校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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私の故郷 空港から列車とバスを何本も乗り継いで。 そうするうちに周囲からは車も家も減ってゆき、やがては広大な畑が続く風景となった。 バスを降り、両側に畑を見ながら歩いて行くその先にロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の家はあった。 「ただいま帰りました」 玄関を開けると、キッチンに立っていた母が笑顔で振り返る。 「お帰りなさい。もうすぐミートパイが焼けるわよ」 ミートパイは母の一番の得意料理で、お祝いの時には決まってこの料理が出る。今日はロザリンドが帰ってくるというので、このパイを焼いてくれたのだろう。 「お父さんはまだ畑なのよ。帰ってきたばかりで悪いけど、呼んできてくれる? この時間なら多分、麦まきの準備をしているんじゃないかしら」 「はい。いってきます」 ロザリンドは荷物を置くと、さっきから待ちきれないように尻尾を振っている飼い犬のレトリバーを連れて畑へと向かった。十数歳になるレトリバーは、ロザリンドが物心ついた頃から家族の一員だ。 犬を散歩させながら母が言っていた麦畑の方に歩いていくと、声をかけるより先にロザリンドに気づいた父が作業の手を止めてやってきた。日焼けした肌、麦わら帽子と首にかけたタオルが似合う父は、いかにも農家のおじさんという格好だ。体格が良くて、父母が並ぶとまるで熊とリスが並んでいるようだとロザリンドは思ったものだ。 「ロザリーお帰り。元気にやっていたか?」 くしゃくしゃと顔をゆがめる父に帰宅の挨拶をすると、ロザリンドは母のミートパイが焼きあがることを伝えた。 畑から帰ってきた父と共に、母特製のミートパイでの食事。 しばらくぶりの家族団欒のひとときだ。 ロザリンドはパラミタでの出来事を進んで家族に話した。 世界樹で自転車レースをしたこと。 古代遺跡で皆が集めてくれた情報を整理したり、女王復活の儀式に参加したりしたこと。 絵本図書館のお手伝いをしたり、巫女さんの真似事をしたりしたこと。 ロザリンドの話に、両親は興味深く耳を傾けてくれた。 「その衣装を着ていた写真を撮ってくれたらよかったのに」 母はにこにことロザリンドの話を聞き、何度も、怪我とか危ないことはしていないかと心配した。 そんな母には聞かせられなくて、ロザリンドは母が食器の片付けのために席をはなれたときを見計らって、父にだけ打ち明けた。 「……向こうでは争いがあり、何人もの命が失われています。私も、守りたいもの、守るべき人がいて、戦いをしています……多くの血と命を、この手で失わせているのです」 ロザリンドは自分の手を見た。もうこの手は母のようにミートパイを作る手でも、父のように作物を育む手でもなくなってしまった……。 「いつか私も同じようになるかも……ひょっとしたら、もう帰って来られないかも知れません」 そう告げると、そうか、と父は黙りこんだ。ロザリンドは続ける。 「ですが、そうであっても私の成してきたこととその結果だと、誇れるようでありたいと頑張っています」 父はそんなロザリンドをじっと見つめ、やがて口を開いた。 「それが良い事か悪い事か俺には分からん。だが、そう願い行動するなら、後悔しなければそれがお前にとって正しい道なのだろう」 「……ありがとうございます」 自分にもまだ、何が良くて何が悪いのかは分からない。けれど、そう言ってくれた父の為にも、パラミタでまだやっていこうとロザリンドは心に決めた。 そこに母親が手を拭きながら戻ってくる。 「あら、真剣な顔をして何のお話?」 そんな母にロザリンドはちょっと恥ずかしそうに告げた。 「好きな人ができました」 「あら素敵ね。それでどんな人なの?」 興味津々に尋ねてくる母に、ロザリンドは自分の心にある人……桜井静香校長のことを話して聞かせるのだった。