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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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●戦い終わり、そして……

「武さん、じっとしててくださいっ」
「痛ってぇ! もうちっと優しく――痛ってぇっ!」
 エリア【F】での戦闘を終え、洞穴から外に出た一行は、それまで積もっていた雪が一切消えていたことに驚き、差し込む朝日と吹き抜ける温かな風に安堵の息をつく。異常気象も解決し、これからイナテミスも遅い春を迎えることになるだろう。
「泡さん、どうするんでしょう」
 武の治療を終え、救急箱を仕舞った真希が、洞穴を振り返って心配そうに呟く。
「さあな、アイツの判断はアイツにしかできねぇ。アイツもヒーローとして、そんくらいわきまえてんだろ」
 真希の視線を受けた武が、一旦言葉を切って、再度口を開く。
「ここで起きてることが大事だってのは分かっけど……そん時ゃそん時だ。俺たちが力合わせりゃ、乗り越えられねぇ壁なんてねぇ。闇龍を倒せってんならそうするだろうし、他に手立てがあるならそうする。俺たちは動いちまったんだ、最後まで駆け抜けるしかねぇ」
 治療ありがとな、と言い残して去っていく武を見送って、真希がこれから自分がとるべき道を模索するように黙り込む。
「あ〜ん、真希さぁん、ケテルも治療してくださいよぉ」
「いえ、わたくしが治療しましょう。真希様の手を煩わせるのも失礼です」
「え、ちょ、ユズ様……あぎゃ〜〜〜!」
 ケテルとユズの、傍目にはなにやら楽しそうな光景に、真希は表情を緩めて二人の所へと向かっていった。

 エリア【F】の奥、小さな台の上に立つ一本の氷柱に手を触れて、吹笛が語りかけるように呟く。
「こうなることを選ばれましたか。願いが通じたのですね」
「ちっちゃくなったなー。ま、世界樹くらいあっても困るけど」
 並んで立つエウリーズの呟きに、氷柱が一瞬だけ光を放って答えたようにも見えた。
 吹笛の言葉がきっかけとなって、『氷龍メイルーン』は一本の氷柱に変わり、氷雪の洞穴を守護する役目を負うこととなった。
 今は力を回復させている段階なので見ることが出来ないが、いずれ人の形を取って現れることもあるでしょう、とはレライアの言葉であった。
 その時に、この子は何て話すだろうか。何でもいい、話をしてみたい。
 吹笛は視界の端に、キィとホルン、カヤノとリンネ、レライアと泡の姿を見つけ、名残惜しそうにその場から離れる。彼らはここで、世界のこれからに関わる重大な話をしようとしているのだ。
「そういえば、名前ってメイルーン、でいいのかな? 吹笛、何か案ある?」
「そうですなぁ……」
 そんなことを話しつつ、吹笛とエウリーズが一行とすれ違い、入り口へと向かっていく。

「一つ教えてくれ、キィ。君が最後に言った『そしてそれは……希望への道か、絶望への道かの始まり』とは一体どういう意味なんだ?」
 氷柱の前で、ホルンがキィに尋ねる。答えようとするキィの腕の光は、今はすっかり消えていた。
「龍が封印の神子によって封じられるという役割を果たすことで、輪廻が保たれていたんです。最初は龍と五人の精霊、そして龍と私、最小限の犠牲で、世界には平和がもたらされていたんです。しかしそれは今、破られてしまいました。これから先は、私にもどうなるか分かりません。皆さんの意思と行動次第で、希望溢れる未来にも絶望に満ちた未来にもなり得ます」
「……つまり、筋書きを破ったから、どうなるか分からないよ、ってことなんだ?」
 リンネの確認するような問いに、キィが頷く。
「じゃあ、どうにでもなるってことだね! みんなが頑張れば、みんなが幸せな未来に出来るってことなんだ! よーし、リンネちゃん頑張っちゃうぞー!」
「バカねーリンネ。……ま、案外そうかもしんないわね。こうなっちゃったらやるしかないんだもん、真面目に考えたってバカらしいわよね!」
「ふふ、リンネさんもカヤノも、考えが似てきましたね」
「えーーー!? それってリンネちゃんも実はおバカさんだったってこと!?」
「……リンネ、言っていいことと悪いことがあるの、知ってて言ってるわよね!? ちょっと表出なさい、冷凍してあげるわ!」
 飛び出すリンネとカヤノの背中を見つめて、レライアが可愛らしげに微笑む。氷龍を封じ永遠の眠りにつくはずだったところを、キィの吹き込んだ息吹により再び皆と触れ合える機会を得たのである。
「あっ……ごめんなさい、泡さん。一緒に来てもらったのに、置いてけぼりにしてしまって」
「いいよ。これからたっぷり説明されるんじゃないかと思ってたし」
「あはは……そうですね。ちょっと深刻な話になってしまうかもしれません」
 そう前置きして、レライアは話し始める。
「わたしは本当なら、このメイルーンだったものを封じて眠りにつくはずだったんです。それが今またこうして皆さんと一緒の時を過ごすことができ、また、龍を封じる封印の神子の力も持ってるみたいです。それならば、わたしには龍を封じるという使命が課せられているんだと思いますけど……わたしは、絶対そうしなくちゃいけない、ってわけじゃないと思ってます」
 レライアの言葉にキィとホルンが驚きの表情を見せる。大丈夫ですよ、と微笑んで、セリシアが続ける。
「どうするかを決めるのは、泡さんを始めとした人間だと思います。わたしたちではできなかったことが、人間にはできました。何かをできるかもしれない、そんなちょっとした希望を持たせてくれる人間と、わたしは一緒に歩いてみたいと思ったのです」
 言葉を切って、レライアがすっ、と手を泡へ差し出す。
「えっと、いきなりのことで申し訳ないんですけど……わたしは、泡さんと一緒に歩いてみたいです。でも、わたしと契約を結ぶことで、泡さんは龍を封じる役目をわたしと一緒に背負うことになるんだと思います。だから、わたしからはこれ以上手は伸ばせません。でも、今言いたいことは、封印の神子とかそんなんじゃなくて、舞雪の精霊、レライア・クリスタリアとしてのわたしは、泡さんの心に惹かれました。泡さんとなら、わたしはもっと広い世界を見ることができるんじゃないかなって思ったんです」
 言葉を言い終えたレライアは、白い肌を上気させながら、泡の返事を待つ。
 それは永遠の間だったか、それともほんの一瞬だったか、レライアの小さな手が泡の手に包まれる。
「カヤノに言われた時から……ううん、誰にというのでもないわ。私は自分の意思で、レライアと契約することを望む。闇龍と決着をつけて、そうしたら、私が色んな世界をレライアに見せてあげるわ。……改めて、これからよろしくね、レライア」
「はい……!」
 レライアの瞳に涙が浮かび、雫が頬を伝い氷の床に跳ねた――。

「ねえねえ、カヤノちゃんはあれでよかったの? レライアちゃんと別れることになっちゃうかもしれないけど、淋しくないの?」
 レライアと泡を中に残して、イナテミスへ戻る道すがら、リンネがカヤノに尋ねる。
「そりゃあ……淋しくない、って言ったら嘘ね。でも……レラはあたいが思ってる以上に、強い子だった。それに……あたいもレラを守れるほど、強くなかった。もうレラはあたいが守ってあげる存在じゃなくて、レラっていう精霊。どっちがどうとかじゃなくて、あたいはカヤノとして、あの子はレラとして付き合えるのなら、それもいいんじゃないかって思うわ」
「ふ〜ん、カヤノちゃんがいいならリンネちゃんもいいよっ! ねえ、カヤノちゃん。カヤノちゃんは今、自分が強くない、って言ったけど、全然そんなことないよ。カヤノちゃんは強い子だよ」
「な、何よ、いきなり」
「その強さに、リンネちゃんは助けられてるんだよっ。……ありがとね、カヤノちゃん」
 リンネの言葉に、カヤノの頬が一瞬で沸騰する。
「あ、ああああああんたねえ!!?? 恥ずかしいこと言うんじゃないわよ、バカっ」
 ぷいっ、とそっぽを向いてしまうカヤノ。ややあって、聞こえるか聞こえないかくらいの声で、カヤノが呟く。
「……ありがと」
「ん〜? 何かなカヤノちゃんっ」
「な、何でもないわよ!! ほら、行くわよ!」
「ああっ、待ってよカヤノちゃんっ」
 カヤノが飛び去っていき、リンネが慌てて後を追う。

「これから俺たち、どうなるんだ?」
 ホルンの単純な問いに、キィが微笑んで答える。
「私は、神子と定められた精霊を、再び蘇らせる力しか備わっていません。それにその力はもう、私にはありません。闇龍と戦うだけの力もない、役目を終えた私は筋書き通りなら、永久の眠りにつくはずでした。それが今こうしてホルンさんと一緒にいられるのには……まだ何かやるべきことが残されているのだと思います。それが何なのかは……これから見つけていきたいと思います」
 一旦言葉を切って、改めてホルンを見つめて、キィが言葉を発する。
「こんな私でよろしければ……ホルンさん、これからも私とお付き合いしていただけないでしょうか。ホルンさんと歩く道を、私は見てみたいです」
 キィの告白に、ホルンが返した言葉は。
「俺こそ、頼りないかもしれないけど……よろしく、キィ。そうだな……まずは帰ろう。俺たちの、俺たちが守った街、イナテミスに」
「……はい!」

 こうして、『氷雪の洞穴』を巡る事件は、収束の一途を辿ることとなった。
 彼らの前には、未だ大きな問題が立ち塞がっている。それでも、一つの問題が解決したことは確かである。
 
 また一つ、予想された未来は生徒たち自身の手で変貌を遂げた。
 そうして彼らは、自らの行く末も、自らに関わるものの行く末も、そしてこの世界さえも、変えることができるだろう。
 変えることができると想い続ける限り、未来は変わり続ける。それはかつての聖少女を巡る事件の時のように。
 
 精霊と人間の歩む道もまた、無数の可能性に満ちている。
 願わくば辿る道が、皆が幸せな未来を掴み取ることのできる道であらんことを――。
 
 ――精霊と人間の歩む道〜凍結せし氷雪の洞穴〜 完――

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

 お疲れさまです、猫宮・烈です。
 
 『精霊と人間の歩む道〜凍結せし氷雪の洞穴〜 後編』をお届けいたします。
 
 ……色々と思うところがおありのように思われますが、結果としてはこのようになりました。
 また随分と無茶やらかした気がします。そうでなくても精霊を巡っては、場外での紛争などで、色々と軋轢が生じているかと思いますので、今度の決定がまた新たな軋轢を生まないかどうか気がかりでもあるのですが……まあ、それは仕方のないことですね。
 
 精霊に関しての今後は、グランドシナリオの結果次第ですが、イナテミスでの精霊祭を行い、そこで区切りとしたいと思います。
 何せグランドシナリオ次第では、イナテミスのような小さな街如き、軽く消し飛んでしまうでしょうから(汗
 
 全体としてのコメントは以上です。
 個別にいくつかコメントを流していますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
 一部長くなってしまい、読みにくいことご了承ください。
 
 なお、今回のシナリオで神子が決定したことを受けて、該当者(レライアと契約を交わすことの出来るMCをお持ちの方)には契約についての判断を運営サポートに送っていただくよう、個別メッセージでお伝えしましたが、重要な事柄でもありますので、全体メッセージであるここにもその旨記載しておきます。
 該当者様は改めまして、契約についての判断をしていただき、運営サポートまでお知らせいただければと思います。期限はこのリアクションが公開されてより一週間とさせていただきます。
 多分な注目を浴びせることになり申し訳なくもありますが、皆様も含めましてご協力のほどよろしくお願いいたします。
 
 ちなみに、『ダークサイド』などのお遊び要素は、今回は極力排除しています。……そのつもりです。
 シナリオの雰囲気にそぐわない場合もありますからね。
 書いてもいいような雰囲気と、猫宮さんの余裕があれば、また何か始めるかもしれません。

 それでは、次の機会がありましたら、その時にまたお会いしましょう。