

「レライアを返しなさい!」
 遮蔽物の影から飛び出したメーテルリンク著『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)が、自らが得意とする氷術で氷の槍を作り、メイルーンを構成している氷柱に投擲する。だが、槍は氷柱に刺さったところで止まり、瞬く間にメイルーンの一部となってしまう。
(そんな……!)
 得意の魔法を無効化され、驚きを隠せない千雨へ、メイルーンの冷気放射が見舞われる。視界が光に包まれるその瞬間、横から突き飛ばされる衝撃を受けて柱の影に倒れこむ。
「ここで千雨さんをやらせるわけには……!」
 千雨を突き飛ばし、自ら冷気放射の射線に飛び込んだ志位 大地(しい・だいち)が爆炎をぶつけるものの、冷気放射の威力はその程度では相殺されず、直撃を受けた大地の身体が凍り付く。
「大地!!」
 手を伸ばそうとする千雨を制し、笑みを浮かべたまま大地が告げる。
「千雨さんなら、必ず、助け――」
 言葉は途切れ、柔らかな笑みを残して氷像と化した大地へ、千雨が手を触れる。しかし手は何も伝えてこない。温かそうな笑みも、一滴の温度も伝えてこない。
「…………!!」
 その場に崩れ落ちかけた千雨を、氷の雨が襲う。今ここで大地が攻撃を受ければ、もはや再生は叶わない――。
 二人を貫かんとした氷は、生じた炎によって吹き飛ばされた。誰でもない、千雨が生み出した炎によって。
「……炎の魔法が使えないわけじゃない。ただ、好きじゃないだけ。……だって、形を保つのが難しいじゃない」
 炎はうつろうもの。揺らぐもの。それはどこか、人の心に似ていなくはないだろうか――。
「レライアと大地は、返してもらうわよ……!」
 千雨の口が禁じられた言葉を紡ぎ、両手に生み出された炎が、先程のように槍の形へと圧縮されていく。困難を要するはずのその作業を可能にしたのは、『必ず助け出す』という意思の力も少なからず関与していた。
「貫け、炎!」
 千雨の手から投擲された炎の槍は、一直線に飛び氷柱へ突き刺さる。今度は吸収されることなくそのまま貫通し、そこへ生徒たちの集中攻撃が飛び、穴は亀裂を生んでやがて柱を折るに至る。