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【ざんすか内乱】ふっかつのしゃんばら【最終話/全3話】

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【ざんすか内乱】ふっかつのしゃんばら【最終話/全3話】

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■□■2■□■「というか、『ヴ』だけカタカナとか中途半端な名前じゃ……」

藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はくうきょうを連れて、何食わぬ顔で戻ってくる。
ナナ・ノルデン(なな・のるでん)
パートナーの魔女ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は、
ヴぁいしゃりーの元にやってきていた。
「ヴぁいしゃりー御嬢様、
本日の生贄の儀式は11時からでございます」
メイド服姿のナナは、従者としてヴぁいしゃりーにお茶を出す。
(ヴぁいしゃりーさんは御嬢様なのでツンデレなのです!
ツンデレだからこそ、デレ期が到来すれば、勝利は目前なのです!
これが私がヴぁいしゃりーさんを倒すために用意した秘策ツンツンデレデレ作戦です。
心の黒い部分を切り取ってあげればきっと真っ白なお嬢さんに違いありません)
そう考えたナナは、ヴぁいしゃりーを懐柔させようと考えていた。
「ふふ、なかなか気がきくじゃない」
ヴぁいしゃりーはまんざらでもない。
「というか、『ヴ』だけカタカナとか中途半端な名前じゃ……
 ロープ! ロープ! 死んじゃうから!」
ズィーベンはヴぁいしゃりーにサブミッションを決められつつ叫ぶ。
「うるさいですわね! 日本語文字入力的にしかたありませんのよ!」
ヴぁいしゃりーはブチ切れる。
そこに、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)がやってきて、ヴぁいしゃりーに説教を始める。
涼介は外見10歳のヴぁいしゃりーと目線を合わせるため、
ちぎのたくらみを使用して、外見が9歳になっている。
「まだ年端もいかないくうきょうちゃんを生贄に暗黒の儀式とは何たることだ。
 確かに力を欲するなら、
 時としてその闇を飲み干す位の覚悟がなければならないのは理解できる。
 特に今みたいに世界滅亡の危機である時ほど、
 力無き者は安易に闇に救いを求める。
 しかし、そんなことで得た力なんて制御できないで自滅するのがオチだよ。
 なら、今こそすべての地祇が力をあわせて絆という
 『光』でしゃんばらを復活させるときではないのか。
 もちろん、儀式には私もパートナーたちと協力はする。
 だからさ、今はくうきょうちゃんを解放してみんなで協力しようよ」
「ショタな外見のくせに理屈っぽいことおっしゃらないで!」
ヴぁいしゃりーは聞く耳を持たない。
(さすがに生贄の儀式と言うのはわたくしも許すことができませんわ。
なので、そのような外道の所業は潰させていただきます)
魔道書エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)は、
くうきょうを助けるため、周囲を警戒する。
「そういえば神子を探してるんだよね。
もし、私にその資格があるならなります。
神子になってみんなを照らす暁の光になる。もう、こんな夕闇の空は嫌だから」
ヴァルキリーのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は、真摯に訴える。
地祇のヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)も、
ヴぁいしゃりーを説得しようとする。
「ボクはまだ若い地祇なので、
 ヴぁいしゃりー様に意見するなんて生意気だけど、今は言わせてください。
 このまま街が滅んでもいいんですか。
 街が滅んでしまったらヴぁいしゃりー様も弱体化してしまうでしょう。
 そうなるのはボクは嫌だ。
 だから、今は涼介兄ぃの言葉を信じて、しゃんばら様を復活させましょう。
 じゃた様たちもしゃんばら様復活のために動いています。
 他の種族であるクレア姉ぇやエイボン姉ぇも手伝ってくれるって言ってくれました。
 後はヴぁいしゃりー様たちだけなんです。お願いです、力を貸してください」
「うるさいですわね!
 シャンバラの地祇の頂点に立つ……いえ、シャンバラやパラミタをも支配することが、
 わたくしの目標ですのよ!
 他の方々がどうなろうと知ったこっちゃありませんわ!」
ヴぁいしゃりーはそっぽを向く。

他方、七尾 蒼也(ななお・そうや)は、
マジケットで手に入れた薔薇学系同人誌でたしがんの気を引こうとしていた。
ちぎのたくらみを使用すると、自分に興味を持たれかねないと思い、
今回は普通の姿でいる。
「これをやるからくうきょうを離してくれ。
いや、俺の趣味というわけでは……地球にいる妹に送ってやろうと思って」
蒼也は、聞かれてもいない言い訳をする。
「えーなになに、まんがなの?」
「フッ、同人誌か……」
くうきょうと、アーデルハイト殺人事件の真犯人だった10歳の少女朝臣 そるじゃ子が覗き込むのを、蒼也は慌てて止める。
「くうきょうとそるじゃ子は見なくていい!
 え? ヴぁいしゃりーの分?」
(これは……俺が取っておいた百合園系の本だから渡せない)
蒼也は冷や汗を流す。
和原 樹(なぎはら・いつき)も、たしがんの気をそらそうとしていた。
(詳しくは知らないんだけど、腐がつくってことは……えーと、あれだよな。
 薔薇とか詳しいんだよな?
 いや、園芸じゃなくて恋愛の……ぼーいずらぶ略してBLとかそっちの。
 さすがに女の子には相談できないけど、
 女装っ子とはいえたしがんさんは男だし……今なら……このカオスの中なら言える……!)
必死な樹を、
吸血鬼のフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)
アリスのショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)
魔道書のセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が見守る。
(何を聞いてどういう反応をするか見物だな。
 今の樹が、そういう話題に対してどの程度耐性があるのかも気になる)
「樹兄さん、ファイト」
「だ、大丈夫なんでしょうか……」
「男同士って……合体できるものなのかっ!?」
樹はたしがんにたずねる。
「よし、じゃあ、実物を見てみるといいよ。
 蒼也君のは……せっかくだけど、あまり実践的ではないね」
「そうか? 教育的配慮からプラトニックな内容にしたんだが……」
たしがんは、蒼也に言い、自分の本を見せる。
「これは『初心者向け』の刺激の少ないやつだよ」
「ありがとう……ってぷしゅうううううう!?」
樹は全身真っ赤になって煙を吐いて倒れた。
「……俺……腐男子にはなれそうもないよ。
まさにあなたの知らない世界……」
撃沈した樹を見て、フォルクスは首を振る。
「やはりまだ駄目か……先は長いな。
まぁ徐々に慣らしていけばいい」
いずれは伴侶として身も心も手に入れて見せるとフォルクスは思っている。
「純情も兄さんのいいところだけど、フォル兄が可哀想」
ショコラッテは言う。
「フォルクスが可哀想なのは分かってるけどさ……。
だから、ちょっと努力してみようかなーとは思ってるし……でも……。
いきなりあんなの無理に決まってるだろ……!」
心臓を押さえながら樹は言う。
「あまり無茶しないでください……。
 確かにいつまでも手を出せずにいるフォルクスは可哀想かもしれませんが、
 あれは自業自得です。
 マスターが気にすることはないんですよ」
フォローをするセーフェルを、ショコラッテはモップでぐりぐりする。
大切な家族である樹とフォルクスの仲がもっと進展すればいいと思っているからである。
「フォル兄が可哀想」
再度同じことを言いつつ、ショコラッテは同人誌を拾って樹に差し出す。
「ショコラちゃん……そんな本、拾ってこないでくれ」
樹は後ずさる。
「人間の身体はこんな風には曲がらないんだぜ。
 もっとこう……」
「わー、そるじゃ子ちゃん、うまーい!」
ショコラッテの持った同人誌を覗き込んだそるじゃ子は、くうきょうに落描きを描いてみせる。
「って、そるじゃ子!?
 なぜそんな知識を!?」
「知ってるだろ。あたいは元暗殺者なんだぜ」
驚く蒼也に、そるじゃ子はハードボイルドに言う。
「樹兄さんにも教えてあげて」
ショコラッテは、そるじゃ子の描いた絵も拾って言う。
「ちょ!? ショコラちゃん!?」
「わー、待て待て!
 いくらそるじゃ子が人体デッサンがうまいからって、そんな知識は……ない、よな?」
樹と蒼也は慌てる。

そこに、東條 かがみ(とうじょう・かがみ)が、
パートナーのシャンバラ人ウィリアム・吉田(うぃりあむ・よしだ)と、
獣人ヨーゼフ・八七(よーぜふ・やしち)を連れてやってきた。
「今日は天気もいいしピクニック日和だヨー!
 そうそう、ワタシおやつもってきたからヨーゼフにもあげるネ。
 そーらそらそら」
合体の儀式の見学のつもりでやってきたウィリアムだが、
目的を忘れてヨーゼフで遊び始める。
「……」
ヨーゼフは、意味もなく口だけでおやつを受け取ろうとする。
「キャー! ヨーゼフそこだめだヨー!」
のしかかられて、ウィリアムは歓声をあげる。
「……」
ヨーゼフはウィリアムに頭をぐりぐり押し付ける。
「土着信仰には縁も縁もたっぷりある東條家跡取りな私も
 合体の儀式の見学に来てみたわけだけど、
 道中で聞いたびー、える……『BL』って言葉が気になったのよね。
 他の人に聞いてそれが「ボーイズラブ」の略語というのはわかったけど、
 男同士の恋愛……ゲイとは違うのかしら……。
 いまいちよくわからないんだけど、つまりはこういうのに『萌える』の?」
黙ってれば優男系イケメンのウィリアムと、
精悍無口な狼男のヨーゼフがじゃれあっているのを指して、かがみが言う。
「樹兄さん」
「ショコラちゃん!? なんで俺とフォルクスを交互に見てキラキラした視線を送るの?」
「ふむ、今度、おやつの時間に試してみよう」
横で、樹とショコラッテとフォルクスが漫才する。
「とても『萌え』だね。フフフ」
かがみにたしがんはうなずく。
「でもウィリアム、こないだ寝っ屁こいてた。
 しかもヨーゼフったら寝惚けて遠吠えで応えるし。
 ヨーゼフだってアレで犬だからウィリアムの臭い靴下に顔埋めてふんかふんか臭ってたりするし。
 ウィリアムも真似して自分の靴下臭って
 『くさい! これくさいヨー!!』とか涙目になってるし。
 それでも萌えられる?」
かがみは理解できない様子でたしがんに言う。
「それって、つまり、『ヘタレ』と『わんこ』っていうことだよね。
 もっと詳細を教えてくれないかな」
たしがんは食いついていく。
「い、いや確かに文字通りそうだけど……」
かがみはドン引きする。
そこに、何かすさまじいオーラをまとったクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が、
バーストダッシュで突っ込んできて、たしがんに剣を突きつける。
「あんたまでそんなことしてたらますます薔薇の学舎とタシガンのイメージがー!!」
クライスは、たしがんをがくがく揺さぶる。
「ただでさえ伝統と神秘に満ちた魔の都市が、
 ホモと変態の集まる地扱いされてるんですよ。
 もしそんな変態都市滅びた方がいいよね、
 とか思われてたらどうなると思ってるんですか!
 そんな悪評は払拭せねばいけないのに、
 貴方が自らそんな事をしてたら、
 ますます色物都市の名を欲しいままになってしまうじゃないですか!
 タシガンに住まう身としてそんな屈辱は許せません、
 貴方のその性質矯正させていただきます!」
薔薇学生クライスは必死であった。
「まずはその格好から矯正してあげます!」
「うわ、何をするんだい」
クライスは、ゴスロリ女装姿のたしがんを、
持ってきたタシガン刺繍入りの純ゴシックなブラウスとズボンのセットにむりやり着替えさせた。
クライスのパートナーのシャンバラ人サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)も、
その様子を見てうなずく。
(生贄は別にいいけど、腐男子って何よ。
 女の子でもおかしいってのに、男でBLに萌えるなんて何なの?
 おまけに女装っ子?
 そりゃたまにやるのは可愛いし義務だけど常にやるなんて
 女の子になりたいって女々しさ抜群。
 そんなになりたきゃざんすか見習って転性しなさいよ!)
サフィは、「NL至上主義者」であった。
「ゴスロリなんてあたしみたいな娘が着ればいいのよ♪」
「横暴だね。僕が着るからそのお洋服も美しいんじゃないか」
「何か文句が? それも、ちゃんと子どもらしくいい服装じゃないですか」
クライスは、爆炎波でBL同人誌とそるじゃ子の成人男性二人が抱き合う人体デッサンを焼き払い、
教育を続行しようとする。
「貴族の誇りと傲慢さとを徹底的に叩き込んで差し上げます!
 そもそもこんな本で妄想に耽るなど言語道断、
 タシガンの者ならば口を出して手を出して、妖しく時には強引にでも奪いとるべきです!
 闇魔法は許可します、タシガンは魔の都市ですから」
サフィが割り込みをかける。
「後、女の子のお願いは叶えてあげること、
 けどただ従うんじゃなくてちゃんと男の矜持を保って!」
「ええ、そうです……あれ、
 つまりヴぁいしゃりーさんのお願いを叶えて、
 くうきょうさんを生け贄にするのは正しいこと……?」
クライスは混乱しはじめる。
「よし、じゃあ、紳士的に儀式を続行しよう。
 タシガン貴族としてね。フフフフフ」
たしがんは妖しく笑う。