リアクション
「やばいじゃん!」 〇 〇 〇 宮殿時計塔の解放班は、地下に向うメンバーを送り出した後、塔へ続く扉を閉ざして最上部に集まり、相談を行っていた。 その最中に。神楽崎優子から全体への通信として、地上に人造兵器がまだ眠っているという情報を掴んだことと、敵がテレポートで援軍を送る可能性があるという連絡が届く。 すでに通信機は正常になっており、地上にいるパートナーからの連絡も届くようになっていた。 攻略隊の隊長である樹月 刀真(きづき・とうま)の元にも、パートナーの玉藻 前(たまもの・まえ)からの連絡が届いていた。刀真は電話を切らずに、ハンズリー状態で胸ポケットにしまっておく。 「地下へ向った方々は大丈夫でしょうか」 影野 陽太(かげの・ようた)は、精神状態を落ち着かせながら、銃を構えて緊急時にはいつでも狙撃が行えるよう備えておく。 「今のうちに、現在の戦力を把握し、戦闘時の連携が取りやすくなるよう隊列などを決めておきましょう」 中原 鞆絵(なかはら・ともえ)がそう提案をし、それぞれの武具の状態やスキルなどを確認していく。 バランスは良いのだが、鞆絵としてはパートナーのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の性格に不安を感じていた。 何か変な行動に出たりしなければいいが……。 「屋上から非常階段に出られるようだ」 「宮殿の北側に出られるみたい。そちらには敵は集まってないよ」 時計塔にかけられていた梯子を下りて屋上を見回っていたクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が塔へと戻ってくる。 「宮殿内に入る別の入り口もあるけれど、その先には光条兵器使いが溢れてるだろうね」 クリスティーが更にそう付け加えた。 「地下に向ったメンバーだけで騎士の解放が行えそうならば、私とパートーは今最も状況の悪い北に向かおうと思うのだけれど」 リカインが刀真に問う。 「そうですね。通信機からの情報によるとどうやら北に兵器が集中しているようですし。宮殿の調査より今は兵器の殲滅を優先した方がいいでしょう」 刀真はそう答えて、指揮官に確認を取る。 ――指揮官の意見は解放班は解放を最優先に動いてほしく、宮殿の調査を行う余裕はもうないだろうとのことだった。戦力的に余裕がるのなら早急に北の援護に向ってほしいそうだ。 「リカさん……」 鞆絵は大きく息をつく。あえて危険な場所に踏み込もうとするリカインが心配で仕方が無い。 「しかし……」 刀真が眉を寄せながら言葉を発する。 「彼らがソフィアは倒さないと言葉を発していた以上、命令としてそう刷り込まれている可能性が高いでしょうね」 「ソフィアが敵である可能性が高いと?」 クリストファーの言葉に、刀真が頷いた。 その時。 離宮に設置されていたスピーカーから声が響いてきた 「えぇっと、マイクはいってる? てすてすー、あー、あー」 それは少女の声だった。焦りのない穏やかな口調だ。 「えーっと今から諸事情により、通信機器使えるようになったんで、放送させてもらうよー、ボクはこれからソフィアくんについていくことにした。詳しいことはソフィアくんから聞いてね」 声の主が誰であるか、わかる者は少なかった。 しかし、通信機を所持し、ある程度の情報を得ている者はそれが、ソフィアとパートナー契約を結んだ、桐生 円(きりゅう・まどか)の声であること解る。 「キィィ!」 「ギャーギャー!」 続いて、奇声に気付いて窓から上空を見上げる。 空に怪鳥……いや、キメラが居た。 キメラよりも上に変わった形の空飛艇も浮かんでいる。 その後に再び、放送が流れる。 「宮殿の時計塔をご覧下さい」 ソフィア・フリークスの声だ。 「あの生物は、私達が誘った合成生物です。この離宮にはシャンバラ古王国時代の技術が眠っており、それ以上の生物を作り出すことも用意に出来ます。倒しても滅しても戦いに終わりはありません。皆様の命には終わりがありますのに」 冷静な声だった。 「私は兵器を相応しい者に渡すために、離宮に来ました。そして、邪魔となるあなた方を離宮に閉じ込めるために。降伏は認めません。ですが、同志とは共に地上に戻り、新しいヴァイシャリーを築いていきたいと思っています。まずはあなたが私の同志であることを証明してみせて下さい」 言葉は滑らかに紡がれ、離宮という閉ざされた空間に響き渡っていく。 「疲弊しきったヴァイシャリーには皆様全員を短期間で地上に戻す手段はありません。ですが、離宮を浮上させようとはしていません。皆様は見捨てられようとしています」 途端、各方面から通信機へのアクセスがある。 通信機を持っている者は僅か数十人だが、皆混乱しているようだった。 周囲に広がっていく混乱が手に取るようにわかる。 瞬時に、刀真も割り込むように通信に入り込む。 「狼狽えるな! 転送なら地上本部で転送術者を確保している、俺達がここで頑張っているように地上の奴らが頑張っている事を忘れるな!」 続いて、バスタードソードを手に、窓から身を乗り出す。 「地上と周りにいる仲間と自分を信じて突き進め、俺達は必ず帰れる!」 上空を飛ぶ、キメラにアルティマ・トゥーレを放ち、羽を凍らせる。 キメラが1匹、屋上へと落ちてくる。 「援護します」 陽太が窓から銃を落ちたキメラに向けて、その足を撃ちぬいた。 「この程度の宣告で折れると思っている奴らの鼻をあかしてやろうぜ?」 刀真は梯子に手をかけて、飛ぶように下りていきキメラの元に飛び、その首にバスタードソードを叩き込んだ。 続いて、通信機から東塔にいる永谷の声が流れてくる。 「俺の手元には、地図データがある。これを解析すれば、地上へ帰るルートも、きっと見つかるぜ。だから、心配しなくても大丈夫」 更に、神楽崎優子の声が続く。 「両名の言う通りだ。敵が援軍を送り込むというのなら、ヴァイシャリーもまた援軍を送ってくれるだろう。確かに直ぐに全員で戻る手段はないかもしれない。だが、最初から我等の役目は離宮に眠る兵器を破壊し、地上を守ることでありそれに何も変わりはない。この場を切り抜けること、それ以外に生還の方法はない」 「わかったなら返事をしろ、不安があるならそれを吹き飛ばす為にこの時計塔に聞こえる程の大声でな!」 刀真が剣を振るいながら大声を上げる。 通信機はまだ混乱しているようだ。 だが、それは悪い意味の混乱ではなく、我先に鬨の声を上げるための回線の混乱のようだ。 隊長、班長から現場の隊員達に通信機の言葉が大声で隊員達に語られていく。 先に通信の回復の連絡もいっていたことから、大きな混乱は起きなかった。 |
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