校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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お楽しみはお預け☆ 山形にある田舎の駅を出ると、夏野 夢見(なつの・ゆめみ)はこっち、とフォルテ・クロービス(ふぉるて・くろーびす)を案内しながら歩き出した。 「お土産十人前も持たせちゃってごめんね。親戚に近所づきあいに、いろいろあるの」 昔ながらのつながりが生きている場所だから、と言う夢見にフォルテは、これくらい何でもありませんよと両腕にかけた袋を軽く掲げた。普段のおしろいメイクはなしにして空京で誂えたスーツを身に着けたフォルテは、普段と比べてとてもきっちりとして見える。やはり、夢見の父親に会うのだから礼儀は必要だろうからと、フォルテなりに考えてのことだ。 「うちはね、雑貨屋さんをしてるの。1階がお店で2階が家になってるんだよ」 豪邸に住んでいるかと思った? と夢見はフォルテに笑いかけた。以前、乳母や従業員の話をしたことがあったからだ。 「大手デパートが出来てからは、お店はあんまり儲かってないみたいなんだけど、この辺りはほら、お店が少ないでしょ? 車がないお爺さんお婆さんは買い物が大変なんだよね。だからほっとけないんだ」 「土地に根ざしたお店なのですね」 「お客さんに便利だなって思ってもらえたら嬉しいなって。家はね、昔ながらの造りなんだよ。パラミタとは随分違うんじゃないかな。裏口には土間があるし、縁側もあって地球を出る前は近所の猫がひなたぼっこに来たりしてたんだ。今はどうなんだろ?」 裏庭はどうなっているのか、誰か雇って手入れさせているのかとあれこれ実家の様子を気にする夢見を、フォルテは目を細めて見やった。 夏野商店の閉店時間まであと少し。 先に2階に上がった夢見は、まず仏間に向かった。 「お仏壇のおじいちゃんやおばあちゃん、ご先祖様にもちゃんとご挨拶するんだよ」 夢見はフォルテにやり方を教えると、2人で仏壇に手を合わせた。 「お母さんは今年のお盆も家にいるのは無理みたい。営業で世界を飛び回っているんだ」 電話はメール、お土産は送ってきてくれるけれど、なかなか家には帰ってこられない。うちの一番の稼ぎ頭はお母さんだと夢見は笑った。 「となると、今日の顔合わせはお父さんと、ということですね」 「うん。お父さんはそんなに頑固じゃないと思うんだけど、くれぐれも失礼の無いようにね」 初めての顔合わせ。第一印象は後々まで影響するだけに、うまく行って欲しい。 そんな祈るような気持ちと共に待っていると、仕事を終えた夢見の父親、夏野 仁史が戻って来た。 「待たせてしまったようだねぇ」 片付けが長引いて、と詫びながら部屋に入ってきた仁史に、夢見はさっそくフォルテを紹介する。 「お父さん、この人が前からお話してたフォルテさんよ。見た目もかっこいいけど、気が利くし、いざというとき守ってくれる強さもあるの。背中の羽は伊達じゃなくて、空だって飛べるのよ」 途中から、紹介というよりは自慢になってしまっている夢見に、仁史は笑みを漏らした。 夢見に視線で促され、フォルテはそんな仁史にはじめましてと頭を下げ、ヒラニプラで買ってきた特産品の手土産を差し出した。 「これはこれはご丁寧に。夢見の成人祝いも兼ねて、料理と酒を用意してあるんだ。一緒に食べよう」 仁史はその土産を大切そうに受け取ると、2人を食卓へと促した。 「夢見は甘いお酒が好きなんだよねぇ。缶入りのリキュールを用意したんだ。フォルテ君はビールで大丈夫かな?」 「はい、いただきます」 夢見の成人を祝って乾杯した後、料理をつまみながら歓談する。話は夢見のパラミタでの暮らしぶり、そして自然とフォルテとのことにも及ぶ。 「2人はどうやって出会ったんだね?」 「それは……」 ナンパして、とはさすがに言い辛い。合コンで、ということにしてフォルテは話した。 「折角の夏休み、うちになんて来ていていいのかい? 家で誰か待っているんじゃないのかな?」 「いえ、私の両親は既に他界しています。こう見えても結構な歳でして」 仁史よりも遥かに年上、というのは言わずにおく。 そんな話をするうちに、酒も料理も順調に減ってきた。 そろそろ、と心を決めたフォルテは改まって仁史に向き直る。 「今日こちらに来たのは、お願いがあってのこと。どうか……どうか、夢見さんを私に任せていただけませんか」 「お父さん、フォルテと結婚させて! お願い!」 真剣な2人を仁史は見比べた。育ってきた環境も種族も違う2人だ。けれど。 「夢見の選んだ相手なんだから、夢見の好きにすれば良いと思う」 娘の相手なのだから娘の意思が一番だと言う仁史に、夢見は飛びついた。 「ありがとう、お父さん!」 「ただ、うちの家族になるからには、地球に来ている間は店を手伝ってもらうぞ」 「はい。それはもちろん手伝わせていただきます」 「よろしく頼むよ。おお、あとそれから……」 仁史は茶目っ気たっぷりに付け加えた。 「泊まる部屋は用意したが、別々だ。お楽しみは式を挙げてからだな!」 「お父さんってば!」 真っ赤になった夢見に、仁史はわっはっはと豪快な笑い声をあげるのだった。