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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

リアクション

 
 
 水面下の戦い 
 
 
「またパラミタでな」
 ロンドンのヒースロー空港まで一緒に来たウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、そう言って離れてゆく。
 それを見送った後、ティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)、そして志位 大地(しい・だいち)は共に歩き出した。
「って、なんでっ! あなたが一緒に来るんですかねぇ!」
 途端にスヴェンが大地に目くじらを立てる。
「何でって、ティエルさんに家に誘ってもらったから」
「そんなの社交辞令に決まってるじゃないですかっ! それにのってのこのこ来るなんて、めでたすぎやしませんかっ?」
 スヴェンは、ティエリーティアが実家に帰ると聞いて、親御さんに挨拶したいと本気で頼み倒し、やっと同伴の許可を貰ったのだ。なのに、どうして宿敵、暫定彼氏の大地まで一緒なのか。
 怒り心頭のスヴェンをティエリーティアは不思議そうに見た。
「スヴェンったら、何を怒ってるんですか?」
 大好きなティエリーティアには嫌な顔は見せられない。スヴェンは途端に表情を和らげる。
「い、いえ。何でもありません。ではティティ、行きましょうか」
 さっとティエリーティアの隣に並び、スヴェンは促した。その反対側にいる大地のことは考えないようにと自分に言い聞かせながら。
 
 ティエリーティアの本来の実家はドイツのブランデンブルク州だが、父が貿易関係職であるため、数年スパンでEU各国を渡り歩いている。現在の拠点はここロンドンだ。
「かあさまー! ただいま帰りましたっ!」
 ワンピースにジーンズ、首にはレースのショールをひらひらさせてティエリーティアが家に駆け込む。
「ティティ〜! おかえりなさい!」
 母のイングリッド・シュルツもティエリーティアに負けないテンションでそれを迎えた。今年で45歳のはずだけれど、可憐な見た目と童顔でとてもそうは見えない。ティエリーティアと並ぶとまるで姉妹のようだ。
「はじめまして。俺は志位……」
 言いかけた大地を遮って、スヴェンがさっと前に出た。
「お母様、ご無沙汰致しております。こちらパラミタのお土産です、召し上がって下さいませ」
「ようこそスヴェン。お土産嬉しいわ、ありがとう」
 すっかり先を越された感の大地だが、めげてはいけないと心を励まして自己紹介する。
「はじめまして。志位大地と言います。ティエルさんとはとても親しくさせてもらっています」
「まあそうなのー。ティティのこと、これからもよろしくね〜」
「は、はいっ! それは勿論」
 これで母親公認の彼氏になれたと天にも昇る気分の大地には、良いお友達ができたわね、とティエリーティアに話しかけているイングリッドの言葉は耳に入らないのだった。
 
 荷物を置いて一休憩すると、ティエリーティアは母親孝行をと、イングリッドの好きなショッピングに出かけることにした。無論、大地とスヴェンも同行を申し出る。
「かあさまとお出かけするの、久しぶりですねー」
「ええ。あらこのドレス、ティティに似合うんじゃないかしらー」
 デパートの婦人服売り場で、イングリッドは可愛いワンピースやドレスを取っ替え引っ替え、ティエリーティアで着せ替え遊び。そんな楽しそうな親子と裏腹に、大地とスヴェンはこっそり火花を散らす。
「なんであなたまでついて来るんですかね。大人しくパラミタで留守番していればいいものを」
「その言葉、そっくりあなたにお返ししますよ。ふふ、伊達にパラミタでティティと一緒に生活しているわけではありません。今のうちに逃げ帰った方が良いのではありませんか?」
 ふんと鼻を鳴らすと、スヴェンは人を逸らさぬ笑顔でティエリーティアたちを振り返った。
「お荷物持ちますよ。それと飲み物はいかがですか?」
「飲み物なら俺が!」
 負けじと大地もティータイムで対抗する。もともと大地がバトラーの技を身に着けたのは、極度の天然ドジっ子ティエリーティアのフォローをする為。ここで使わずしてどうする、というものだ。
 そんな2人が水面下で熾烈な戦いを繰り広げているのには気づかず、イングリッドはにこにこと2人を眺めた。
「あらー、なんだか息子が2人もできたみたいねー」
 男の子もいいものね、と言った後、ちょっと頬に手を当てる。
「かあさまももうちょっと頑張れば良かったかしら?」
「それなら俺を息子だと思って……痛っ」
 スヴェンに脛を蹴飛ばされ、大地は呻いた。
「大地さん、どうかしたんですか?」
 心配そうなティエリーティアをスヴェンは、いえいえと押し留める。
「気にすることはありません。ほら、あちらにティティに似合いそうなアクセサリーが」
「あら本当だわー。ティティ、ちょっと見に行ってみましょうよー」
 即座にのせられて、イングリッドはティエリーティアを連れてアクセサリー売り場へと行ってしまう。
 けれど大地もただでは転ばない。素早く2人の買い物の様子を観察し、ティエリーティアの指輪のサイズをさりげなくチェックしてみたり。
 そうしてひとしきりティエリーティアとイングリッドが買い物を楽しむと、食事もついでに外ですまそうという話になった。
 ぱっと見れば和やかな夕食の風景。
 よーく見れば、テーブルの下で大地とスヴェンの蹴りあいが行われていたり、スヴェンに紅茶に塩を入れられて、あやうく大地が吹き出しそうになったり、なんて戦いはやはり繰り広げられていたのだけれど。
 心からにこにこしているティエリーティアとイングリッド。
 水面下を見せないように、笑顔で覆っている大地とスヴェン。
 笑顔溢れる夕食は、大好きな人と囲める楽しい食卓であり、また、ライバルと抗争を続ける戦場でもあったのだった。