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リアクション
「乙女としては、最新のトレンドはチェックしておくべきだと思うの」
どこかに良いスケッチポイントはないかと雑誌をめくっていた白菊 珂慧(しらぎく・かけい)に、ヴィアス・グラハ・タルカ(う゛ぃあす・ぐらはたるか)が身を乗り出すようにして言ってきたのは午前中のことだった。
指していたのは首領・鬼鳳帝のことで、これは珂慧も気になっていたので様子を見に、一緒に家を出た。
財布を連れ出せた!
と、密かにヴィアスが喜んでいたのは彼女だけの秘密である。
不良といえばゲーセンだ、とヴィアスが言うのでここに来た珂慧。
確かに不良はいっぱいいた。
パラ実生やハスターが。
店員はペンギンゆる族で、同じハスターが警備にあったっているのが、入ってすぐにわかった。
大きくて種類もたくさんあるそこに、ヴィアスは笑顔になり、さっそく音ゲーの機体へと駆け寄る。
「白菊、早く早く!」
「はいはい」
コイン投入口にお金を入れると、ヴィアスはリズムに乗って上手に鍵盤を押していく。
四天王狩りをしたり、首領・鬼鳳帝の繁盛のせいでキマク商店街が寂れたりで、ハスターに反発心を抱く者もいるようだが、珂慧には特にそういった感情はなかった。
(今までキマクの人やパラ実生が築いてきたものを一気に否定しに来てるから、反抗されるんだよね……)
あんなふうに。
と、ペンギン店員に絡んでいるパラ実生を横目に思う。
キマクに住む者としての誇りはないのか、と言っているようだ。
そこに警備についていたハスターが割って入った。
どうするんだろう、と興味津々に見ていれば、ハスターはすぐに仲間を呼び、大声を出しているパラ実生を取り囲んであっという間に追い出してしまった。
野次馬していた客に被害はなし。店の機材も無傷。この場で、騒いだパラ実生に暴力を振るったわけでもない。……外ではどうなってるか知らないが。
珂慧はゲームに夢中になっているヴィアスからそっと離れると、近くにいたハスターに今の件について聞いてみた。
「うまく追い出したね。ああいう人、よく来るの?」
「しょっちゅうじゃねぇけどな。騒がしたな」
「別に……」
四天王狩りなんてやってるハスターだが、聞いた通り一般のパラ実生やキマクの住人には何もしない──それどころか気さくなようだ。
「きみ達のトップの蓮田レン君って、どんな人?」
「おっ、頭か? あの人は数々の伝説を打ち立てたすげぇ人だ。まだ勢力が小さかった頃、あの人がちょっと離れたところから敵勢を睨んだだけで退けたことがあったんだぜ! そんであっという間に渋谷を、日本を統一したんだ」
男は憧れに目を輝かせて熱心に話した。
「カリスマ性があるってことかな……?」
「それだ! あの人はまさに神だ!」
かなり崇拝している様子だ。
珂慧は礼を言ってヴィアスのところへ戻った。
そこではゲームオーバーになったヴィアスが、頬をふくらませて待っていた。
「どこ行ってたのよ! 我の素晴らしさ、見てなかったわね?」
「あ……うん」
「まったくもう。あれを」
と、プリプリしながらキャッチャーゲームを指差すヴィアス。
「あれで、我の欲しいぬいぐるみを取ってくれたら許す」
「……了解」
珂慧がヴィアスの望むぬいぐるみを手に入れた頃には、だいぶ財布が軽くなっていたとか。
それから珂慧は、忘れないうちにさっき見たことや聞いた話、ゲーセン内の様子を知り合いのパラ実生に送った。
秋月 葵(あきづき・あおい)とイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)も首領・鬼鳳帝に遊びに来た口だった。
誘ったのはイングリットだが、葵も四十八星華劇場に行ってみたかったので、ゴスロリ服に着替えて出かけた。ちなみにイングリットはろくりんピック東シャンバラの公式ユニフォームという活発な姿だ。
劇場は上の階にあるので、まずイングリットの希望の食品フロアから見て回ることにした。
入口付近で、暴れるパラ実生が警備の男達につまみ出されていくところに出くわしたが、それよりも店内に興味のある二人は、たいして気にもとめずに目的の場所へと急ぐ。
迷路みたいな店内を、時々会うペンギン店員に道を聞きながらようやくたどり着いたお菓子コーナー。
どこを見てもたくさんのお菓子に、イングリットの目がお菓子の袋になる。
葵はと言うと、初めて来た首領・鬼鳳帝に口を開けっ放しだった。
「空京のデパートみたいなのを想像してたよ……」
一言でいえば、商品詰め込みすぎ。
もし地球のよく似たチェーン店に行ったことがあったなら、ここのほうが無茶をしていることに気づいただろう。
葵が圧倒されている間に、イングリットは買い物籠をいっぱいにしていた。
「ねぇ葵、イングリットね〜、サッカー部にも入ったからボール欲しいにゃー」
「え、あ、うん。ボールね! えーと、どこにあるのかな……店員さーん!」
すでに自分がいる位置の把握も怪しい葵は、一番頼りになる店員を呼んだ。
近くにいたのか、迷子用に控えていたのかは謎だが、少しするとどこからともなくペンギン店員がやって来た。
スポーツ用品売り場に行きたいと告げると、こちらです、と二人を導く。
「みんな、ここで迷子にならないのかなぁ?」
「お客様のように困ってしまわれる方もおりますが、パラ実生の方は迷路攻略だと燃えていらっしゃるようですよ」
「そうなんだ〜」
そう考えれば、確かに楽しめるかもしれない。
スポーツ用品売り場に着くと、買い物籠を葵に預けたイングリットがすぐにサッカー用品コーナーを見つけて駆けていく。
葵が追いついた頃には、イングリットは長い尻尾を揺らしてどのボールにしようかと真剣に選んでいるところだった。
珍しそうに周囲を見回しているうちに、イングリットはボールを決めたらしい。
一変していつもの元気な笑顔で葵の前に立っていた。
「もういいの?」
「うん。さ、次は劇場行くにゃ〜。待たせてしまったにゃ」
「大丈夫だよ」
イングリットの気遣いに思わず葵に笑顔がこぼれた。
会計を済ませてエレベーターで向かった最上階。
そこに秋葉原四十八星華劇場がある。
どうやら急遽公演が決まったらしく、チケットを求める客で賑わっていた。
グッズ販売店では親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)がバイトしている。
何があるのかと覗き込む葵。
何人か挟んだところでは、高木圭一も熱心に見ていた。彼がいるところは、デビュー公演の時の写真で作った絵葉書コーナーだ。
「いっぱい買ってってよ。割引きはできないけどね」
茶目っ気たっぷりに客に声をかけている卑弥呼。
そんな彼女の今の目標は、四十八星華メンバーに入ること。
カラオケボックスで歌の練習もしている。
だが、卑弥呼の目指すゴールは四十八星華入りではない。
(デビューしたら董卓さまに……)
長く別れたまま、いつ会えるかもわからない相手を、卑弥呼は一途に想い続けていた。
グッズ販売店以上に列が出来ているのは、もちろんチケット売り場だ。
ここではガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が働いていた。
あまりアイドルに興味はないガガだったが、弁天屋 菊(べんてんや・きく)がメンバーのため、諦めて付き合ったのだ。その菊は、今頃はハスターやペンギン店員へ弁当配達に行っているはずだ。
「三人で公演なのか?」
「急に決まったからね。でも、他のメンバーの分もがんばるって気合入れてたよ。……どうする? 目当ての子がいないんだったら無理に買ってくれとは言わないけど」
「買うに決まってるだろっ。後で奴に自慢してやるぜ」
「よかったら、その人も呼んでよ」
「気が向いたらなっ」
たまにこんな会話をしながらガガはチケットを売っていった。
チケット売りはいいんだけど、とガガは思う。
イリヤ分校に設置したいと願い続けているバイオエタノール精製機に必要な部品がここにあればと、早めに来て店内を見て回ったのだが、あいにくそういった専門のものは扱っていなかった。
(ま、あんまり期待はしてなかったけどね)
それでも、がっかりしたことには変わりなくて。
けれど、目の前にはチケットを求めるお客さんがいっぱいで。
ガガはひとまず差し出された代金に間違いがないか数えた。
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